松竹120周年記念映画で
2010年に亡くなった井上ひさしさんに捧げた作品
「父と暮らせば」の広島を扱った、被爆死した父の亡霊と残された娘に対し
「母と暮らせば」はもう一つの被爆地長崎を舞台にした
被爆死した息子の亡霊と残された母の物語
冒頭の長崎への原爆投下の瞬間の描写は見事
授業で使っているインク壺のアップがネガポジ反転したと思った瞬間
グニャッと溶け、同時にすさまじい光と爆風
直接的な破壊や被害は描かれず、生活の一場面に溶け込み
さりげなく登場する負傷者たち
それが自然であればあるほど印象に残る
作品としての期待も高まるわけですが
黒木和雄監督、原田芳雄×宮沢りえ(浅野忠信は両方に出てる 笑)の
「父と暮せば」(2004)も舞台的で圧倒的なセリフの多い映画でしたが
99分とコンパクトにまとめられているのでまだ見やすい
しかしこちらは130分という長さ
並列的に語られるエピソードを散々聞かされるはめになります
しかもラストの葬儀は、まるで息子と母親の結婚式
あの白い服を着た合唱団(死んでいった人々の魂なのだろうか)と
原爆記念像については全くいらない
(すみれちゃんに見えているのは、すみれちゃんも死ぬの?)
ここは上海のおじさんと、となりのおばさんの
「なんだか幸せそうに寝ているみたいだね」で終わるべきでした
今も伸子に尽くしてくれる、浩二の恋人だった町子(黒木華)に
浩二の死を受け入れる決心をしたと話します
その日、死んだはずの浩二が姿を現し
やっと「母さんに会いに来れた」と語ります
それからたびたびやって来ては、子どもの時のことや
町子のことなどを、思い出話をしていくようになります
夫が早く死に、長男も戦死
残された次男に、自分のすべての愛情を注いできたのでしょう
その息子がある日突然跡形もなく消えてしまった
母親が諦めきれないのは当然
息子が死んだと諦めたとたん、伸子は壊れてしまった
原爆症が悪化し、総合失調症まで患ったのでしょう
自分にしか見えない、ときどき現れる幽霊と話をする
伸子は浩二に「もし町子にいい人が現れたらどうする」か訊ね
「死んでしまった浩二のことは忘れてその人と幸せになってほしい」と
自分の気持ちを打ち明けます
はじめは「町子はぼくの妻になる人」と反発した浩二でしたが
「自分よりいい人なんていないと思うよ、いないと思うけど・・」と
伸子の考えを受け入れることにします
ある日、町子の教えるすみれちゃんの家で赤ちゃんが生まれました
すみれちゃんは伸子に「黒ちゃんは町子先生が好き」と教えます
伸子が町子に「黒田先生はどういう人」と訊ねると
「子どもたちに人気のいい先生」とだけ答える町子
- 町子が教えている小学2年の民子(本田望結)を
- 原爆で行方不明になった父親の消息を確かめるために
- 復員局に連れて行くエピソードが加わります
- 祖父からの言われた通り、泣かずに職員(小林稔二)から
- 死亡通告を受け取るシーンはジーンとくる
「浩二から怒られるから」と、上海のおじさんから食料品を買うのをやめた伸子
死んだ息子が見えるという伸子の体調をおじさんは心配し
実際伸子はその頃から体が弱っていました
そして町子がお正月のお餅を持って
黒田先生と婚約したことを報告しに来ます
伸子は町子の婚約を喜びますが
浩二が死に、町子だけが幸せになると思ったとき
「あの子が代わってくれたらよかった」と
つい本音が出てしまうのでした
浩二は伸子に「もうこの家には来られない」と告げます
焦った伸子は「町子が去ってしまって、浩二まで来てくれなくなったら
自分は寂しくて死んでしまう」と訴えますが
浩二は「これからはずっと一緒にいられるから大丈夫」
「あなたはもうこちらの世界の人だから」と伸子を導くのでした
キリスト教で人が死ぬことを「お迎えが来る」と言います
いままでずっと「お母さん」と呼んでいた息子が突然「あなた」と呼ぶ
上海のおじさんの不器用なやさしさが最後まで心に残ります
町子は自分だけ好きな人と幸せを掴んだことを
浩二と伸子に詫び続けながら残りの人生を過ごすのだろうな
山田洋次が描く「サイコ」は、怖くて悲しいハッピーエンド
そしてやっぱり、それぞれの登場人物がいい
ラストが残念なことだけが、やはり悔やまれます
【解説】KINENOTEより
作家・井上ひさしが晩年に取り組んでいた広島・長崎・沖縄をテーマにした構想を「男はつらいよ」の山田洋次監督が受け継いだ家族ドラマ。長崎に落とされた原爆により息子を失った母と彼女のもとに現れた死んだはずの息子とが過ごす少し不思議ながら幸せな日々を描く。広島を舞台にし2004年には黒木和雄監督により映画化された戯曲『父と暮せば』と対になる作品として制作された。助産師の母親を「おとうと」の吉永小百合が、息子を「硫黄島からの手紙」の二宮和也が、息子の恋人だった女性を「小さいおうち」の黒木華が演じる。ほか、「私の男」の浅野忠信、舞台を中心に活躍する加藤健一らが出演。松竹120周年記念映画。
1945年8月9日、長崎に原子爆弾が投下された。それからちょうど3年後。助産師として働く伸子(吉永小百合)のもとに、原爆により死んだはずの息子・浩二(二宮和也)がひょっこりと現れる。それからというもの浩二は度々姿を現し、伸子と思い出話や浩二の恋人・町子(黒木華)についてなどいろんな話をしていくが……。
【解説】KINENOTEより
作家・井上ひさしが晩年に取り組んでいた広島・長崎・沖縄をテーマにした構想を「男はつらいよ」の山田洋次監督が受け継いだ家族ドラマ。長崎に落とされた原爆により息子を失った母と彼女のもとに現れた死んだはずの息子とが過ごす少し不思議ながら幸せな日々を描く。広島を舞台にし2004年には黒木和雄監督により映画化された戯曲『父と暮せば』と対になる作品として制作された。助産師の母親を「おとうと」の吉永小百合が、息子を「硫黄島からの手紙」の二宮和也が、息子の恋人だった女性を「小さいおうち」の黒木華が演じる。ほか、「私の男」の浅野忠信、舞台を中心に活躍する加藤健一らが出演。松竹120周年記念映画。
1945年8月9日、長崎に原子爆弾が投下された。それからちょうど3年後。助産師として働く伸子(吉永小百合)のもとに、原爆により死んだはずの息子・浩二(二宮和也)がひょっこりと現れる。それからというもの浩二は度々姿を現し、伸子と思い出話や浩二の恋人・町子(黒木華)についてなどいろんな話をしていくが……。