原題は「La vida util」(スペイン語で耐用年数、または寿命)
とても映画ツウ、シネフィル向けであるとともに
映画を映画館で人々に届けるために働く人々への
映画を愛する人々への敬意が込められている作品
(上映ホールを備えたフィルム・アーカイヴ)「シネマテカ・ウルグアイ」
日本でいえば「国立映画アーカイブ」のような
ミニシアターで働くホルヘ(45 歳)は
古いフィルムの管理、上映作品の選択
舞台挨拶から映写、座席の修理までこなし
ラジオ「シネマテークの時間」で、映画解説をする毎日
ホルヘを演じたのはもともと映画評論家の方で
館長役は実際にシネマテカ・ウルグアイで
長年映画キュレーターとして働いてきたご本人
映画はフィクションですが「シネマテカ・ウルグアイ」は実際財政難に陥り
その日の館長へのインタビューのテーマは「観客教育」
「観客を育てなければならない」という映画の持つ問題点について
「映画とは記憶することでも博識であることでもない」
「偉大な映画監督の作品を年代順に言える事じゃない」
「映画は人を動かす 心を動かす」 と論じ
オフィスの壁には黒澤明監督の「乱」と「モダンタイムス」のポスター
VHSの棚には「生きる」のテープなど映画愛がいっぱい
さらにホルヘが意義も自信も持って上映作品に選んだのは「オリヴェイラ特集」
マノエル・ド・オリヴェイラ(1908~2015年)はポルトガルの映画監督で
105歳まで劇映画監督として活躍したことで有名なんですけど
熱く語ったところで何人知ってます?って話ですよね(笑)
観客は減少し、会員数も毎月減って行く一方
老朽化した劇場と映写機の修理代もない
賃料は8ヶ月滞納し立ち退きを迫られる
頼みの綱の後援財団からも「営利事業とは言えない」と支援を停止されてしまい
シネマテークは事実上倒産してしまいます
涙するホルヘ
ついに閉館の日、ホルヘは鞄に荷物をまとめ
モンテビデオの街をあてどなく放浪していると
突如、「駅馬車」のワンシーンが流れます(笑)
ホルヘは密かに恋している友人の女性
パオラが数学講師として働く大学を訪ね
そこで学生から哲学の代講師間違われると「そうだ」と言って
「嘘」についての講義を始めます
ホルヘは「嘘」を「映画」に置き換えると
「嘘は尊い」
「嘘は普遍的」
「嘘は高貴なもの」
「僕は高貴な嘘の新参者 誰が規則を作れる?」と
映画への敬意を殺すものは何もないことに、彼自身気づくのです
本物の講師がやってくると
教室から出たホルヘはポケットのナッツを池の鯉に与えると
馴染みの床屋に散髪に行きます
散髪が終わると床屋に仕事用の鞄を置き去りにして
再びパオラに会うため大学に向かいます
そこで彼が口にしたのは、何度も練習したデートへの誘い文句
「コーヒーを飲みに行かない?」ではなく
「今から映画を見に行かない?」 でした
映画の仕事をするだけが映画愛じゃない
好きな人と一緒に映画を見ること
それも映画への愛だとわかったから
パオラは少し驚いたものの、快く「いいわ」と答えたのでした
誇りを持ってやってきた仕事への執着を潔く諦め
(60分という長さなのでそう感じる)
新しい一歩を踏み出す、さわやかなラストでしたが
これはウルグアイだけでなく
日本の名画座やミニシアターが置かれている状況も同じ
決してお涙頂戴なストーリーではありませんが
映画館を愛する人なら感動すること間違いないと思います
監督・脚本のフェデリコ・ベイローの詳しい経歴はわかりませんが
30代でこんな映画撮ったなんて凄いですよね
趣味は「コーヒーを飲んだ後、空を見上げて観察すること」だそうです(笑)
【解説】映画.COMより
老朽化と観客の減少により、閉館の憂き目に遭うシネマテーク=フィルムライブラリー。そこに勤める1人の男の姿を通して、フィルムで撮影された映画やシネマテークにオマージュをささげる。南米ウルグアイの首都モンテビデオ。両親と暮らす45歳のホルへは、シネマテークに勤めて25年になる。フィルムの管理、作品の選択、プログラムの編成、映写から客席の修理と、ホルヘはさまざまな仕事を一手に担っていた。しかし、ここ数年は観客も減少し、建物の賃料も滞納状態が続き、老朽化した機材も修理不能で、館長やスタッフたちを悩ませている。出資元の財団から、利益が出ない状態を続けるわけにはいかないと通告され、ついに立ち退きを迫られる。「25年間、毎日ここにいる」と誇りをもって言える、ホルヘにとって大切な場所が静かに終わりを迎えようとしていた。監督は「アクネ ACNE」のフェデリコ・ベイロー。
2010年製作/67分/ウルグアイ・スペイン合作
原題または英題:La vida util
配給:Action Inc.