戒厳令(1972)

「俺がお前だったら、俺を殺すだろう」

 

原題も「État de siège」(戒厳令

戒厳令とは国内に戦争や内乱などの非常事態が発生したとき

司法権立法権、行政権の行使を軍の支配下に移すこと

物語は1970年、南米ウルグアイ極左武装組織

トゥパマロス(民族解放運動)に

USAID(米国国際開発庁)の通信技師のダン・ミトリオーネが誘拐され

CIAのスパイだとして処刑された事件がモデル

私は左翼には反対ではないけど、「極」やテロはいかんと思う

でも、そうならざるを得なかった理由もあるんですね

そのひとつがウルグアイ警察による「拷問」

たとえ身に覚えがなくても、警察に目を付けられたら終わり

電気ショックに水攻め

そのための武器の提供や指導をしたのはアメリカでした

復讐を誓うのもあたりまえ

テロや誘拐殺人は許せることではない

しかしそれ以上に拷問が苦痛であることを知ってほしい

政治家が自身の権益を守るためには何をしてもいいのか

コスタ=ガブラスの伝えたかったテーマの重さを感じます

そしてガブラスアメリカ政府のブラックリストに載る 笑)

映画はウルグアイの首都モンテビデオ戒厳令がひかれ

軍や警察による厳しい検問が行われているシーンからはじまります

そして盗難車からアメリカ人の通信技師

フィリップ・マイケル・サントール(イヴ・モンタン)の遺体が見つかります

当時の左翼の政治思想や運動を知ってる人間であれば

説明はいらないのでしょうが(笑)

前半は少々わかりにくい

ゲリラも、誘拐されたサントーレもインテリジェンス

どちらの言ってることも正しく思えます

ゲリラの目的は、政府と政治犯を釈放する交渉をすること
最初から人質を殺すつもりはありませんでした

証拠に誘拐するより手間かけてサントーレの傷の手当をします

 

サントーレもそのことはわかってくる

でもなぜ経済開発と人道支援で派遣された技師が人質に選ばれたのか

ゲリラはサントーレが何者であるか、少しづつ証拠を突き付けていきます

通信技師という職業は隠れ蓑で

CIAの警察学校の元教官であり、FBIの覆面捜査官

南米各国で警察や軍隊にゲリラを掃討するための指導をし
ウルグアイではスパイ、拷問、暗殺(虐殺)の

特殊チームの指揮官であることが明らかにされます

君らのほうがスパイじゃないか

全てがバレた時のサントーレの言葉に

すべてが詰まってる

君らは破壊者だ

キリスト文明の根底を、自由を、転覆したいのだ

倒すべき敵だ

教えて欲しい、君らの理想とする文明を

ゲリラは答えます

 

(理想とするのは)弱い文明だ

君のような人間

(死の部隊=虐殺を繰り返す白色テロキリスト教原理主義)を

不要な文明だ

政府はゲリラが宣言したサントーレの処刑日が近づくと

仲間を射殺し、指導者メンバーを逮捕していきます

それは交渉が決裂したことを意味していました

 

ゲリラの幹部たちはサントーレを処刑するのに賛成か否か、決を取り

賛成多数でサントーレは射殺されます

アメリカにとっては、結局はサントーレもただの駒のひとつ

使えなくなったらそれでおしまい

サントーレは政府によってテロに屈しない英雄として国葬され

国の誇りだと、マスコミ受けするお悔やみが発表される

最後は次の軍事顧問が空港に到着するという

シニカルエンド

しかも怖いのはこれが50年前の話ではなく

いまも多くの国でジェノサイドが行われていうということ

オールドファンだけでなく、若い世代にもぜひ見ていただきたい

コスタ=カヴラスの政治三部作これにて終了

ギドラ伯爵の貴重なDVDコレクションのおかげで

国際問題についてまた少し賢くなれた気がします

次のユニセフ親善大使は私かもしれない(笑)

 

 

【解説】allcinema より

緊迫した政治情勢を調査するために、南米ウルグアイを訪れ、銃射された民間人と称するアメリカ人、実は政治組織の高級官僚だったダン・アンソニー・ミトリオンをモデルに、“戒厳令”下の恐怖政治の実態を暴く。製作総指揮はジャック・アンリ・バラエティエ、製作と監督は「Z」のコンビのジャック・ペランとコスタ・ガブラス、脚本はフランコ・ソリナスとコスタ・ガブラス、原案はフランコ・ソリナス、撮影はピエール・ウィリアム・グレン、音楽はミキス・テオドラキス、編集はフランンワ・ボ

一九七〇年八月、南米ウルグアイモンテビデオは黒い霧に包まれていた。緊迫した政治情勢下にある月曜日の朝、イタリア系アメリカ人フィリップ・マイケル・サントール(Y・モンタン)ブラジル領事ロベルト・カンポスが、都市ゲリラの革命グループ“ツパマロス”に誘拐され、街の一角にある地下本部に連れ去られた。この国際的誘拐事件は、ジャーナリズムで異常な反響を呼び起こした。なかでも、進歩的な新聞社を主宰するカルロス・デュカス(O・L・ハッセ)は曖昧な答えしかしない政府側に疑問を感じ、単独で調査に乗り出した。フィリップ・マイケル・サントール--国際開発機関の交通・通信部担当技師ということで警察に籍をおいていたが、事実は違っていた。彼は、アメリカ国家の命により、ウルグアイ政府と手を結んで進歩的左翼勢力を弾圧する目的でこの国にやってきたのだ。ワシントンの国家警察の教官であり、既に数多くの左翼グループ弾圧のメンバーを育成していた。ウルグアイの政府内部でも、ロペス大尉(R・サルバトーリ)とロメロ大尉の二人が彼の教育を受けていた。サントールの正体を知り、さらにブラジルその他の中南米諸国を廻り、左翼グループ抹殺を遂行してきたことを知ったカルロスは、ただ愕然とするしかなかった。月曜日の夕方、政府は全市に厳重なる“戒厳令”をしき、特殊軍事警察指令部のロペス大尉をその隊長に任命した。一日おいた水曜日、“ツパマロス”は、捕われの同志と二人を交換する条件をうち出したが、政府はこれを拒絶した。街では軍隊の一般の人々に対する拷問や殺戮が続き、議会でも野党によって政府への批判が行なわれた。その頃、カルロスはさらに大きな事実をさぐりあてた。それは、特殊軍事警察とは名ばかりで、実は裏では“死の中隊”と呼ばれ、暗殺、スパイ活動、拷問を行う秘密組織であり、ロペスらはサントールの指揮下で秘密裡に暗殺団を結成し革命勢力を撲滅すべく、魔の手を伸ばしている、ということだった。凍るような寒さの金曜日、“ツパマロス”は、二人の正体を暴露した。だが、事実を知った国民の批判をよそに、大統領は“正義と権力を守る”とくり返すだけだった。土曜日、“死の中隊”によって“ツパマロス”の連絡所が発見され、革命グループの闘士たちは次々に射殺された。“ツパマロス”の幹部闘士は、二十四時間以内に捕えられた多くの政治犯を釈放しなければ、サントールを処刑すると通告したが、政府は同じ言葉をくり返すだけだった。サントールの処刑は決定した。数時間後、胸部に二発の銃弾を受けたサントールの死体が盗難車の中から発見された。--サントールの国家葬儀が、何事もなかったように整然と行われている。そして、政府はサントールの後任者を迎える準備に余念がない。美しいモンテビデオ空港に降り立つ第二のサントール。だが、既にそのことを知っていた“ツパマロス”の闘士たちの眼が光っていた。彼らの胸の中には、まだ続く自由への解放と闘争への息吹きが静かに波打っていた。戦いはいつ終わるともしれず果てしなく続くのだ。