アプレンティス ドナルド・トランプの創り方(2024)

原題は「The Apprentice」(師弟見習い

ドナルド・トランプ本人が上映阻止に動いた問題作ということですが

決してトランプ氏のネガティブ・キャンペーンというわけでなく

ひとりの男のサクセス・ストーリーとして面白かったです

監督のアリ・アッバシ はイラン系デンマークということで

やはり見かたが違うのでしょうかね

20代のトランプなんて、気弱で可愛いくらい(笑)

セバスチャン・スタンの演技がまた素晴らしくて

歩き方や喋り方はもちろん

髪の毛を触る、瞳や口の動作という細かな癖まで完全コピー

あまりに似すぎて全て実話かと思ってしまうくらいです

セバスチャン・スタンがこれだけ凄いことをして

なにひとつ映画賞を取れなかったのは

映画を見る前から嫌悪感をもたれてしまったしまったせいでしょうね(笑)

そのトランプがいかにして、トランプ大統領になったか

それは映画が始まってすぐにわかります

弁護士ロイ・コーン(ジェレミー・ストロング)との出会いです

彼の考え方こそ、今のトランプの考え方

トランプは生まれながらのポピュリストで

(大衆の支持を得ることを最優先させる思想の持ち主)

そのためには皆さんご存じの通り発言もコロコロ変わる

スローガンのMAGA (Make America Great Again)も

まるで自分が生み出したように使っていますが

元はレーガン大統領の言葉(笑)

同じように不動産王と呼ばれるようになったとたん

兄(チャーリー・キャリック)や父親(マーティン・ドノヴァン)への

最初の妻イヴァナマリア・バカロワに対する態度を変えていき

ついには恩人のロイ・コーンさえ裏切っていくのです

彼らこそがトランプをビジネス界の大物にしてくれた

張本人であるにもかかわらずです

そんなトランプの人となりが

トランプがお酒を飲まない理由(兄がアルコール依存症)から

ハゲと脂肪を減らす手術まで

約2時間でとてもわかりやすく描かれている

トランプが2回目のアメリカ大統領に当選するまでの

続編も作って欲しいくらいです(笑)

22歳で父親の不動産会社の副社長となったトランプは

その頃から虚栄心に満ちていたものの

仕事はといえば自社が経営するアパートの家賃の集金

滞納者から熱湯をかけられたり大変なものです(笑)

しかも家賃未払いでも法律のせいで追い出せない

さらに父親のフレッド・トランプアフリカ系アメリカ人

差別(入居拒否)していると連邦政府から調査され、倒産寸前

そこでトランプが相談したのが

ニューヨークの会員制クラブで知り合ったロイ・コーン

検察官時代にはローゼンバーク夫妻事件(ソ連のスパイとして死刑)を手がけ

赤狩り」で名を馳せたマッカーシー右腕

ニクソンレーガン大統領から「ガンビーノ一家」のジョン・ゴッティまで

多くのクライアントを持つ大物弁護士でした

 

ロイ・コーントランプ3つのルールを叩き込みます

ルール1「攻撃、攻撃、攻撃」(Attack, Attack, Attack)
ルール2「非を絶対に認めるな」(Admit nothing, deny everything)
ルール3「勝利を主張し続けろ」

(No matter what happens, you claim victory and never admit defeat)

アメリカでは勝者がすべてを手に入れ、敗者には何ひとつ与えられない

ゼロサムゲーム(一方が利益を得ると、他方が同じだけの損失を被る)の

戦術方法を学びます

勝つために手段は選ばない

そのためには相手の弱みを見逃してはいけません

政治家や大物判事の声は何でもカセットテープに録音し

少しでも黒い噂があれば証拠写真を撮り、それを永久保存しておく

裁判で不利になればそれらを使い取り引きするわけです

 

ロイ・コーンの強引なやりかたに、さすがのトランプも

最初は尻込みしてしまいます

さらにやっと交際出来て結婚までたどりついたモデルのイヴァナに対し

契約書を用意しサインさせようとしたことでイヴァナを怒らせ困ってしまう

どうにか結婚しドナルドJr.が生まれ

イヴァナがイヴァンカを宿した頃までは円満で幸せだったのですが

ロイ・コーンの言った通り(豊胸手術までさせた)イヴァナへの愛は冷め

公然と浮気しまくるトランプ

必然性を感じられないエロシーンにはちょっとガッカリ(笑)

ミッドタウンの廃墟となったコモドール・ホテルを

ハイアットホテルにしたいと考えるトランプのため

ロイ・コーンはトランプが減税を得ることができるよう助け

次にトランプは豪華なトランプタワーをイヴァナと共に開発し

メディアから不動産王と讃えられるようになります

 

アトランティックシティのトランプ・タージ・マハルでは

ロイ・コーンに反対を押し切り、開発を進め

やがてロイ・コーンとも疎遠になっていきます

(結果損失を引き起こした)

TWAパイロットだった兄フレッドがアルコール依存症のため仕事を辞め

金がなく困るようになるとトランプは兄とも距離を置き

父親が認知症になると(借金を返済のため)兄弟の遺産を受け取ろうと

新しい弁護士と書類にサインさせようとします

母親のメアリー・アンがそれに気付き阻止しますが

しばらくして兄が死に、遺産はトランプのものになったということでしょう

 

久しぶりにロイ・コーンがトランプに会いに来て

ビジネスパートナー(正確には恋人)のラッセルが病気なので

ハイアットに泊めてくれないかと頼みます

いやいやながら引き受けたものの

ラッセルがエイズだと知りハイアットから追い出すトランプ

しかも請求書付きで

トランプを恩知らずの詐欺師と罵るロイ・コーン

ラッセルが亡くなり、ロイ・コーンもエイズを発症(公には否定)

医者からエイズは精液か血液からしか感染しないと聞いたトランプは

ロイ・コーンをフロリダのマー・ア・ラーゴに招待し彼の誕生日を祝うと

「コーン・トランプ」のロゴ入りのダイヤのカフスボタンをプレゼント

喜ぶロイ・コーンでしたが

イヴァナからジルコニウムの偽物であることを教えられます

トランプはそういう男だと

ケーキが運ばれてくると、涙ぐんだロイ・コーンは

トランプに短い感謝のスピーチをすると

体調を理由にテーブルから立ち去るのでした(1986年逝去)

 

カリスマ弁護士から、だんだんと衰えていき

やがて生気さえなくなっていくジェレミー・ストロングが

またいい仕事をしていますね

かってはビジネス界のロバート・レットフォードに例えられたトランプも

(ロバート・レットフォードに謝れ)

中年になり急激に太りだし、体重をコントロールするため

(運動は絶対しない 笑)アンフェタミンに中毒になると

医師から使用を止められ、代わりに脂肪吸引

ついでにハゲの部分を切り取る頭皮縮小手術をすることにします

 

自伝書The Art of the Deal」を発表することになり

ゴーストライタートニー・シュワルツと会ったトランプは

成功の秘訣は3つのルールだと

「攻撃、攻撃、攻撃」「非を絶対に認めるな」
最も大事なのが「勝利を主張し続けろ」だと語るのでした

トランプの背後にはマンハッタンスカイラインが見え

アメリカ国旗が振られていました

でもまだこのときは、トランプが大統領に立候補するなど

誰もが冗談としか思っていませんでした

 

ちなみにこの映画、公開されてみたら

意外にもトランプ支持者から批判されることはなかったそうです

 

 

【解説】映画.COMより

「ボーダー 二つの世界」のアリ・アッバシ監督が「キャプテン・アメリカ」シリーズのセバスチャン・スタンを主演に迎え、実業家で第45代アメリカ合衆国大統領として知られるドナルド・トランプの若き日を描いたドラマ。成功を夢見る20代のトランプが、伝説の弁護士に導かれて驚くべき変身を遂げ、トップへと成りあがるまでの道のりを描く。
1980年代。気弱で繊細な若き実業家ドナルド・トランプは、不動産業を営む父の会社が政府に訴えられ破産寸前まで追い込まれていた。そんな中、トランプは政財界の実力者が集まる高級クラブで、悪名高き弁護士ロイ・コーンと出会う。勝つためには手段を選ばない冷酷な男として知られるコーンは意外にもトランプを気に入り、「勝つための3つのルール」を伝授。コーンによって服装から生き方まで洗練された人物に仕立てあげられたトランプは数々の大事業を成功させるが、やがてコーンの想像をはるかに超える怪物へと変貌していく。
弁護士コーン役に「ジェントルメン」のジェレミー・ストロング。2024年・第77回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品。第97回アカデミー賞ではセバスチャン・スタンが主演男優賞、ジェレミー・ストロングが助演男優賞にノミネートされた。

2024年製作/123分/R15+/アメリ
原題または英題:The Apprentice
配給:キノフィルムズ