父と暮せば(2004)




「あんときの広島は死ぬるのが自然で、生き残るのが不自然なことやったんじゃ」


井上ひさしさんの舞台劇ということですが
映画のほうも舞台のお芝居をみているような感じですね。

ヒロインの宮沢りえさんは、どんな役柄でもどこか痛々しくて
見るのが辛い女優さんですが、この作品はとてもいい。
戦後の食糧難ならばこんな華奢な女性も多かっただろうし
オードリー・ヘプバーン風の髪型や洋服もシンプルながら品がよくて。

原爆投下から3年後の広島。
図書館に勤める娘の美津江にはどうやら好きな男性が現れたよう。
これはこれはと、この恋をぜひとも成就させたい竹造。
しかし美津江はそのことを頑なに否定します。

原爆でたくさんの人が痛みにもがき死んでいったのに
自分だけは幸せになれない、そう思っているのです。
生き残ってしまった苦しみ。

そんないつまでも、うじうじと悩み
前に進めない娘を死んだ父親が幻となって現れ叱咤激励するのです。
生き残った者には死んだ者の分も生きるのだと
戦争の体験を伝える使命があるのだと
そう励まします。

物語が始まってすぐに
このお父さんは死んだ人ではないかしら?と思いましたが
やはりそうでした。

私も家族がみんないなくなってしまい、ひとり取り残されたなら
自分が生き残った後悔の念にかられ、一歩も前に進めないと思います。
それこそ亡霊でいいから家族が現れて暮らしてくれて
励ましてくれなければ生きていけない。

愛する人を亡くしてしまい、残されてしまった人間の後悔・・
そんな心情がよく伝わってきます。

命の残された人間には、ずっと生き延びてほしい
未来を築いて欲しい、そういう願いも。

ヒロインが団扇を使って昔話をする姿はチャーミングでしたね。
(もしかしたら本物の発音とは違うかもしれないですが)
おっとりとした広島弁がとっても可愛くて癒されます。

二人芝居なので、展開としては退屈に感じるところも多いのですが
強いメッセージは的確に伝えられていると思います。

「原爆瓦」や「原爆症」は私の世代でも知らないくらいですもの。
美術もリアルで戦後の広島についてとても勉強になりました。



【解説】allcinemaより
戦後の広島で、原爆から独り生き残った後ろめたさから自らの幸せを拒否して生きる娘と、幽霊となり彼女の恋を懸命に後押しする父との4日間の交流を優しく綴ったヒューマン・ドラマ。井上ひさし原作による名作舞台を映画化。「TOMORROW 明日」「美しい夏キリシマ」に続く黒木和雄監督の“戦争レクイエム三部作”完結編。主演は宮沢りえ原田芳雄。共演に浅野忠信
 昭和20年8月6日、午前8時15分、広島に原子爆弾が投下された。それは一瞬にして多くの命を奪った。3年後の広島。図書館に勤める美津江も、愛する人たちを原爆で失い、自分だけが生き残ったことに負い目を感じながらひっそりと暮していた。そんな彼女はある日、図書館で一人の青年、木下と出会う。2人は互いに惹かれるものを感じるが、美津江は“うちはしあわせになってはいけんのじゃ”と自らの恋心を必死で押さえ込んでしまう。見かねた彼女の父・竹造は幽霊となって姿を現わし、“恋の応援団長”を名乗り懸命に娘の心を開かせようとするのだが…。