満月の夜(1984)

f:id:burizitto:20211218212646j:plain

エリック・ロメールの「喜劇と格言劇」シリーズ第4作目

原題も「Les nuits de la pleine lune」(満月の夜)

副題は「Qui a deux femmes perd son âme, qui a deux maisons perd sa raison

(ふたりの妻を持つ者は心をなくし、二つの家を持つ者は分別をなくす シャンパーニュ地方の諺)

 

彼氏がいるのに、複数の男性と付き合わずにいられない身勝手な女の話

普通なら「ドロドロ」で「ボロボロ」になりそうなところ

ロメールが描くとお洒落で、センチメンタルで、刹那さのほうが込み上げてくる

ロメールってホント、魔法使いだな(笑)

f:id:burizitto:20211218212701j:plain

インテリアデザイナーのルイーズは建築家の恋人レミと

パリ郊外のモダンなアパートで同棲しています

 

が、都会好き、パーティ好きで朝寝坊のルイーズと

仕事優先、早朝からジョギング、週末は友人とテニス

ルイーズが男友達と遊ぶのを快く思っていない堅実派のレミは

口喧嘩が絶えません

f:id:burizitto:20211218212730j:plain

そこでルイーズはパリでひとり暮らしをする決意をします

これはレミのためでもあると言います

離れて暮らしたほうがもっと愛せる

 

スティングの「If You Love Somebody Set Them Free

(セット・ゼム・フリー)じゃないけど(笑)

その理屈はよく判る

 

でもこの女の場合、自由=男

パリには作家でオクターヴという、妻子持ちではあるけれど

ルイーズに夢中で言いなりになってくれるボーイフレンドがいました

しかもセックスを無理強いしない都合のいい相手

f:id:burizitto:20211218212802j:plain

ある日オクターヴとカフェに行くと偶然レミを見かけます

そのことをオクターヴに話すと

オクターヴはパーティで会ったルイーズの女友達も居たと言います

顔はよく覚えていないが、特徴的な帽子をかぶっていたと

 

カミーユ

しかもカミーユに別居したレミと付き合うことを勧めたのは自分なのだ

翌日カミーユに会うと

彼女は恋人とイタリア旅行から帰ってきたばかりだと言います

でもルイーズの疑いは晴れない

f:id:burizitto:20211218212817j:plain

ルイーズはもやもやした気持ちのまま

パーティでダンスを踊ったバンドマン、バスチアンとデートします

でも今までと何かが違う、楽しくない

 

明け方、ひとりカフェに向かったルイーズ

隣の席では中年男が絵を書いていて「どれが好き」とルイーズに尋ねる

無視しようとしたものの

 

「眠れなかったでしょ」

「満月の夜は誰も眠れないんですよ」と言われ、彼に興味を抱きます

このほんの短いシーンが重要で、素敵

 

絵本作家の彼は、ひとりになって仕事するため夜中にカフェを転々としていて

家庭も仕事も大事だから、犠牲を払うのはしかたないこと

特に満月の夜は妻も眠りが浅いので、起こさないよう気を使うと言います

f:id:burizitto:20211218212845j:plain

ルイーズの目から鱗が落ちる

同じひとりになりたいでも、彼と自分はなんて違うんだろう

彼は愛する家族を優先し、私は自分のことしか考えていなかった

レミの気持ちなど、少しも考えたことはなかったのです

 

こんなに愛しているのに、ほかの男と遊ぶのを優先するなんて

なんてバカだったんだろう

 

始発の電車でレミに会いに行く、でもレミはいなかった

絶対的だった自信が、今はもう不安しかない

そしてその不安は的中するのです





ルイーズ(パスカル・オジエ)

f:id:burizitto:20211218212929j:plain

郊外で恋人レミと同棲し、パリで仕事するインテリアデザイナー見習い

束縛されるのを嫌いパリでひとり暮らしを始める

アパートを自分好みにリフォームし、夜はデートやパーティを楽しむ

ヒロインを演じたパスカル・オジエは本作でインテリアと衣装も担当した多才

本作の公開から数か月後25歳の若さで心臓発作を起こし急逝

ジャームッシュの「ダウン・バイ・ロー」は彼女に捧げられている

 

レミ(チェッキー・カリョ

f:id:burizitto:20211218212945j:plain

実直で地味な性格の建築家、家に居るのが好き

ルイーズを独占したく、夜遊び好きのルイーズの行動が気になって仕方がない

ルイーズが出て行ったあと、ルイーズの親友カミーユ

ルームメイトを好きになってしまう

 

オクターヴファブリス・ルキーニ

f:id:burizitto:20211218212957j:plain

ルイーズに激しい恋心をもつ、妻子もちの作家

ルイーズが誘えばいつでもひょいひょいと出てくる

ルノワールの「ゲームの規則」の登場人物と同じ役名で同じ役割



カミーユ(ヴィルジニー・テヴネ)

f:id:burizitto:20211218213010j:plain

ルイーズとレミ、共通の友人

 

マリアンヌ(アン・セヴリーヌ・リオタール)

f:id:burizitto:20211218213022j:plain

カミーユのルームメイト、まだ若くあどけなさが残る

カフェでオクターヴが見たのはカミーユの帽子を借りたマリアンヌだった

 

バスチアン(クリスチャン・ヴァデム)

f:id:burizitto:20211218213045j:plain

ルイーズがパーティで出会ったダンス上手なバンドマン

ルイーズとアバンチュールな一夜を過ごす

 

絵本作家(ラズロ・サボ)

f:id:burizitto:20211218213100j:plain

カフェで絵を描いている風変わりな中年男

彼の自然体がルイーズを改心させる

 

 

満月の夜、若い男と浮気した

同じその夜、彼も若い女と共にしていた

なのに自分だけ、とてつもない孤独と敗北感

誰かに傍にいてほしくてしょうがない

f:id:burizitto:20211218213129p:plain

ラストはそうくるのか

なんとも言えない

 

でも不思議なことに、嫌いじゃない



「いつも無断で決める 相談せずに」
「あなたが理解を示せば相談を」

「たまに離れてみないと私は深く愛せないの」
「私に欠けてるのは孤独の体験なの 孤独の時間」

世界の中心にいるっていうのは 場所や 出会いだったり 可能性に溢れてる

「誘惑こそ生きがい」

「彼の愛が消えたら私も彼を愛さない」

「肉体の愛は私の一部でしかない」

「そこまで愛していないし 息が詰まる」
「やっと暇になったの」
「孤独を求めてると言ったでしょ」

「ただキスがしたくて」
「男は一人で十分」

「友達だと思ってたわ」
「さっきと逆で今はここがイヤ」

「私には放浪癖があるから」

「満月の夜は誰も寝れない」

「郊外では流刑の気分だった」

「好きな女性ができた 君よりも」

 

 

【解説】映画.COMより

エリック・ロメール監督による「喜劇と格言劇」シリーズの第4作。パリ郊外のアパートで建築家の恋人レミと暮らすインテリアデザイナーのルイーズ。生真面目なレミと自由奔放なルイーズの間には口喧嘩が絶えない。レミとの生活に息苦しさを感じたルイーズは、パリに自分だけの部屋を借り、妻子持ちの親友オクターブと遊び歩くようになるが……。2人の男と2つの家の間で揺れ動く女性の感情を繊細に描き出す。主演のパスカル・オジェは本作でベネチア国際映画祭主演女優賞を受賞したが、その直後に25歳の若さで急逝した。共演に「クレールの膝」のファブリス・ルキーニ、「ニキータ」のチェッキー・カリョ