ザリガニの鳴くところ(2022)

原題は「Where the Crawdads Sing」(ザリガニが歌う場所)

原作はディーリア・オーウェンズのベストセラー殺人ミステリーで

北欧ミステリーを思わせる肌ざわり

作者はジョージア州の自然の中で育ち、生き物に興味を持つようになり

大学で生物学を学び、同じく生物学の研究者の夫と結婚後は

野生動物の研究と保護の仕事に携わったという経歴の持ち主

しかし夫と彼の連れ子が密猟者に対し「射殺政策」を行っていたことが発覚

物語には彼女の半生が投影されているように思えます

制作を手がけたのはリース・ウィザースプーン

さらに監督も脚本も撮影も全て女性だと

こうもクールな仕上がりになるのでしょうか

カメラはポリー・モーガン

米南東部ノースカロライナ州の湿地帯

展望台(消防塔)の近くで若い男の変死体が発見されます

男は金持ちの息子で遊び人のチェイス

彼が「湿地の娘」カイアと付き合っていたことは

バークレー・コーブ(架空の町)で評判でした

誰もが女好きのチェイスに棄てられたカイアの犯行だと信じ

カイアは殺人の容疑者として逮捕

ただひとり、引退した弁護士のトム・ミルトンだけはこの事件を不審に思い

カイアの弁護を自ら引き受けます

カイアは、弁護士にぽつりぽつりと自分の生い立ちを語り始めます

本名はキャサリン・クラークで、もとは家族とともに暮らしていたこと

だけどアルコールとギャンブル依存症の父親からのDVで

母親は家を捨て、兄たちも去り、やがて父親もいなくなったのだと

 

そのときカイア7歳

雑貨店を経営するジャンピンとメイベル(黒人)夫妻の親切のおかげで

沼で獲ったムール貝を売りながら生き延びてきたのです

アメリカって住んでる地域でも差別されるのですね

(関西でも住んでる地域を聞いてはいけないルールがあるらしい)

町の人々は「湿地の娘」と呼び、カイアの名前さえ知らないのです

だから(自分たちも差別されている)黒人夫婦だけは

彼女の立場を理解し手を差し伸べます

 

だけど、カイアを学校に通わせようとするも

クラスメイトの嘲笑と虐めに耐え切れず逃げ出してしまうカイア

そんなとき兄の友だちだったテイトと再会します

幼いながらお互い運命を感じ惹かれ合うふたり

気持ちを確かめ会うのは鳥の羽根の交換(笑)

テイトは長年にわたり彼女に読み書きや数学を教え

カイアは町の図書館の本を全て読み尽くしてしまうほどでした

ロマンチックな関係になっても、テイトは決して一線は超えず

カイアのことを大切にしていましたが

テイトの父親は、大学に行って勉強してほしい

自分のような海老釣り漁師で終わって欲しくないとテイトに言い聞かせます

カイアの生物学の知識と絵の才能に気付いていたテイトは

進学するため故郷を離れる日、彼女に出版社のリストを渡すと

独立記念日(祝日)に帰ってくる、すぐだよ」とカイアのもとを去ります

待ちに待った7月4日、カイアはお洒落して約束の浜辺に行きますが

翌朝まで待ってもテイトは現れませんでした

家族だけでなく、テイトにも見捨てられてしまった

テイトだけは信じていたのに・・

それからは、生物の絵を書くことだけがカイアの救い

誰も来なかった秘密の浜辺に若者が遊びに来るようになり

そのなかのひとりがアメフトのクォーターバックで活躍した人気者、チェイスでした

 

殿様キングでカッコつけのチェイス

自分よりスケッチに夢中なカイアが気になってしょうがない(笑)

カイアが美人であることもだけど、彼がいちばん目を輝かせるのは

カイアの豊富な知識を目の当たりにしたとき

チェイスは親父の店を任されることになったと

カイアに結婚を約束し、お祝いだとふたりは結ばれ

(お互いあまり気持ちよくなかったことがわかる)

 

チェイスが浜辺で見つけた小さな貝殻をカイアに渡すと

カイアはそれに革の紐を通したネックレスにして彼に渡します

二枚貝はふたつでひとつ

だけどジャンピン夫妻の雑貨店に行ったとき

町で偶然チェイスと彼の取り巻きに出会うと

連れの女性から「チェイスの婚約者よ」と指輪を見せつけられてしまいます

チェイスとの関係を終わらせることを決意するカイア

 

そんなとき湿地にリゾート開拓会社がやって来て

登記を調べたところカイアに相続権があることがわかります

ただ登録するのには手数料が必要

カイアはテイトから受け取った出版社のリストを思い出し原稿を送ると

なんと書籍化されることが決定します

しかも発売された本を見た兄のジョディが尋ねて来てくれたのです

母が迎えに来るという手紙を出していたことを知り(手紙は父親が捨てた)

少しだけ救われた気持ちになるカイア

 

生物学の仕事が決まったというテイトも帰って来て

カイアに(将来とカイアを天秤にかけ)約束の日来なかったことを謝り

君なしでは生きられないことに気付いたと告白します

だけどチェイスもカイアを諦めてはいませんでした

金持ちだから「湿地の娘」とは結婚できない

でも好きだから別れないと、カイアをレイプしようとし

抵抗する彼女を殴ります

所詮この男も父親と同じろくでなし

「放っておかないなら殺す」と逃げるカイア

カイアを探すも見つからず、カイアの家をめちゃくちゃにするチェイス

そのとき「殺す」の叫びを、たまたま漁師に聞かれていたのです

 

ついに判決が下される日

状況証拠も証言も全てカイアにとって不利なものばかり

弁護士はどうやって第一級殺人罪で起訴された彼女の無罪を証明するのか

チェイスの死亡推定時刻、カイアがグリーンビルの出版社と会っていたこと

展望台の不具合で転落する危険性を警察が承知し過去に報告書を出していたこと

証拠品の貝殻のネックレスが家宅捜査で見つかっていないこと

チェイスがカイアを本気で愛していたことは間違いないんだな・・)

 

カイアの容疑はすべて「湿地の娘」という差別や偏見によるもの

陪審員にそう訴えたのです

カイアは無罪を勝ち取り、テイトと結婚

テイトとともに湿地で生物学の研究者として人生を歩み、生涯を閉じます

カイアの死後、彼女の描いた生物の絵本を見つけたテイト

ページをめくると、そこには貝殻のネックレスをした青年のイラストと

テープで貼られた貝殻のネックレス

事件から何十年後、事件の証拠品がいとも簡単に

なぜこんなところに?

 

これは死んだカイアの復讐なんだ

あの日帰ってこなかった、テイトへの復讐なんだ

母親はこう教えた(ザリガニは鳴くことが出来ない、だけど)

「ザリガニが鳴く場所の向こうまで行きなさい」

何かあったら、ザリガニが生息する藪のまだ奥深くまで逃げるのだと

 

カイアはこう言った

メスのホタルは、不正な信号でオスを引き寄せて食べ

カマキリのメスは自分の夫を食べ

メスの昆虫は恋人との付き合い方を、人間より知っていると

 

 

【解説】映画.COMより

全世界で累計1500万部を売り上げたディーリア・オーエンズの同名ミステリー小説を映画化。
ノースカロライナ州の湿地帯で、将来有望な金持ちの青年が変死体となって発見された。犯人として疑われたのは、「ザリガニが鳴く」と言われる湿地帯で育った無垢な少女カイア。彼女は6歳の時に両親に捨てられて以来、学校へも通わずに湿地の自然から生きる術を学び、たった1人で生き抜いてきた。そんなカイアの世界に迷い込んだ心優しい青年との出会いが、彼女の運命を大きく変えることになる。カイアは法廷で、自身の半生について語り始める。
リース・ウィザースプーンが製作を手がけ、ドラマ「ふつうの人々」で注目を集めたデイジーエドガー=ジョーンズが主演を務めた。音楽は「ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日」でアカデミー作曲賞を受賞したマイケル・ダナテイラー・スウィフトが本作のためのオリジナルソングを書き下ろしたことでも話題を集めた。2022年製作/125分/G/アメリ
原題:Where the Crawdads Sing
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント