マエストロ:その音楽と愛と(2023)

「芸術作品がもたらすのは問い」

「その本質的な意義は矛盾する答えがはらむ緊張の中にある」

原題は「Maestro」

副題バーンスタイン」でよかったんじゃない?(笑)

ニューヨーク・フルハーモニー交響楽団監督就任した

初の(ユダヤアメリカ人指揮者レナード・バーンスタイン(19181990

ウエスト・サイド物語」や「波止場」を代表作とする

映画音楽にも貢献した作曲家

ヘビースモーカー(1日に100本以上吸っていた)で

同性愛や共産主義傾倒

妻に放った「芸術家ってのはホミンテルン(ホモ+コミンテルン)なんだぜ」

あまりに有名なセリフ

制作には監督・脚本・主演を務めたブラッドリー・クーパーの他に

マーティン・スコセッシや、スティーヴン・スピルバーグの名も連ね

(特徴的なユダヤ人の鼻の造形を非難された←でも本人そっくり)

特殊メイクはカズ・ヒロ(辻 一弘)

間違いなく今年度の賞レースを賑わせてくれる作品のひとつ

見ようによっては「TAR/ター 」の二番煎じですし(笑)

次々と若い男に手を出すのは

日本の男性アイドル事務所の社長を思い浮かべてしまい

いい気分はしませんが

トップクレジットがキャリー・マリガンであることからわかるように

バーンスタインより、妻フェリシアにスポットライトを当てています

3人の子どもを育てながら、有名人の妻としての役目を果たし

(巨大なスヌーピーの使い方とか上手すぎる)

最終的には夫の浮気を許し理解しようとします

(長年連れ添って「お母さん」になってしまうあるある 笑)

あくまで人間ドラマとして描こうとし

お涙頂戴の感動ストーリーに作り込んでいないところは好感持てます

キャリー・マリガンは主演女優賞いけると思います

見どころはやはり圧巻のコンサートシーン

特に大聖堂で行われたマーラーの「復活」が素晴らしいですね

音源はバーンスタインのものを使ってると思うのですが

演奏した楽家たち本物でしょうか

まるでドキュメンタリー映像を見ているようなリアル感

物語はバーンスタインがインタビュアーに

亡き妻のことを語るところから始まります

今も時々、庭に彼女の姿が見えるのだと

すると画面はカラーからモノクロ

(「A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー」を思わせる)

真四角な16ミリショットのサイズになります

1943年、突然の電話で起こされる(25歳の)バーンスタイン

(ベッドには裸の男性がいる)

病気で出演できなくなったブルーノ・ワルターの代わりに

ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団の指揮をとり、観客は大喝采

新たな天才指揮者の登場にマスコミも盛り上がります

そんなとき、パーティで知り合った

聡明でユーモアのセンスのあるチャーミングな舞台女優

フェリシアキャリー・マリガン)と意気投合

4年の交際期間を経て結婚、3人の子どもにも恵まれますが

(親友とばったりあって、パパともママとも寝たと言うジョークは最悪)

ここでも悪徳マネージャー(ジョン・リードほどではない?)が登場

作曲をやりたいというバーンスタインに次から次へと仕事を入れ

代償として若くて可愛い男の子を与えていました

バーンスタインフェリシアの目の前でも若い男とイチャつくのに

さすがの彼女も我慢の限界

女優業に専念することを決意し、テレビ番組では人気を博します

やがていいなと思うスタッフの男性とデートしてみたものの

男性から出た言葉はフェリシアの男友達を「紹介してほしい」というもの

そこでフェリシアは気が付いたんですね

夫と離れてみても、結局私が好きなタイプは

こういう男性(ゲイ)なんだと(笑)

フェリシアバーンスタインのもとに戻り、彼のコンサートで拍手を送ると

バーンスタイン歓喜し、彼女に何度も熱いキスをします

バーンスタインにとっても、フェリシアはかけがえのない存在

次元を超えた魂の一部なのです

そのフェリシアが末期ガンに侵されてしまう

全ての仕事をキャンセルし、妻に寄り添うバーンスタイン

ここらへんの演出も地味でいい

誰にも会いたくない、同情も、お見舞いも

「愛している」なんて言葉もまっぴら

トイレットペーパーをちぎって痰を吐く紙をつくる

ベッドに横たわる妻を抱きしめるしかできない夫

やがて荷物が積まれた車に子どもたちが乗り

屋敷を離れるバーンスタイン

フェリシアが亡くなったことがわかります

再び学生たちの講師を勤めるバーンスタイン

指揮者を目指す有望な若者に厳しい指導していると思いきや

好みの男の子でもあったという(笑)

それでも、何十人も付き合った男たちではなく

最後に思い出すのはフェリシアのことだけ

それは彼女の愛が

お金のためではない

有名になるためでもない

無償のものだったからです

「夏の歌が聴こえなきゃ 音楽は作れない」

「でも今でも 夏の歌は微かに聴こえる

バーンスタインはそう言い、インタビューは終わるのでした

 

 

【解説】映画.COMより

「アリー スター誕生」で監督としても高く評価された俳優ブラッドリー・クーパーの長編監督第2作で、「ウエスト・サイド物語」の音楽などで知られる世界的指揮者・作曲家レナード・バーンスタインと女優・ピアニストのフェリシア・モンテアレグレ・コーン・バーンスタインがともに歩んだ激動の人生と情熱的な愛の物語を、バーンスタイン雄大で美しい音楽とともに描いた伝記ドラマ。
クーパーがレナードの若き日々から老年期までを自ら演じ、「プロミシング・ヤング・ウーマン」のキャリー・マリガンフェリシア役を務める。共演はドラマ「ホワイトカラー」のマット・ボマー、ドラマ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」のマヤ・ホーク。クーパー監督と「スポットライト 世紀のスクープ」のジョシュ・シンガーが脚本を手がけ、製作にはマーティン・スコセッシスティーブン・スピルバーグが名を連ねる。
2023年・第80回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品。Netflixで2023年12月20日から配信。それに先立ち12月8日から一部劇場で公開。

2023年製作/129分/PG12/アメリ
原題:Maestro