ラストタンゴ・イン・パリ(1972)

原題は「Ultimo tango a Parigi」(パリ、最後のタンゴ)

英題は「Last Tango in Paris

公開当時から性描写が議論にな

近年になってからも強姦シーンが女優の同意を得ず撮影されたと騒ぎになり

ベルナルド・ベルトルッチ監督が「ばかげた誤解だ」と反論したそうですが

ベルトルッチの言う通りだと思います

72年の頃ならともかく、今見るとたいしたことない(笑)

問題のアナルセックスも、マーロン・ブランドさま

きっちりズボンを履いていてリアルでないことがまるわかり

おケツ出を出すのも(しかもクレヨンしんちゃん並 笑)

タンゴの審査委員のおばちゃんに怒られた時だけ

この映画ほど、監督の意図と、演じた俳優と

観客の気持ちがバラバラの作品はないかも知れません

20歳の女優ジャンヌはディレクターのトムと付き合っていて

ふたりで住むためのアパートを探していました

見学に入った1室で、謎めいた男ポールと出会い抱かれてしまいます

それからお互い名前も知らないまま

その空き家でセックスを繰り返すようになるのです

ポールの妻ローザは自殺していました

血だらけの浴室、ローザの母が泣き崩れる

ローザはポールの他に、経営するホテルに愛人を囲っていました

ポールと同じガウンを着て、ポールと暮らすのと同じように

愛人とも過ごしていたのです

さらに遺品の中から、大人のおもちゃ、外国のお金

神父のカラーなどが見つかったようです

一体何人の男と付き合っていたのか

売春婦に部屋も貸してもいました

売春婦はローザが古くからの友人だと言います

妻はいったい何者だったのだろう

自分は妻の何を知っていたのだろう

愛されていると思っていたのに

愛していたのに

ひとり彷徨い迷い込んだアパート

ポールがジャンヌとSM的な行為をするのは

妻を知るためだったと思います

そしてジャンヌのマゾヒズムも目覚めてしまったのです

しかしある日突然ポールが姿を消してしまいます

ジャンヌはポールを必死に探すも名前さえ知らない

そこで婚約者のサムをアパートに呼び、ここで暮らそうといいます

そうしたら再びポールに会えるかも知れない

でもサムは「こんな古くてカビくさい部屋」と断ります

新婚の若い男女が暮らすような場所じゃない

劇中でサムが「L'Atalante」 (アタラント号)と書いた浮き輪を

川に投げ捨てるシーンがあるのですが

アタラント号」というのは1934年に公開されたジャン・ヴィゴの映画

アタラント号」に乗ってパリに新婚旅行にやって来た若い夫婦でしたが

妻が男にそそのかされ、パリの華やかさの虜になってしまうもの

これらがすべて伏線になっていて

新しい波に、古い船(古典的な手法の映画)は沈められ

ヌーベルヴァーグの時代がきたということ

男性主権の古い男はポール

ヌーベルヴァーグの男はサム

ラスト・タンゴ・イン・パリ」のタイトルは

男女がペアを組み、決まったステップで踊るタンゴは

古い映画の決まり事と同じ

それを今日パリで終わらせよう

ベルトルッチの、新しい波への挑戦

映画の歴史のひとつを変えたのが、この作品ではないでしょうか

世間知らずの娘にとって、謎めいた大人の男は魅力的だった

支配されるセックスにも夢中になった

だけどあっという間に熱は醒めてしまった

なぜあんな男を好きになったのだろう

そのとき(妻の死を乗り越えた)ポールが戻ってきます

幻想が消えた今、目の前に立っているのは

人生に行き詰まった薄気味の悪いただのハゲの親父

 

「君を愛している」

「もう終わったの」

「終わって、また始めよう」

それでも酒に酔えば、最初の気持ちに戻れるかと思った

でも陳腐でつまらない口説き文句に飽きれたジャンヌが立ち去ろうとすると

ポールがストーカー化、ジャンヌは恐怖を感じます

 

ジャンヌが逃げ込んだ部屋で、ポールはジャンヌを掴まえ

彼女の耳元で自分の名前を伝えようとしたその時

銃声が響いたのでした

「知らない人が入ってきたんです」

「名前も知りません」

「私をレイプしようとしたんです」

 

ジャンヌはポールの死体を前に

警察へ通報するためのリハーサルをするのでした

カメラはヴィットリオ・ストラーロ

こうして切り取られたワンシーンだけを見ても

あらためて素晴らしい

 

なぜこの美しさに目を背けようとする人がいるのか

私にはわかりません

 

 

【解説】ウィキペディアより
ラストタンゴ・イン・パリ』(伊:Ultimo tango a Parigi、英:Last Tango in Paris)は、1972年のイタリアのドラマ映画。監督はベルナルド・ベルトルッチ、出演はマーロン・ブランドマリア・シュナイダーなど。ある男女の情熱的な性愛を通じて人間の欲望の本質に迫った、大人のラブストーリーである

1970年代前半の映画にして大胆な性描写(一般映画として、アナル・セックスの描写がある初の映画と言われる)が世界中に物議を醸し、本国イタリアに至っては公開後4日にして上映禁止処分を受け、日本でも下世話な話題ばかりが先行し、当時の興行成績は芳しくなかった。反対に支持者も多く、ミッキー・ロークはこの映画の大ファンであり『ナインハーフ』を作るきっかけになったという。主演のマーロン・ブランドにとっては辛い映画であり「役者として拷問のような体験だった」と語っており、私生活でも泥沼の裁判劇のあげく敗訴という憂き目に遭った。ヒロイン役のマリア・シュナイダーに至っては波乱万丈の人生を余儀なくされ、この映画に出演した事を「人生最大の痛恨」と語っている。しかし両名の演技の評価は高く、特にブランドの中年男の悲哀感をたっぷりにじませた迫真の演技は圧倒的なものであり、本作でブランドはニューヨーク映画批評家協会賞を受賞している。当初はドミニク・サンダがヒロイン役として考えられていたが、妊娠のため降板した。映画冒頭ではフランシス・ベーコンの絵画が2点起用されており、主人公達のコスチュームデザインもベーコンの絵画から作られている。2016年、ベルトルッチが2013年に応じたインタビュー動画が公開され、その中でレイプシーンの撮影はマリア・シュナイダー告知せず、了承を得ないで行われていたことを明らかにした。ベルトルッチは自身とブランドがシュナイダーに詳細を言わないままレイプシーンを撮影する計画を共謀したと告白、「罪悪感はあるが後悔はない」と述べた批判的な反響が巻き起こり、ベルトルッチは12月5日に声明を発表。脚本に強姦場面が含まれていることはシュナイダーも事前に知っていて、知らせなかったのはバターを使うという点だけだったと説明し、実際の性行為はなかったと反論した