ミュンヘン(2005)

「こんなことの先に平和はない それが真実だ」

原題は「Munich」(ミュンヘン

 

1972年にパレスチナゲリラによって起こされたミュンヘン・オリンピック事件と

イスラエル政府によるパレスチナへの報復をサスペンスフルに描き

物議をかもしたという問題作

選手団の遺族からは「悲劇を伝える良作」と歓迎する声があがったものの

モサドイスラエル諜報特務庁)からは「事実と違う」批判を受け

イスラエルからは(パレスチナに対する姿勢を批判するシーンがある)

「反イスラエル的」だと非難を浴び

さらにラストで、911で崩壊した世界貿易センタービルCGで再現したことから

モサドから「同時テロと混同するな」と投書相次いだそうです

 

確かにそうですが

私的には「テロは許さない」という名目の、ジェノサイドを支援する

アメリカ政府に対するメッセージのように思えました

テロへの報復を正義だヒーローだと掲げ

何か問題が解決したかというとひとつ解決など出来ていない

それどころか負の連鎖はますます激しさを増し

犠牲になっているのは、政治ともテロとも関係ない人たちばかりなのです

1972年ミュンヘンオリンピック開催中

パレスチナの過激派組織「黒い九月」のメンバー8名が

イスラエルに収監されているパレスチナ人テロリストの解放を求め

オリンピック村のイスラエル選手団宿舎に侵入

イスラエル選手2人を殺害9人を人質に取ります

事件を任された西ドイツ警察とテロリストたちとの銃撃戦の結果

ミュンヘン空港に捕らわれていた人質全員が死亡するというという

最悪の結果を招きます

スラエル政府はゴルダ・メイア首相の命令により報復を決意

首謀者と思われるパレスチナ解放機構(PLO)11名の幹部暗殺を計画

モサド上官ジェフリー・ラッシュ)から実行部隊のリーダーに任命されたのは

イスラエルアメリカ人のアヴナーエリック・バナ)でした

そのほかのメンバーは、南アフリカ出身自動車のスペシャリスト

ティーダニエル・クレイグ

爆弾製造のプロ、というのは嘘で実はおもちゃ屋

ロバートマチュー・カソヴィッツ

爆薬の量を間違えたり、手榴弾不発だったり

スピルバーグらしいコミカルなシーンを笑っちゃいけない苦しさ(笑)

現場の掃除屋カールキアラン・ハインズ

文書偽造の専門家ハンスハンス・ツィッシュラー

第一の標的は、ローマで活動する翻訳家でアラファト議長のいとこ

アパートで待ち伏せし射殺

第二の標的はPLOパリ代表部幹部電話に仕掛けた爆弾で爆死

(幼い娘を誤爆から救ったのは、この頃のモサドにはまだ心があったか)

第三の標的、キプロスのホテルに滞在するPLO幹部のベッドに爆弾を仕掛け

第四の標的は、レバノンベイルートにある黒い九月のアジト

イスラエル軍の部隊とともに襲撃し、PLOのスポークスマン含む3名を殺害

第五の標的は、ギリシャアテネのホテルでETAバスク祖国と自由)と偽り

PLOメンバーの抹殺に成功するものの

誤って現場にいたソ連KGBエージェントも殺害してしまうという失態

それらの情報をアヴナーに与えているのが

フランスの独立系ファミリーのルイ (マチュー・アマルリック

様々な組織に入手困難な情報提供を売ることで利益を得ています

郊外の屋敷に大家族で暮らすファミリーのパパ (マイケル・ロンズデール)は

かってドイツ軍と闘った元レジスタンスで

イスラエルアメリカのやっていることが正しいとは思っていないが)

イスラエル民族の苦難には理解を示しています

やがて優しく冷静な男だったアヴナーは、冷徹大胆な殺しをしていくようになり

カールが何者かに金で雇われた

オランダ人の美女(マリ=ジョゼ・クローズ)に色仕掛けで殺され

報復として彼女の裸体を特殊な銃で撃つ

間をおいて深紅の血が溢れ出す美しさよ

 

スピルバーグにしては珍しいヌードや、セックスシーン

カメラはヤヌス・カミンスキー

一方で敵に電話やベッドに爆弾を仕掛けたことで

自分の部屋にも爆弾が仕掛けられているのではと疑心暗鬼になり

クローゼットの中でしか眠れなくなります

(コッポラの「カンバセーション」のオマージュだろうか)

心は壊れ、電話で子どもが話せるようになったことを知り涙を流す

ハンスとロバートが殺され、スティーブと2人きりになったアヴナーは

最大の標的である「黒い九月」の黒幕「サラメ」が

スペインにいることを知りますが

しかし暗殺が失敗に終わったうえ、一般人を巻き添えにしてしまいます

次にサラメがロンドンで発見されたという情報をルイから得ますが

ルイはCIAがサラメと裏取引をしている可能性があるので

サラメの暗殺はやめたほうがいいと提案します

同時にイスラエルモサド本部から作戦中止の命令が下り

妻子のいるニューヨークに戻ったアヴナー

しかしその後も、常に誰かに命を狙われているのでは

という恐怖が消えることはありませんでした

本作のアヴナーのモデルとなったジュヴァル・アビブは

調査(諜報)会社インターフォー社の創設者で社長兼CEO

セキュリティコンサルタントとして活躍

1989年のパンナム航空103便爆破事件の調査に任命されたときは

報告書を読んだ関係者から「捏造者」呼ばわりされたそうです

 



【解説】映画.COMより

スティーブン・スピルバーグ監督が、1972年ミュンヘンオリンピック開催中に起きたパレスチナ武装組織によるイスラエル選手団殺害事件と、その後のイスラエル諜報機関による報復作戦を実話に基づいて描いたサスペンスドラマ。ジョージ・ジョナスのノンフィクション小説を原作に、「フォレスト・ガンプ 一期一会」のエリック・ロスとドラマ「エンジェルス・イン・アメリカ」のトニー・クシュナーが脚本を手がけた。1972年9月5日、ミュンヘン五輪の選手村にパレスチナ武装組織が侵入し、イスラエル選手11人を殺害する事件が発生。イスラエル諜報機関モサドはその報復として、首謀者11名の暗殺計画に乗り出す。暗殺チームのリーダーに任命されたアブナーは妊娠中の妻を置いてヨーロッパへ渡り、標的を1人ずつ抹殺していく。「トロイ」のエリック・バナが主演を務め、後に6代目ジェームズ・ボンドとなるダニエル・クレイグ「シャイン」ジェフリー・ラッシュが共演。

2005年製作/164分/アメリ
原題:Munich
配給:アスミック・エース