ラスティン: ワシントンの「あの日」を作った男(2023)  

原題はRustin」(主人公の名前)

出だしから「またLGBTかよ」「チョコレートかよ」の

「また」に正直嫌悪感を示した私でしたが(笑)

(しかも監督・脚本・主演ともに同性愛を公表している)

それ以上に勉強になる作品でした

キング牧師がいかに保守的で消極的であったこと

でも彼が誰より優れた言霊をもっていたこと

言葉の魔法の重要さが伝わります

1963828日、25万人が参加した平和的抗議運動

「ワシントン大行進」を立ち上げた中心人物バイヤード・ラスティン

 

キング牧師が「私には夢がある(I have a dream)」と演説し

世界的な人種差別撤廃運動のカリスマとなり

このデモの成功により公民権運動は最高潮に達し

1964年の連邦議会公民権法が成立するきっかけとなります

そのキング牧師に(当時は過激な活動も多かった)

ガンジーに倣った非暴力を掲げたのがラスティン

なのに今では彼の名前を、アメリカ人でも知る人は

ほとんどいなかったそうです

同性愛者であることを公にしていたラスティンは

(さらに社会主義の支持しアメリ共産党員であった)

保守的な白人からだけでなく

全米黒人地位向上協会(通称NAACP)からもよく思われておらず

彼の存在は伏せられたまま1987年に75歳で死去

そんなラスティンを世間に知らしめたのがバラク・オバマ元大統領

「ワシントン大行進」から50年後の2013

バイヤード・ラスティンに「大統領自由勲章」を授与するのです

 

それから10

オバマ夫妻が設立した制作会社「Higher Ground」は

ラスティンを主人公にした映画を製作

それだけラスティンは

オバマ元大統領に影響を与えた人物ということなのでしょう

1954年、最高裁が「人種隔離を違憲とする」判決をくだすものの

黒人差別が収まることはありませんでした

1960年、5000人の黒人のデモ行進を行い

ロサンゼルスの民主党大会に抗議に行く計画を立てた

ラスティン(コールマン・ドミンゴ)は

黒人教会の指導者であり、モンゴメリーでの「バス・ボイコット」の先導者

マーティン・ルーサー・キング・ジュニア(アムル・アミーン)に

行進の指揮をとるよう頼みます

しかしそのことを良く思わない

(下院議員に選出された初のアフリカ系アメリカ人

民主党のパウエル議員(ジェフリー・ライト)は

(NAACPの指導者)ロイ・ウィルキンス(クリス・ロック)に

ラスティンの性的指向を暴露し

キングと”関係”があるという嘘の噂を流させます

それでもラスティンは自信満々、マーティンを信じていましたが

コミュニティからの圧力(ラスティンから距離を置くよう要求された) に

屈したマーティンは行進を取りやめたうえ

ラスティンをNAACPから除名してしまいます

1963年、若い活動家を集め「戦争反対者同盟」のリーダーとなったラスティンは

2日間でホワイトハウスに10万人を集める行進を考えます

(初期の公民権運動と労働運動の著名な発言者)

アサ・フィリップ・ランドルフ(グリン・ターマン)に協力を求め

ロイの説得に行きますが、ロサンゼルスの行進の時と同じように

ロイからは却下されてしまいます

NAACPのメンバーでミシシッピ州の黒人指導者地域評議会(RCNL)会長

ドガー・エヴァーズと

牧師の娘を妻にもつクライアス・テイラー(同性愛者で架空の人物)の

ふたりから、なんとか賛同してもらえますが

ケネディ大統領の全国テレビ公民権演説のわずか数時間後

エヴァーズが暗殺されてしまいます

それでも「キングがいればできます」と

テイラーの言葉に励まされたラスティンは

疎遠になっていたマーティンに会いに行く決意をします

マーティンの妻コレッタと子どもたちは温かくラスティンを迎え

久しぶりに会ったマーティンと、お互いの活動の意味を語り合います

さらに若い活動家たちのアイディアで

ワシントンに本部を用意する人、ビラを作れる人、電話係、記録係

街での募金やチャリティーコンサートなどでの資金調達

(10万人集めるための)バスのチャーターなど交通手段の手配

(レストランに人々が入りきらないため)飲み物や食事の準備

黒人警察官の協力を得て拳銃を持たない警備の訓練

それぞれが、それぞれ出来ることで協力していく

さらに(ニューヨークで閣僚のポストに就いた初のアフリカ系アメリカ人女性)

アナ・ヘッジマン博士の視点から

人種差別だけでなく、公民権運動のリーダーも男性ばかり

女性が排除されているという問題点も取り上げられていきます

そうして同盟の皆が一丸となったとき

ラスティンはパウエル議員から「パセデナ」という地名を発言され

パセデナで同性愛者として有罪判決になり警察から酷い暴行を受けた

過去のトラウマが蘇ったり

 

テイラーの妻が妊娠し

「偽りの自分でいるのは良くない」と(白人の若い恋人がいるくせに 笑)

説得するものの、テイラーは彼の元を去ってしまいます

そんなときマーティンがテレビ演説で

「ラスティンこそがアメリカの民主主義に忠誠を誓っている人物」

「行進の先導に彼ほどの適任者はいない」

「彼は自慢の友人です」と語りかけ

失意のどん底にいたラスティン

マーティンの友情の証に涙するしかありませんでした

ついにやってきた行進当日

老若男女、黒人だけでなく多くの白人たちも次々と訪れ

プラカードを掲げながら行進する

その数は目標の10万人を遥かに上回り

最終的には25万人にまで達します

リンカーン記念堂にマーティンの後ろにはラスティンの姿

マーティンの「私には夢がある」と演説がはじまると

民衆の心はひとつになります

 

マーティンやロイらと共に、ケネディ大統領との会談に招待されるも

「ごみを拾いたいんだ」と断るラスティン

ラストクレジットで

ラスティンは1977年からウォルター・ネーグルという白人男性と交際し

亡くなるまでの10年間パートナー関係だったと表示されます

 

黒人というだけでなく、同性愛者としても迫害を受けてきたラスティン

それでも信念を貫き通す潔さ、何より誰にも負けない強さがあった

だからこそキング牧師は「ワシントン大行進」に同調し

今も語り継がれる偉業になったのでしょう



【解説】Netflixより

1963年のワシントン大行進を主導した活動家、バイヤード・ラスティン。公民権の歴史の流れを変えようと力を尽くし、人種差別や同性愛への偏見にひるむことなく戦った彼の姿を描く。監督はジョージ・C・ウルフ

出演:コールマン・ドミンゴクリス・ロック、グリン・ターマン

ジャンル:LGBTQ実話に基づく映画、社会問題に迫るヒューマンドラマ

2023アメリカ|13+|108分