原題は「CORKI DANCINGU」(ダンスの娘)
「本当は怖い世界の童話」ではないですが(笑)
本当は怖い、「人魚姫」
だけどこういう、残酷で、エログロで(R15指定)
独特のカルトティックな味わいは私好み
テクノミュージカルというのも新しい
浜辺で練習するロックバンドの曲に誘われ
人魚の姉妹が歌いながら海から顔を表します
姉の”シルバー”と妹の”ゴールデン”は
ナイトパブの支配人に気に入られ
バンドと共にステージで共演するようになるのです
ここでは人魚がお伽噺のように美しい存在として表現されていません
陸に上がった時には人間と同じ姿に変身しますが
性器も肛門もない”のっぺらぼう”な下半身
ところが水を得たとたん、想像以上に大きく長い尾ひれが現れ
魚臭いし、ヌメヌメしている、鱗や歯も鋭い
しかも人間を喰うのです
彼女たちのステージは大人気となり
シルバーは、バンドのベーシストミーテクに夢中になります
「声を失うと」ゴールデンが反対しても
「迷信」だと聞く耳をもたないシルバー
そして彼のものになるため、人間の下半身を移植するのです
(この手術が大雑把すぎる 笑)
シルバーが人間になって、ミーテクとはじめてのセックス
だけど股間は血だらけになり、ミーテクは一挙に引いてしまいます
さっさと新しい彼女を見つけ、簡単に結婚してしまう
それでもシルバーはミーテクと彼の妻を微笑んで祝福するのです
なんでも人魚とは(下半身が魚の形で)足を開けないことから
少女(処女)を暗喩することもあるそうで
歩くたびに足を痛めるのは、処女喪失を表しているそうです
ミーテクは悪気の全くないクソ男
邪気がないぶん、女の子が簡単に信じて、騙されてしまう
こういうクソのほうが厄介だ
船上の結婚披露宴で、海の泡になりたくなかったら
朝までにミーテクを喰えと助言するトリトン
このトリトン王もなのですが、最初は極悪顔のモヒカンハゲと思ったけど
最後のほうになるとだんだんカッコよく見えてくる(笑)
それと同じように、最初はグロテスクで残酷だったものが美しく
逆に人間のエゴと欲望のほうが、許せなくなってくる
魅力的な妹に、ちょっとサエない姉
女性監督ならではのビジュアルはすごく成功していて
妹は目くばせひとつで男を虜にできて、ちょっと声をかければ
男が(ヤりたくて)近寄ってくるのを知っている
でも姉にとっては、はじめて優しくしてくれた男
自分のことを”愛している”と言ってくれる男だったのです
妹が軽薄男に夢中になる姉を心配するのは当然
人魚が人間を喰うには理由がある
それはいつだって人間に裏切られてきたから
人間の男に
ラストに意外性はなかったけれど
この結末しかないともいえるでしょう
誰も幸せになれない
だけどこのなかで、唯一幸せだったといえるとしたら
泡になったシルバーなのだろうな、きっと
【解説】allcinemaより
これが長編デビューとなるポーランドの女性監督アグニェシュカ・スモチンスカがアンデルセンの『人魚姫』をモチーフに、1980年代のポーランドに現われた人魚姉妹の運命を、ホラーやコメディ、ミュージカルをはじめ様々なジャンルの要素を織り交ぜ、シュールかつダークでポップに描き出した異色のファンタジー・ミュージカル。主演はマルタ・マズレクとミハリーナ・オルシャニスカ、共演にキンガ・プレイス。
1980年代のポーランド、ワルシャワ。美しい人魚の姉妹はある日、ビーチに遊びに来ていたバンドマンたちを目撃し、彼らを追って陸に上がる。そしてナイトクラブへとたどり着くと、姉妹はステージで歌や踊りを披露するようになり、たちまち人気者に。そんな中、姉のシルバーはバンドメンバーの青年ミーテクと恋に落ちる。一方、妹のゴールデンは、本来は人魚の獲物である人間たちを食べたいという衝動を抑えられなくなっていくのだったが…。