怒り(2016)

信じていた人に裏切られたことへの怒り
愛する人を信じてあげられなかった怒り

そもそも人間は人間を何の疑いもなく

本当に信じることができるのでしょうか

 

2007年、千葉県市川市で英語講師をしていたイギリス人女性

リンゼイ・アンホーカーさん(当時22歳)を殺害した逃亡犯

市橋 達也(当時28歳)がモデル

美容整形をし(保険適用外なので身分証明書なしで受けられる所もある)

各地での住み込み労働と、沖縄の無人島オーハ島に潜伏する

生活を繰り返すようになります

 

事件から2年半が過ぎ、市橋を新宿で見かけたという通報が入ります

テレビでは女装したモンタージュ写真、頬にはほくろがあり

左利きであることが大々的に報道されます

市橋がセルフ整形(両親は医者で本人も医大を目指していた)で

ほくろを切り取った傷を記憶していた美容整形医は

整形後の写真(手術直後で顔が腫れている→抜糸は自分でしたらしい)と

エレベーターの防犯カメラの映像を警察に提出し

全国的に手配書が配られたのです

物語は真夏の八王子で起こった夫婦惨殺事件から始まります

被害者の血で壁に描かれた「怒」の文字

警察はすぐに山神一也という男が犯人であることを突き止めますが

山神はすでに逃走したあとでした

 

そして身元不明の男を巡って3つの物語が展開されます

 

ひとつめは千葉の海岸部で会社を営む槙 (渡辺謙)は

(家出少女を風俗からの被害を防ぐ)NPOから連絡を受け

歌舞伎町にひとり娘(発達障害と思われる)の愛子(宮崎あおい)を

迎えに行きます

愛子は槙(まき)の会社で働くバイトの田代(松山ケンイチ)を気に入り

お弁当を作ったり、デートをするようになります

やがて田代とアパートを借りて一緒に暮らしたいという愛子

しかし田代には不審な点が多くありました、彼が使っていたのも偽名でした

疑う槙に愛子は田代君のことはなんでも知っていると言います

田代も愛子の過去を受け入れ、愛子がよければそれでいいと言います

そんなとき山神の姿をテレビで見た槙は

田代が山神ではないかと疑ってしまうのです

愛子は自分が歌舞伎町で貯めた40万円を田代の鞄に忍び込ませ

もし犯人でなければ昼までに帰ってきてと伝えます

しかし田代は帰って来ませんでした



ふたつめは昼間はエリートサラリーマンとして働き

夜は新宿2丁目を根拠に持つ優馬妻夫木聡)と

ゲイ専門のハプニングバーで知り合ったアナル童貞の直人(綾野剛

優馬は直人を気に入り、住む所がない彼と一緒に暮らすようになります

ホスピスに入院中の優馬の母も直人を気に入ります

しかしある日、直人がカフェで女性と会っているのを目撃してしまいます

激しい嫉妬と疑惑で直人を問い詰める優馬

しかも指名手配犯の頬に3つのほくろがあるというニュースを見ます

直人の頬にも3つ、ほくろがあったのです

直人は姿を消し、警察署から直人を知ってるかと電話が入ると

優馬は直人の痕跡を全て消してしまうのでした

最後の物語は、母親に連れられ沖縄に引っ越してきた泉(広瀬すず)が

友達になった民宿の辰哉(佐久本宝)と無人島に遊びに行くと

田中(森山未來)と名乗るバックパッカーと出会い親しくなります

辰哉とのデートで那覇に行った泉は偶然

(金と食料がなくなり働きに行くのだろう)田中と会います

三人は飲みに行き、辰哉は泥酔

しかも田中と別れたあと、辰哉がいなくなってしまうのです

辰哉を探しているうち、泉は米兵たちで賑わう界隈に迷い込んでしまいます

逃げるように立ち去るものの、人気のない公園でふたりの米兵に襲われてしまう

その様子を辰哉は影で見ていたのです、だけど怖くて助けられなかった

泉は言う「誰にも言わないで」

辰哉の民宿で働きだした田中は、辰哉からその話(仮)を聞くと

「俺、オマエの味方には、いつでもなるからな」と励ますのでした

しかし突然宿泊客の鞄を投げつけ、辰哉にあの日のことを知ってると告白し

夜中に厨房を破壊して逃げてしまいます

 

そんな八王子の夫婦殺害事件を忘れていたころ(笑)

別件で逮捕された男が、山神がどうして事件を起こしたのかを話します

いやいや、あんたのほうが怪しいから

普通、聞いただけの話をそこまでリアルに表現できるか(笑)

山神はごく普通の男で、その日会社から指定された場所に行っても

現場を見つけることができず、担当者に問い合わせると

担当者は先週の現場と間違えて伝えたという

しかし謝罪の言葉はなく、真夏の灼熱の中住宅街に迷い込んでしまいます

山神が座り込んでしまった玄関先で、帰宅したその家の奥さんは

熱中症にでもなったら困るとでも思ったのでしょうね

冷たい麦茶を差し出します

しかしその親切が「他人を見下すことでぎりぎり保っていた」

山神の怒りを爆発させてしまったのです

 

奥さんと後から帰って来た旦那さんは

単なる「とばっちり」ってやつですね

殺すなら現場間違えた担当者殺せよ

自分より弱そうな奴しか相手にできない臆病者めが

警察の調べで、田代は愛子に告白した通り

親の借金でヤクザから追われ、名前を変えて逃げていたことがわかり

愛子は田代を東京に迎えに行くのでした

槙の頭の中で姪(池脇千鶴)の声が木霊したことでしょう
「愛子は幸せになれないと思ってる?」

直人が会っていた女性(高畑充希)は、直人と兄妹同様に施設で育てられ

優馬は彼女から直人が末期の心臓病で

最期は公園の草むらから遺体が見つかったとを教えられるのです

そういえば直人と墓の話をした

・・・そういうことだったのか

最期まで直人といてやれなかったことに、泣き続ける優馬

辰哉が無人島に向かうと、古いコンクリートの壁に「怒」の文字

あまりにも解りやすすぎる犯人の証拠(笑)

そして何事もなかったように田中がいました

 

ただ泉のレイプに関しては「ウケる」と嘲笑はしたものの

受け止め方は違うけど、辰哉同様に助けもせず見ていただけで

犯罪には関わっていないんですね

どちらかといえば、辰哉が泥酔さえしなければこうはならなかった

純粋で真面目で、親切にしてくれる人をすぐ信じてしまう

田中も遠い昔はそういう人間だったのかも知れない

だけどうまくいかなかった、裏切られた

「ウケる」

 

辰哉は田中を刺してしまいます

辰哉が田中が逃亡犯の山神だと知ったのは、彼の死後のことでした

大好きだった泉ちゃん

その泉は海に向かって吠えていました

何度も、何度も



LGBTQ(性的マイノリティ)もだけど、前科のある人間や

風俗で働いていた、レイプされた女性たちに対する

世間の風当りはまだまだ冷たい

それが狭い島や田舎だとなおさらのこと

残念だったのは、愛子や優馬や泉に比べて

肝心の殺人犯、田中の人間描写が薄っぺらいところ

本当に悪い奴なのか、サイコパスか、激情型か、キレるタイプなのか

焦点が当てられていないし

夫婦殺害事件と沖縄での人物像にも共通点が見えない

激オコの少年の前にハサミ置いて逆立ちもバカだろ(笑)



前菜もデザートもまあまあ美味しかったけど

肝心のメインの素材を活かしきれていないフルコース映画

総じて65点、1900円払って見たら55点だったかも知れません

(もとをとれるギリギリ 笑)





【解説】映画.COMより

吉田修一の原作を映画化した「悪人」で国内外で高い評価を得た李相日監督が、再び吉田原作の小説を映画化した群像ミステリードラマ。名実ともに日本を代表する名優・渡辺謙を主演に、森山未來松山ケンイチ広瀬すず綾野剛宮崎あおい妻夫木聡と日本映画界トップクラスの俳優たちが共演。犯人未逮捕の殺人事件から1年後、千葉、東京、沖縄という3つの場所に、それぞれ前歴不詳の男が現れたことから巻き起こるドラマを描いた。東京・八王子で起こった残忍な殺人事件。犯人は現場に「怒」という血文字を残し、顔を整形してどこかへ逃亡した。それから1年後、千葉の漁港で暮らす洋平と娘の愛子の前に田代という青年が現れ、東京で大手企業に勤める優馬は街で直人という青年と知り合い、親の事情で沖縄に転校してきた女子高生・泉は、無人島で

田中という男と遭遇するが……。