
原題は「Nickel Boys」
原作はコルソン・ホワイトヘッドが2019年に発表した同名小説で
ピューリッツァー賞フィクション部門を受賞
ここでの「ニッケル」とは少年矯正施設のことで
フロリダ州がパンハンドルという町で運営していた
「ドジャー・スクール・フォー・ボーイズ」(1900~2011)がモデル
ジム・クロウ法(人種差別を強制する法律)時代
学校は生徒らを虐待、殴打、レイプ、拷問
殺害しているという(行方不明になった生徒の保護者らからの)評判を受け
改善や教師の交代の約束をしたにもかかわらず虐待は続き
111年の歴史に幕を閉じ永久閉鎖なったのは2011年になってから
つい最近の話なんですね
その後100体以上の人骨が施設跡から発見されることになります

ニッケル・アカデミーに収監させられた少年が
そこで知り合った親友と脱走するまでを描いたものという
ストーリーそのものは単純ですが、まあ解りにくい作品でした(笑)
一人称(個人的)視点によるアート的、感覚的な映像に
前衛的な演出というのでしょうか
これが、おシャレ映画ならともかく(笑)
社会派映画だと意外にやっかい

「手錠のままの脱獄」の映画
「アポロ8号」によるアメリカの宇宙開発・・などの
モンタージュで表されるので
その時代を知らないと共感するのが難しいでしょう
ただ直接的な暴力的なシーンや
同じ時系列バラバラでも「ムーンライト」のような気色悪さはないので
(ファンの方がいたら失礼)そこは見やすかったと思います

17歳になるアフリカ系黒人エルウッド・カーティスは
公民権運動に参加した父親が(不審な状況で)刑務所で亡くなり
優しく働き者の祖母と一緒に暮らしています
優秀な成績で専門学校への推薦入学が決まり
(担任は南部の歴史教科書の偏った記述より自分で考える指導をしている)
キャンパスへ向かう途中、リッチそうな男が車に乗せてくれます
警察は男の車が盗難車だと言い、エルウッドは共犯者として逮捕され
有罪判決を受けますが未成年であったため
改革派の施設「ニッケル・アカデミー」に送られることになります

そこでも白人は快適な宿泊施設に、授業もスポーツ活動などを楽しみ
黒人の収容施設はみすぼらしく、食事は不味く、重労働が待っています
素行が良ければ早く釈放されると白人監督官スペンサーは言いますが
施設の食料品などを不正に横流しするなどして利益を得ている張本人
でも奥さんは優しく、エルウッドは施設で仲良くなったターナーと共に
無料で家の作業を手伝うのと引き換えに
「高慢と偏見」など高価な本を寄付してくれたり
プールで泳ぐことを許可されています
(性的奉仕もさせられていることが示唆されている)

ある日のオレンジの収獲作業で
オレンジの皮を傷つけて摘んでしまった少年を助けようとしたエルウッドは
ボス的存在である同級生からリンチを受けてしまいます
それを知ったスペンサーはエルウッドを助けるのではなく
どちらも折檻、しかも入院するほどの大怪我をさせるまで
エルウッドを心配した祖母はニッケルまで見舞いに来ますが
会わせてもらうことが出来ず、代わりにターナーに手紙を渡し
何度もハグします

間もなくして毎年恒例の黒人と白人のボクシングの(賭け)試合があり
黒人側の代表選手を呼び出したスペンサーは第3セットで負けるよう指示します
ところが黒人選手が第3セットを第2セットと勘違い、判定勝ちしてしまいます
その日以来黒人選手の姿を見ることはありませんでした
エルウッドの祖母は節約して貯めたお金で弁護士を雇いますが
弁護士は彼女のお金を持って逃げてしまったことを打ち明けます
気丈な祖母もさすがに反省し
エルウッドを励ますことができなくなっていました

このままでは死ぬまでニッケルを出ることが出来ない
エルウッドはニッケルでの虐待や
教師の汚職について細かくノートに記録しており
政府の検査官が調査に来た時、渡そうと考えます
ターナーがエルウッドに代わり
ノートを検査官の車に忍び込ませますが、何も起こらず
逆にそのことで、ニッケルの教師たちが
エルウッドを殺そうとしているのを知ったターナーは
教師から拷問を受けたエルウッドを救け
自転車で一緒に脱走します

ターナーの後ろからついて行くエルウッド
自転車のスピードメーターから再び前方へ視点が切り替わったとき
そこにターナーがいない
追いかけてくるニッケルからの車
ターナーは捕まったのか?
違う、再び現れたターナーは道路を右折し農道に逃げ
エルウッドも後を追います
しかしエルウッドは撃たれて殺されてしまい
森に逃げ込んだターナーはそこから線路に向かい、長い時間貨物列車に乗ると
エルウッドの祖母の家に辿り着きます
ターナーを温かく迎える祖母
1988年、ニューヨークで妻(恋人?)と暮らし
引越し業を営んでいる(名刺に書かれている名前は)エルウッドは
閉鎖されたニッケルで、多くの無標の人骨が発見されたことをニュースで知り
毎晩ネットでそのことを検索し妻を心配させます

偶然ニッケル時代の同級生チッキー・ピートとバーで会ったエルウッドは
チッキー・ピートから仕事があれば紹介してほしいと頼まれます
そしてエルウッドがニッケルにあった秘密の場所で
いつも一緒にいたのは誰だっけ、と尋ねられましたが
エルウッドは「ターナー」と答えることが出来ませんでした
エルウッドは確かに殺されたはずなのに、生きていて
(大人になったエルウッドの顔は写真でしか映し出されない)
ターナーがエルウッドとして(名前を引継ぎ)生きてきたのか
それともターナーとはエルウッドが作り出したもう一人の自分なのか
(あるいはその逆なのか)私にはわかりませんでしたが

たぶんエルウッドやターナーや、そのほか多くの名もない黒人の少年たちが
ジム・クロウ法という合法のもとで
拷問を受け、殺されてきたということなのでしょう
エンドロール前の無音は、彼らに捧げられた黙祷だと思います
やはりこういう映画はわかりやすく、感情に訴えてこそなんぼ
「プライドと偏見」如く、高貴すぎたせいで(笑)
庶民(今の時代)には受け入れ難くなったような気がします
ただ将来的に傑作と囁かれる可能性は無きにしも非ず
今年のアカデミー賞作品賞ノミネート10作に入れたことは
間違いでなかったと思います
【解説】映画.COMより
1960年代アメリカに実在した少年院を舞台に黒人の少年が体験した過酷な状況を描いて全米で話題を集め、ピューリッツァー賞を受賞したコルソン・ホワイトヘッドの長編小説「ニッケル・ボーイズ」を映画化。
ジム・クロウ法という人種差別的内容を含むアメリカ南部諸州の州法が存在した1960年代のフロリダ州タラハシー。真面目で成績優秀なアフリカ系アメリカ人の少年エルウッド・カーティスは、ある時、ヒッチハイクで乗せてもらった車が盗難車だったことから、運転手の共犯として警察に逮捕され、有罪判決を受けてしまう。未成年のエルウッドは更生施設「ニッケル・アカデミー」に送られ、そこでターナーという少年と出会う。ニッケル・アカデミーでは黒人の少年たちに対する信じがたい暴力や虐待、運営者たちの腐敗が横行しており、そのなかで生き抜くためにも、エルウッドはターナーと友情を育んでいくが……。
エルウッド役はNetflixドラマシリーズ「ボクらを見る目」のイーサン・ヘリス、ターナー役は映画「ザ・ウェイバック」などに出演したブランドン・ウィルソン。共演に「別れる前にしておくべき10のこと」のハミッシュ・リンクレイター、「グラディエーターII 英雄を呼ぶ声」のフレッド・ヘッキンジャー、「ブラインドスポッティング」のダビード・ディグス、「ドリームプラン」のアーンジャニュー・エリス=テイラー。監督・脚本は、これまで主にドキュメンタリーを手がけてきたラメル・ロス。Amazon Prime Videoで2025年2月27日から配信。
2024年製作/140分/アメリカ
原題または英題: Nickel Boys
配信:Amazon Prime Video