河内山宗俊(1936)




三本しか現存していないという山中貞雄監督作品のなかのひとつ。
三本しかない作品のなかでは一番評価が低いようですが。笑
それでも物語がはじまってすぐ、名作の香りがプンプンとします。

甘酒屋を営む娘、お浪。
彼女はやくざの世界に足を踏み入れている弟の広太郎が心配でなりません。
そんなお浪を気にかけ、ショバ代も彼女からだけ取らない用心棒の金子。
(お浪の弟だとは知らず)広太郎を可愛がるやくざの宗俊もまた
弟の行方をさがすけなげなお浪を気にかけます。

宗俊と遊びに行った吉原で、広太郎は幼馴染のおみつと出逢います。
吉原を脱走したおみつを助けようとした広太郎。
そのことで広太郎はお尋ね者となり
おみつの身請け金300両の支払いを請求されてしまうお浪。
もちろんそんな大金はありません。
お浪は身売りする決心をします。

そんなしがない姉弟を、助けようとするやくざがふたり。
すべては何も考えず自分勝手な行動をした広太郎がすべて悪いのです。
なのになぜ宗俊と金子はこんな馬鹿な弟のために命まで懸けたのか・・

広太郎の姿は若かりし日の自分なのです。
そしてお浪はかって心配させ苦労をかけた母親の姿なのです。
じぶんのしてきた悪行で
どれだけお母さんに迷惑かけたことだろう、泣かせたことだろう・・
そんな後悔の念が蘇ったのです。
ならば最後には人助けをして死のう。

お浪と広太郎を助けること
それは自分を救うこと。

小柄の競りなど楽しいエピソードもたくさんありましたね。
オトボケなお侍さんコンビがいい感じで作品にユルさを出していました。

ラストに流れるのはチャイコフスキーの「ロミオとジュリエット
これは広太郎とおみつのためのテーマ曲なのかなと思いました。
ふたりの出逢いのあとのシーンは当時の検閲により切り取られたそう。
もしもオリジナルを見ることができたなら、この作品の評価も
私のレビューもまた違うものになることでしょう。

それでも情緒溢れる映像に、思いやりとやさしさがある人情ストリー
綺麗な女性、粋で男気、テンポがよくコミカルで楽しい
さすがのフルコースでございます。

ごちそうさまでした。



【解説】NHKオンラインより
その日暮らしのやくざ者、河内山宗俊と金子市之丞。2人にとって甘酒屋の清純な娘お浪は心のよりどころだった。しかし、お浪は弟の借金のために身売りすることになり、2人は彼女を救うため命をはって立ち上がる…。サイレント期からトーキー初期の短期間に活躍し、不世出の天才とうたわれた山中貞雄監督が、講談や歌舞伎の題材をもとに描いた人情時代劇。若き日の原節子がヒロイン役で可憐(かれん)で初々しい姿をみせる。