
原題は「Train Dreams」(列車の夢)ですが
「列車の旅」には「人生の旅」という意味合いがあるそうです
鉄道建設のための森林伐採に生涯を捧げ
80歳で人生の幕を閉じた平凡な男の人生の物語ですが
久々に良質のアメリカ映画を見たという感じ
美しく、そして素晴らしい映画でした

孤児だったロバート・グレイニア(ジョエル・エドガートン)は
学校は中退、何の目的もなく生きてきましたが
グレート・ノーザン鉄道の仕事でやって来たアイダホ州ボナーズフェリーで
グラディス(フェリシティ・ジョーンズ)という女性と出会い結婚
モイエ川沿いに家を建て、娘のケイトをもうけます

さまざまな事情を抱えた労働者たちと一緒に仕事をします
アメリカという国は、こういう声も届かず名前も残らない労働者によって
築かれてきたんですね
そうやって亡くなった人々に対する敬意を感じます

決して多く語ることはない男たちの間にも
やがて友情のようなものが芽生え
特に爆弾の専門家で森を畏怖(いふ)する老人
アーンを演じたウィリアム・H・メイシーがいいですね

だけど同僚のフー・シェンが白人集団に橋から落とされて殺され
(中国人というだけでお金を盗んだ濡れ衣を着せられたらしい)
それをただ見ているだけで、助けられなかったロバートは
自責の念にかられフー・シェンの亡霊を見るようになります

さらに聖書のストーリーテーラーのフランクが
賞金稼ぎの青年に撃たれて死んでしまいます
青年は黒人というだけで殺された「兄の仇」でもあると言います
あんなに上手く聖書の物語を、善悪を皆に語っていた自称使徒の男は
人種差別の犯罪者だったのです

ロバートが苦しんでいるのを察した妻のグラディスは
鉄道の仕事を辞めて(スキルを生かし)製材所を始めようと提案します
そして製材所を経営する資金が貯まった最後の出稼からロバートが戻った時
ボナーズフェリーの森を山火事が襲っていました
グラディスとケイトを探し火の海に飛び込むロバート
しかし森は灰と化しグラディスとケイトの死体さえ見つかることはありませんでした

哀しみに暮れたロバートは立ち直ることもできず
家のあった場所にキャンプしていました
そこにどこからかやってきた犬の母子
ロバートが救われたのは犬たちのおかげかも知れません

さらに時々様子を見に来てくれる
雑貨店を営むインディアンのイグナティウスのおかげで
再び家を建て、伐採の現場に就くことが出来ます
しかし機械化や体力の限界で若い労働者についていけず

地元で馬車御者(タクシー)を始めると
町の発展によって仕事は軌道に乗ることができます
そこで森林局に勤める、元従軍看護師で夫に病気で先立たれたという
クレアという女性と知り合います
だからといって、恋に落ちるわけではなく(笑)

イグナティウスもですが、クレアも
孤独な者同士だからこそわかりあえる安心感というか
真実を言える相手ということなのでしょう
そしてそこにある自然は人を殺すけど、生かしてもくれる
誰にでも公平な存在だと感じる

ある夜、森で倒れていた少女を発見したロバートは
娘のケイトが帰ってきてくれたと思います
こんなに大きくなって・・ケイト!ケイト!ケイト!
少女の折れた脚に添え木を当て、汚れた顔を濡れタオルで拭く
だけどいつの間にか眠ってしまい、目覚めたとき少女は消えていました
彼女は夢幻だったのだろうか
それでも再びケイトが現れることを待ち続けるロバート

年月は過ぎ、ロバートはかって勤めていたグレート・ノーザン鉄道に乗り
スポケーンという都会を訪ねることにします
そこにはビルが立ち並び
テレビという代物ではジョン・グレンの宇宙飛行の様子が放映されていました
洗面所で何十年ぶりに鏡を見ると、そこに映っていたのは年老いた自分の顔

さらに4ドルを払って周遊飛行機に乗ったとき
これまでの人生が突然走馬灯のように蘇り
ロバートは全ては宿命だったのだと悟ります

ラスト、ナレーションが
「1968年11月、ロバートは眠っている最中に息を引き取った
彼の人生は始まった時と同じくらい静かに幕を閉じた
彼は銃を買ったことも電話で話したこともなかった
両親が誰なのか知らず跡継ぎも残さなかった
しかしあの春の日、上下の感覚を失いながらついに全てが繋がったと感じていた」
と、語り終えたとき
私はいつのまにか、流れそうになる涙を堪えていました
【解説】映画.COMより
20世紀初頭の激動のアメリカを舞台に、森林伐採に従事する男の愛と喪失を、美しい映像とともに描いたドラマ。
幼い頃に両親と別れ、太平洋北西部の森の中で育ったロバート・グレイニアは、グラディスという女性と恋に落ちて結婚し、一緒に暮らす家を建てる。森林伐採の仕事に従事する彼は、遠征で訪れた土地の風景やともに過ごした仲間たちの記憶を心に刻みながら鉄道事業の拡大に貢献するが、その一方で愛する妻や幼い娘と離れて暮らすことを余儀なくされる。やがて予想外の人生の転機を迎えたロバートは、自分が切り倒してきた木々に美しさと残酷さ、そして新たな意味を見いだしていく。
デニス・ジョンソンの同名小説を原作に、「シンシン SING SING」の脚本を手がけたクリント・ベントリーが監督を務め、同作の監督グレッグ・クウェダーがベントリー監督と共同で脚本を担当。「ウォーリアー」「ラビング 愛という名前のふたり」のジョエル・エドガートンが主人公ロバート、「博士と彼女のセオリー」のフェリシティ・ジョーンズが妻グラディスを演じ、「ファーゴ」のウィリアム・H・メイシー、「イニシェリン島の精霊」のケリー・コンドンが共演。Netflixで2025年11月21日から配信。
2025年製作/103分/アメリカ
原題または英題:Train Dreams
配信:Netflix