「東京日仏学院 エスパス・イマージュ」で開催された「追悼 アラン・ドロン」
2本目はジャン=ピエール・メルヴィルの最高傑作とも言われている「仁義」
2度目のレビューになるので、前回とは違うアプローチをしたいと思います(笑)
原題は「Le Cercle Rouge」(赤い輪)で
「運命で結ばれた人間は、一つの赤い輪の中にいる」
(運命、あるいはカルマの定め)というブッダの言葉から
しかもこの「宿命論」というテーマのオーラを浴びたように
公開された年にブールヴィルが病で亡くなり(53歳没)
その3年後メルヴィルが心臓発作で倒れ早すぎる死を迎えます(55歳没)
メルヴィルは「赤い輪」の脚本は西部劇の転調で
舞台は西部ではなくパリ、南北戦争後ではなく現代、馬ではなく車
刑務所から釈放されたばかりの男という
伝統的で簡素なスタイルから始めたといいます
そこでイタリアを代表する世界的な名優
ジャン・マリア・ヴォロンテを招いたわけですが
ヴォロンテは相当厄介な性格で、しかも流暢なフランス語を喋れるので
撮影は大変だったそうです
(でもカメラの前では人格が変わるらしい 笑)
確かにヴォロンテならフィルム・ノワールだのヌーヴェル・ヴァーグだの
スカした映画なんぞ糞くらえとかいいそうだわ(笑)
映画の最初の3分の1は
刑務所から出所したコレー(アラン・ドロン)と
列車での輸送中脱獄したヴォーゲル(ジャン・マリア・ヴォロンテ)の
別々の行動を見せられます
コレーは、マルセイユの刑務所で 5 年の刑期を終えた釈放前日
看守から宝石店を襲う「仕事」を頼まれます
あまり乗り気ではないが、話を聞いてしまうコレー
コレーがかっての仲間リコを訪ねると
寝室にはコレーの恋人だった女(持っていた女の写真のほくろでわかる)
リコはコレーが密告しなかったおかげで助かったにも係わらず
豪邸に住み、コレーの恋人まで奪っていました
しかしコレ-は現金が必要だったため、黙って銃と金を奪い立ち去ります
マルセイユからパリまで列車で移送されています
ヴォーゲルは隠していた安全ピンで手錠を解き、列車から飛び降ります
マッテイはすぐに列車を停め追いかけますが、若いヴォーゲル追いつきません
すぐさま憲兵と警察犬の手配や道路の封鎖をし、ヴォーゲルを追跡
服を脱ぎ川を渡ったヴォーゲルは
ダイナーに停めてある車のトランクに忍び込みます
(検問にあいトランクの鍵を開けたままだった)
そのアメリカ車はコレ-が停めたものでした
食事を終えしばらく草原を走ったコレーはトランクを開けます
コレーが隠しておいた銃を持って現れるヴォーゲル
彼がパリを騒がせている脱獄した囚人だとすぐに気付くコレー
コレーはゆっくり煙草を吸うと
煙草の箱とライターをヴォーゲルに投げるのでした
なぜならすぐに彼が自分と同類だとわかったから
さらにリコが雇った殺し屋ふたりに襲われたコレーをヴォーゲルが助け
偶然という運命によって絆が深まるふたり
中盤は、元警官のジャンセン(イヴ・モンタン) にスポットが当てられます
刑務所の看守から聞いた仕事の話をヴォーゲルに教えるコレー
ヴォーゲルはその話は信憑性があると
計画に必要な狙撃手としてジャンセンを紹介します
その頃ジャンセンはアルコール依存症による幻覚に苦しんでしました
(本当にあるかどうかはわからない)ドアの隙間から
様々な昆虫や爬虫類が現れてジャンセンを襲うのです
しかしコレーとの待ち合わせのクラブに現れたジャンセンは
仕立てのいいコートにスーツ
いくら腐っても、仕事の時は何をするべきかわかっている男
コレーからの依頼を引き受け、その日から酒を断つのです
パリのヴァンドーム広場にある高級宝石店に下見に行き
ここで彼らの計画がはっきりとわかります
一方、ヴォーゲルを逃がしたマッテイ警部は
(彼もまた猫3匹と暮らす孤独でルーティンな男)
彼がナイトクラブのオーナーのサンティ(フランソワ・ペリエ)と
親しいことを知ります
マッテイ警部はサンティに愛息の犯罪を見逃すかわりに
(大麻所持をでっちあげたつもりが本当にやっていた)
ヴォーゲル逮捕に協力するよう交換条件を出します
終盤の宝石強盗のシーンは約25分
しかもセリフがなく、撮影も地味(全体的にモノクロを思わせるカラー)
高級宝石店で宝石を保護するため使用されているのは
精巧な電子セキュリティシステム
宝石に触るどころかケースにさえ近づけません
まずコレーとヴォーゲルが忍び込み看守を縛り宝石店の玄関を開け
やってきたジャンセンが特殊なライフルを組み立て
システムを無効にするキーに弾丸を発射、見事命中します
(三脚から外して撃ち込むシーンかっこいい)
成功に酔いしれるため、酒の香りだけ嗅ぐジャンセン
しかし宝石を持ち去ったコレーは
仲介人に宝石を捌くのを断られてしまいます
これはナイトクラブのオーナーのサンティの仕業で
代わりにコレーがサンティ紹介された仲介人は、変装したマッテイ警部でした
商品を田舎の邸宅まで持ってくるように頼むマッテイ警部
コレーとジャンセンが邸宅に向かいヴォーゲルはアパートに残ります
ジャンセンを援護として車に残し屋敷に入るコレー
マッテイ警部に宝石を見せていると
この商談が安全でないと悟ったヴォーゲルが突然現れ
宝石を持って逃げるようにコレーに告げ
ヴォーゲルは銃を構えていたものの
マッテイ警部を撃つこともなく、コレーの後を追います
ヴォーゲルを列車で移送したとき
マッテイ警部は吸おうと思った煙草を吸うのを止めました
その誠意が彼の命を救うことになったんですね
しかし邸宅にはたくさんの警官が隠れていました
銃声を聞いたジャンセンがふたりを助けよう車でやってきますが
結果3人とも次々と射殺されてしまうのでした
この映画に女性は出てきません
コレーの元カノとクラブのダンサーと花売り娘だけ
(それと宝石店の彫刻のおっぱい 笑)
彼らが破滅してしまったのは宝石泥棒のためだけじゃない
お互いへの信頼、忠誠心による自己犠牲
男の友情という美徳のためだったのです
セリフが少ないからこそ、セリフが生きる
4人の男が全員主役で、それぞれ違ってそれぞれ痺れる
まさしく「追悼 アラン・ドロン」にふさわしい1本でした
「二度と会えないかもしれないから礼を言っとく・・Merci」