忘れられた人々(1950)

原題は「Los olvidados」 (忘れられたもの)

ルイス・ブニュエルの作品の中でも評価の高い映画

メキシコでは公開時3日で打ち切りになったそうですが

4カンヌ国際映画祭では監督賞を受賞

2003にはユネスコの「世界の記憶」に登録

舞台はメキシコシティのスラム街

感化院から脱走してきハイポ18~19歳くらい?)

少年たちを集め盗みを働きます

しかも彼らが狙うのは自分たちより弱者である

盲目の老人や、足のない障害者

生きていくために情けも容赦もないんですね

さらにハイポは子分のペドロを使って

(自分を密告したと思い込んでいる)働き者のフリアンに復讐しに行き

勢い余って殴り殺してしまいます

そして「誰にも言うな」とフリアンから盗んだ金を半分ペドロに渡し

ペドロを共犯者にしてしまうのです

ハイポは本当に糞なんですね

でも考えてみれば両親もなく、正しいことを教える人間は誰ひとりいない

まわりの大人も糞しかいないのです

盲目の老人カルメロは父親に捨てられたヒート「小さな目」を助けたように見えて

実は自分の介護人としてこき使っている

おまけにミルクを届けてくれる少女メーチェに

2ペソあげるから」とキスを強要したりします

遊園地で薄給で子どもたちを働かせる支配人

(メリーゴーラウンドが人力・・)

夜の繁華街でペドロにお金を見せ近づく中年男

ペドロは妹や弟の面倒も見る心の優しい子

でも母親は彼を拒絶し冷たく当たります

その夜フリアンを殺した悪夢を見たペドロは

良い子になる誓いを立て、鍛冶屋で見習いの仕事をすることにします

しかし親方が出かけている最中にハイポが来てナイフを盗み

容疑がかけられてしまう

こんな悪ガキ、感化院に入れてくれと警察に頼む母親

(証拠がないので)農業訓練所に入れられることになったペドロ

校長先生が息子にやさしくできないかと訊ねると

母親は「父親のわからない子をどうして愛せますか」と答えるのでした

ペドロを産んだのは14歳(妊娠は13歳か)

夫が死んだのは5年前(でも1歳の赤ちゃんがいる)

生きていくためか、それとも女の性か

ハイポとも簡単に関係を持ってしまう

ブニュエルお得意の貧困と絶望のサイクルですが

単にストイックな社会派映画ではなく

いかに「脚フェチ」であるかもわかります(笑)

母親に捨てられたと思ったペドロは荒れ

訓練所で卵を投げたり、鶏を殺すわけですが

校長先生が寛容なんですね

ここは刑務所じゃない、出入りも自由だと

ペドロに50ペソ渡し煙草を買って来てくれと頼むのです

そのお金を様子を見に来たハイポに奪われてしまいます

校長先生の信頼を裏切ってしまう

なんとかお金を取り戻さなければ!

メーチェの家の納屋でハイポに殺されるペドロ

カルメロに通報され警察に撃たれるハイポ

ペドロの遺体をラバでゴミ捨て場に運ぶメーチェの爺

ラバとすれ違うペドロを探す母親

失ってはじめて気付いた

息子がどんなにやさしかったかを

老人カルメロは言った

これで一人減った

他の奴らも同じ運命になるべきだ

あいつらは生まれる前に殺されるべきさ、と

この85分の作品に社会の問題のすべてが詰まっていました

世の中がよくならないのは何故なのか

 

弱者の不満や怒りや暴力は、更なる弱者に向かっていき

誰も強者と戦おうとしないからです

 

 

 

【解説】allcinemaより

娯楽の核は残したメキシコ時代のブニュエルの諸作品と較べれば、本編や「ナサリン」はより根源的で、彼の代表的欲求により従って作られたものと言えるだろう。冒頭の解説--NY、ロンドン、パリの景観が映り、全世界で少年非行が社会問題に云々と入る--など煽情めくが、後はひたすら冷徹にメキシコシティのスラムの現状が語られる。ペドロは兄貴分のハイボの影響を受けて共に盲目の大道芸人を襲うが、まだそれほどワルでもなく、母親に邪慳にされながら幼い弟妹の面倒を見る健気な少年だ。なのに、ハイボは自分が感化院に入れられたのは彼の密告のせいと思い込む。彼はペドロの親友フリアンを撲殺し、ペドロは口をつぐむと約束させられた。その夜、ペドロは夢をみる。親友の死体、白い鳩、やさしい母……。しかし、母からもらった肉を奪おうとするハイボにペドロはうなされて目覚める。彼は夢で母に誓った通り、真面目に働こうと鍛冶屋の見習いとなるが、そこへもハイボが現われ、ペドロに隠れてナイフを盗み、これが彼のせいとなって感化院送りに。無実のペドロは反抗的だが、進歩的と自負する院長は試みに彼を使いに出す。しかし、またハイボが、預かった金を奪って消えた。追うペドロは遂にハイボの秘密を仲間に明かすが……。救いのない結末に向かって一気呵成に映画は動く。まるで獣のように。疫病神ハイボを少年の母が誘惑する背徳のエロス。そして、悪夢の中、ハイスピードで飛ぶ鶏のシュールなイメージ。安易な解釈を拒絶するハダカの映画には、観る者も心を裸にして触れ合わなければ……。