マーサ・ミッチェル -誰も信じなかった告発- (2022)

原題のThe Martha Mitchell Effect」(マーサミッチェル効果)とは

医療専門家が患者の正確な認識を妄想と診断すること(誤診)

ニクソン大統領下の司法長官ジョン・ミッチェルの妻で

ウォーターゲート事件内部告発

マーサ・ミッチェルにちなんだ医学用語

 

ウォーターゲート事件といえば

大統領の陰謀」(All the President's Men 1976

1972年の大統領選挙戦のさなか、共和党の裏工作に気づいた記者が

圧力に抵抗しながら取材を続け

ニクソンを辞任に追い込んでいくというもの

(今の政治家はどんな汚名があっても辞任しないがな)

そこにマーサ・ミッチェルという女性が

大きく絡んでいたことは知りませんでした

閣僚夫人でありながら多弁と正論、多くのメディアに取り上げられ

ホワイトハウスの男性至上主義に屈せず、自分の主張を貫く

ガーリーなファッション、おちゃめでチャーミング

厄介者だけど、彼女のおかげで共和党の支持率が高いことは確か

 

そして政治の世界は、利用できるときはとことん利用し

不利になれば罷免

刑務所に入れられるかも知れないし、殺されるかも知れない

アメリカも、北朝鮮と似たようなものだったんですね

唯一の救いは、発言と報道の自由があったこと

ニクソンCRP、侮辱的にはCREEP(大統領再選委員会)の

委員長にジョン・ミッチェルを指名

ジョンは元CIACRPの警備部長、娘のボディーガード兼運転手である

ジェームズ・W・マッコード・Jrにメンバーを集め

ウォーターゲートオフィスビルDNC民主党全国委員会)に進入し

盗聴器を仕掛ける指示をします

 

事件の時ミッチェル夫妻はCRPの募金イベントのため

カリフォルニア州ニューポートビーチを訪れていましたが

電話を受けたジョンはすぐに記者会見を開き

CRPが事件に関与していることを否定

マーサにもっとカリフォルニアを楽しむよう伝え

ひとりワシントンDCに戻ってしまいます

しかもその間、マーサが事件について探ったり、記者に連絡しないよう

FBI捜査官の警備員、スティーブ・キングに監視させたのです

しかしマーサの勘は鋭い

ましてや妻なら夫の様子がおかしければすぐに気付く(笑)

 

ロサンゼルスタイムズの記事のコピーを取得し

逮捕者の中のひとりがCRPの警備部長であることを知ります

CRPは無関係という夫の発表に矛盾している

疑問に思ったマーサはジョンに電話しますが繋がりません

マーサの探求心は止まらない、お気に入りの記者

ユナイテッドプレスのヘレン・トーマスに電話をかけます

しかし電話は突然切れてしまい、ヘレンがかけ直すと

ホテルのオペレーターと名乗る人物が

マーサが錯乱状態で今は話せる状態でないと伝えられます

 

マーサが何者かに電話を奪われ、連れ去られたのではないかと疑い

ヘレンはそのことを大々的にニュースで流します

そして多くのメディアがマーサにインタビューするため

彼女を探すことになります

数日後、マーサはニューヨークの

ウェストチェスターカントリークラブで見つかります

彼女の腕はあざだらけで、壁から電話コードを引き抜き

カリフォルニアのホテルから誘拐したのは

警備員のスティーブ・キングだったと告発します

 

でもこの時マーサはまだ夫を信じていたのですね

ジョンがニクソンや事件の罪をかぶらさせないように

CRPを辞任しニクソンと別れ家族と過ごすように勧めるのです

夫を守るため、共和党の腐敗をリークする

しかしホワイトハウスは、マーサが飲酒の問題を抱えている

酔うと妄想的な発言をする、精神科施設で治療を受けている

(専門家を使って)いかにも信憑性のある嘘の情報を流すのです

 

やがて明らかになるウォーターゲート事件の真相

その時には、愛する夫に裏切られ

(マーサと暮らすなら刑務所のほうがマシという捨てセリフが辛い)

子どもたちからの信用まで失ってしまったマーサ

飲酒でもない、妄想でもない

マーサの話には全て裏付けるものがあった

名誉こそ回復はしましたが

 

ウォーターゲート事件から4年後の1976

多発性骨髄腫により57歳で逝去

晩年は同情的な支持者の寄付で生活

葬儀では「マーサは正しかった」という献花が捧げられたそうです

権力によって抑圧された世界では

ただ真実を伝えたいだけが、どれだけ怖くて

難しいことなのか

 

それでも、アメリカで最も恐れられていた大統領を

最も恐れさせた女性

テンポ良く内容を詰め込み、しかも僅か40

マーサの埋葬には(法的にはまだ)夫のジョンと娘も参列

ジョンは身内だけで見送ることを願ったそうですが

マスコミと、マーサのファンと、住民に墓地周辺は囲まれ

叶わなかったそうです

 

それが、マーサが最後まで夫と子どもたちを愛していたことに

ジョンが気付いて行ったことだとしたら

マーサの行いも、死も、きっと報われることでしょう



【解説】ウィキペディアより

アン・アルヴァーグとデブラ・マクラッチー監督による2022年のアメリカ合衆国Netflixオリジナルのドキュメンタリー映画である。2022617日に配信開始された 映画はウォーターゲート事件内部告発者であるマーサ・ミッチェルを中心に添えて進行し、閣僚夫人である彼女がニクソン政権からのガスライティングを受け、口封じをされていたことがアーカイヴ映像で語られる

レビュー収集サイトのRotten Tomatoesでは5件の批評で支持率は100%となっている。

95アカデミー賞短編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされた。