
原題は「Les Amants du Pont-Neuf 」(ポンヌフの恋人たち)
「20世紀最高の純愛映画」とも
(製作中の度重なる不運と莫大に膨れ上がった制作費から)
「呪われた映画」とも評されている恋愛映画の傑作で
私が夫と付き合い始めたころ、初めて一緒に見たのもこの映画です
いわゆる「思い出の映画」なわけですが
今見ても全くもってデート向きの映画じゃなかったですね(笑)

たぶん過去の辛い失恋を引きずっているとか
実らない片思いの経験のある人が「ひとり」で見たほうが
胸に来るものがあるんじゃないかな、と思います
たとえ愛する人が不幸になっても
お金がなくても、屋根もベッドもなくても
一緒にいて抱き合えていたなら、それでいい
破滅に向かう愛の美しさと、映像の美しさが見事にマッチ

酩酊したホームレスの男(ドニ・ラヴァン)が
夜のパリの町をフラフラと歩きながら道路に倒れ込み
車に片足をひかれるのを赤いコートの女(ジュリエット・ビノシュ)が見ています
男たちが数人バスから降りてきて、男を「アレックスだ」と
集められたホームレスらとともに収容施設に連れて行き
シャワーを浴びせ(といっても、モノのような扱い)
清潔な服と寝床を与え、折れた足を治療しギブスで固定します

しかしアレックスは施設を脱走し
修理中のポンヌフ橋に戻ると、ハンスという橋のボスらしい男が
(眠れないときは酒を飲むのではなく)「困ったときは俺に言え」と
さらに橋の上に「知らない女がいるので追い出せ」と命じます

そこには片目にパッチをつけた女が寝ていて
彼女の持ち物であるカルトン(画用紙の収納ケース)の中を見ると
アレックスの顔が描かれた絵
持っていた手紙から、彼女はミシェルという名前の
高級住宅街に住む画学生で(連れている猫も高級な猫)
ジュリアンというチェリストの恋人がいたことがわかります
アレックスはそっとミシェルの片目のパッチを剥がして見ると
ハンスに2~3日だけ泊めてほしいと頼みます

アレックスは目覚めたミシェルに「俺の絵」が欲しいと頼み
ミシェルはあげられないけど、代わりに新しい絵をかいてあげると言います
ミシェルは目の痛と睡魔(深く眠ってしまう奇病でもあるよう)で
彼の肖像画を描き上げることはできませんでしたが
アレックスはそのときすでにミシェルのことを好きになっていました
自分の本当の姿を見てくれた(絵に描いてくれた)女であり
自分と同じように、かたわ・・欠損がある人間だと
ミシェルのためにラジオを見つけ
生の魚を盗んでは、切って食べさせ(ミシェルはそれをスシと呼ぶ)
ミシェルも(大道芸で身銭を稼いでいる)アレックスの火を噴く姿に見惚れる

でもミシェルはかっての恋人、ジュリアンを忘れることができずにいました
地下道の動く歩道でチェロの音色を聞いたミシェルが逆走すると
ミシェルのあとをつけていたアレックスが先回りして
チェロの弦にナイフをつきつけ「俺のシマだ」と立ち退かせると
ミシェルにチェロを弾いていたのは「太った女だった」と言います
それでもチェリストを追いかけていくミシェル
ジュリアンのアパートに向かい銃を取り出すと
ドアスコープ(覗き穴)から彼の頭を撃ち抜く
橋に戻ったミシェルは酒ビンを開けてラッパ飲みをはじめ
アレックスにも無理やり飲ませ酔いつぶれて笑いころげます
拳銃を取り出し7発ずつ撃ち
(弾が全て残っていたのでジュリアンを撃ったのは夢だったとわかる)
ボートを盗んで水上スキーを楽しむ

朝になり、ミシェルが「拳銃を川へ捨てて」と頼み眠りにつこうとすると
アレックスは自分の片方の靴を川に投げ、銃をズボンの中に隠します
そして「誰かが君を愛している」
「もし君も誰かを愛しているなら、”空は白”と言ってくれ」
「相手は”だが雲は黒”と答える」「それが愛の始まりだ」
という合言葉めいた手紙を彼女のバックに入れます

それからふたりはハンスから盗んだ睡眠薬を使い
カフェにやってくる裕福そうな客を眠らせ財布を盗むようになります
ミシェルの提案で海に行き、裸で砂浜を駆け巡り抱き合うと
「眠る事を教えられて誇らしいわ」と眠りにつくミシェル
彼女に内緒で睡眠薬を飲むアレックス

やがて大金が貯まり「これだけあったら何でもできる」と
橋の上ではしゃぎながら踊るミシェル
アレックスはそっとお金の入った箱を彼女の手の当たりそうな場所に置き
箱が川に落ちるとミシェルは嘆き悲しみますが
アレックスはほくそ笑むのでした
さらにミシェルの目が見えなくなる前にと
地下道の壁を上ったり、ばく転する姿を披露するアレックス

一方、もとは堅気で守衛の仕事をしていたというハンスは
ミシェルに大量の鍵の束を見せると
娘が死に、立ち直ることができなかった妻が酒に溺れ路上生活するようになり
妻を救おうと自分も路上生活になったものの妻は死に
ミシェルをポンヌフから追い出そうとしたのは
ホームレスの女の行く末はいかに酷いものかとわからせるためで
早く家に帰ったほうがいいからだ、と教えます

そうしてハンスは真夜中に、ミシェルをルーブル美術館に忍び込ませ
(いくら合鍵を持っていてもセキュリティが甘すぎるだろ 笑)
彼女が最後にどうしても見たいと言っていた
ろうそくの灯りで、さらに肩車をして見せてあげます
すると服を脱いだミシェルがハンスの前に立ち、ふたりは抱き合います

なぜレンブラントの絵か、というと
レンブラントは立体盲という片目しか機能しないという障害があったせいで
平面を視認する感覚に優れ、素晴らしい作品を生み出したそうです
さらに当時のレンブラントは破産し、私生活も泥沼で
監督のレオス・カラックスの自己投影であったかも知れません(笑)

アレックスはミシェルが帰ってこないことでイラつき
彼女が戻ると殴ってしまいます
当然ミシェルも逆ギレする(女は男の所有物ではない)
だけどミシェルが「空は白」と言うと、アレックスは「だが雲は黒」と答え
ふたりの愛は確認されたかのように思えました
(ハンスは川に落ちて溺死してしまう)

地下道にミシェルの尋ね人のポスターが貼られているのを見つけたアレックスは
ガソリンをかけて燃やします
それは彼女の父親からの目が治療できるというものでした
ところが町中にもポスターが次々貼られていて
アレックスがポスターを積む車の荷台に火をつけると
(犬を連れた少年が目撃している)
慌てて戻ってきた業者(ポスター貼り)に火が燃え移ってしまいます

アレックスは逃げ、ミシェルに抱きつくと
そのとき(皮肉にもアレックスがプレゼントした)
ラジオからミシェルの捜索願の放送が流れます
ミシェルは酒ビンに睡眠薬を入れてアレックスに渡すと
彼が眠っている隙に逃げるのでした
「あなたの事を愛していなかった」という書置きを残して
それを見て拳銃で指を吹き飛ばすアレックス
アレックスは過失致死で逮捕され3年の実刑判決を受け(意外と短い)
刑務所で溶接などの仕事(職業訓練)をしているとき
目の治ったミシェルが面会に来て
クリスマスに修復したポンヌフ橋で再会する約束をします

(ミシェルが眼科医と交際していると思われるシーンを挟み)
約束通りポンヌフ橋で待つアレックスに会いに来たミシェル
美しく降りしきる雪の中で
かってのように戯れ楽しいひとときを過ごしますが
突然ミシェルが理由も告げず帰ると言い出し
怒ったアレックスはミシェルと共に橋から川に飛び込みます

水面に浮かび上がると通りかかった船に救助され
船長は夫婦で砂を運んでいて
ル・アーブル(ノルマンディー)に向かう途中だと言うと
ミシェルは「私たちもル・アーブルに行く」と伝えアレックスを喜ばせるのでした
船首で抱き合い「まどろめ、パリ」と叫ぶミシェル
(キャメロンの「タイタニック」はこの映画の影響を受けていたんだな 笑)
でも「まどろめ」なんて日本語使わないから
昔の「目覚めよ、パリ」の字幕のほうがよかったんじゃないかな(笑)

この違和感あるエンディングは、本来不幸で終わるはずだったのを
ビノシュの要望でハッピーエンドにしたそうです
だけどマイク・ニコルズの「卒業」(1967)同様
未来には不安(女は結婚を決めた男のほうに戻る)しかない予感
エンディングロールでは冒頭でアレックスが路上をふらついていたときの
音が再び鳴るそうなので、誰か確認してみてください(笑)
【解説】映画.COMより
フランスの鬼才レオス・カラックスが「ボーイ・ミーツ・ガール」「汚れた血」に続いて手がけたラブストーリー。アレックスという名を持つ青年を主人公に描く3部作の完結編にあたる。
パリで最も古く美しい橋・ポンヌフで暮らす大道芸人のアレックスは、ある日、失恋の痛手と治る見込みのない目の病に苦しみ放浪する画学生ミシェルと出会う。やがて2人はポンヌフで共に暮らし始め、孤独な日々の中で絆を深めていく。ジュリアンというチェリストへの恋の未練と、画家としての失明への恐怖を抱えるミシェル。そして、他人とのつながりを知らずに生きてきたアレックス。2人の間には、次第に絆と愛が芽生えていく。しかし、ミシェルはやがて両親が自分を捜していること、そして眼病の治療法が見つかったことを知り……。
主人公アレックスを演じるのは、「ボーイ・ミーツ・ガール」「汚れた血」に続いてドニ・ラバン。ミシェル役にはジュリエット・ビノシュが扮する。1991年製作、日本では1992年に公開され、渋谷・シネマライズで27週に及ぶロングランを記録する大ヒットとなった。2011年にニュープリント/HDリマスター版でリバイバル上映され、2025年には撮影監督キャロリーヌ・シャンプティエ監修による4Kリマスター版としてリバイバル公開される。
1991年製作/125分/PG12/フランス
原題または英題:Les amants du Pont-Neuf
配給:ユーロスペース