野獣死すべし(1980)




大藪春彦氏の原作をほとんど無視した内容だそうで
角川の本を売るための映画製作という企業戦略に反したこの完成品を見て
プロデューサーの角川春樹が大激怒したそうです(笑)

ハードボイルドも解釈を一歩間違うと、サイコになってしまうのか
ニーチェを読み過ぎた優作さんの大暴走


このゾンビ男を演じるために優作さんは8キロの減量をし
奥歯を4本抜いて撮影に臨んだそうです
優作さんはデ・ニーロのファンだったそうで
ここでも「タクシー・ドライバー」を意識したように思えます
全体の雰囲気は、「地獄の黙示録」の失敗作とでもいいましょうか





でも前半の銀行強盗のあたりまではよかったです
「銀座ジュエルの永友さん」のアイディアには唸りますし
クールな優作さんと、激情型の鹿賀丈史さんの対比もいい

鹿賀さんといえば「料理の鉄人」のイメージしかないんですけど(笑)
レストランでのウェイターのキレっぷりはなかなかのもの
優作さんを喰ってしまうんじゃないかと思うほど好演でした


ヒロインはアンニュイが代名詞の小林麻美さん
彼女の演技を見れるのは希少なのだそうです(ただし大根)
銀行で好きな男に非情に殺されてしまうのはよろしい






そして後半は、狂気に満ちた精神世界を描いた
暗黒サスペンスになっていきます
一番印象に残るのはやはり「リップバンウィンクル」の話
全く意味のない話を、完全にイカれきって話す優作さん
それがすごい迫力を生んでいます

「ラム、クアントロ、それにレモンジュースを少々、シェイクする」
「XYZ」
「そう、これで終わり、って酒だ」
室田日出男さんが「XYZ」というカクテルの名前を知っていて
このヒントだけで、すぐに答えられたのは驚きでしたけど(笑)


(軍隊経験がないのに)軍服を着て洞窟のひとり芝居は
ないほうが良かったですね
その間ひたすら腰を動かしていなければならない
鹿賀さんが不憫でたまりませんでした(笑)

時折見せる左手を上げるポーズは
釈迦誕生をもじった野獣生誕のポーズなのだそうです





ラストの日比谷公会堂でのシーンは(私は死んだと思っていた)
室田日出男さんに復讐されたという解釈で正しいのでしょうか

それとも室田日出男さんは亡霊で
銃に撃たれたように見えたのも
フラッシュバックで倒れただけなのでしょうか


ハードボイルドというよりは、優作さんのサイコ映画
もし生きていたら、デビット・フィンチャー監督作品に
出演して欲しいと願うような怪演でございました


  
【解説】allcinemaより
ハードボイルド作家大藪春彦の同名小説を1959年の仲代達矢主演作につづき再映画化。遊戯シリーズのコンビ、村川透監督、松田優作主演。伊達邦彦は、通信社のカメラマンとして世界各国の戦場を渡り歩き、帰国して退社した今、翻訳の仕事をしている。普段は落ち着いた優雅な日々を送っているが、戦場で目覚めた野獣の血が潜在しており、また、巧みな射撃術、冷徹無比な頭脳の持ち主であった。ある日、大学の同窓会に出席した伊達は、その会場でウェイターをしていた真田に同じ野獣の血を感じ、仲間に入れ、銀行襲撃を企む。