「ずっと待っていた」
「たった8日間じゃないか」
「いえ、ずっと待っていたのよ」
原題も「МОСКВА СЛЕЗ АЛ НЕ ВЕРИТ」(モスクワは涙を信じない)
1985年、レーガン大統領がゴルバチョフ大統領と初めて会う前に
「ロシアの魂」を理解しようと、この作品を少なくとも8回鑑賞したと
インタビューで答えたそうですが
他にもソビエト映画の秀作はたくさんあるんだから(笑)
単にハマっただけとしか思えない(笑)
見やすく、わかりやすく、ユーモアがある
成瀬己喜男や木下恵介など、女性がテーマという
日本映画の(たぶん)影響も受けていて共感もてます
disc1、1958年
モスクワの職業女子寮の仲良しルームメイト3人組
カテリーナは化学の国家試験合格を目指しながら工場で働き
機械が壊れれば自分で修理する腕前、だけど恋愛には奥手
パン屋で働くリュドミラは、行動力があり華やか
女の幸福は結婚相手(芸術家、芸能人、スポーツ選手、科学者)で
決まると信じていて、セレブのお嬢様を装い玉の輿を狙っています
アントニーナは建設現場の佐官工で真面目なタイプ
同じ職場の電気技師、ニコライと結婚を前提に付き合っています
ある日カテリーナが大学教授の叔父のマンションの留守番を頼まれると
リュドミラはカテリーナを教授の娘に仕立て上げ
知り合った男たちをマンションに招待します
その中のひとりがオスタンキノ・テレビセンター
(ロシアの報道機関組織でヨーロッバ最大の放送センター)のカメラマンで
ハンサムなルドルフでした
男に免疫のないカテリーナはすぐにルドルフを好きになってしまいます
ルドルフのお母さんは教授の娘で高級マンションに住むカテリーナを
暖かくおもてなししてくれました
シャンパンに魚料理、だけどカテリーナはテーブルマナーがわからない
魚は食べれないの
ひとつの嘘が、次の嘘を生みだします
真実を伝えたい、だけど引き返せない
でもこんなにも優しくて、私を愛してくれる彼なら
わかってくれるはず
カテリーナはルドルフに求められるまま身体を許してしまいます
そして一度のセックスで妊娠してしまう
しかも工場にテレビクルーが取材に来て
「労働のヒロイン」として取材を受けることになったカテリーナ
カメラマンはルドルフ
嘘はばれ、カテリーナが工婦だと知ったルドルフは
「病院に連れて行って」と願うカテリーナを無視して去ってしまいます
代わりに手切れ金を持ってやって来たのはルドルフの母親
カテリーナは「働いていますから」と母親を追い返します
(私なら貰うがな)
アントニーナはニコライとの結婚式で皆からの祝福どころでない
カテリーナの話に耳がダンボ(笑)
そうしてカテリーナはアントニーナとリュドミラに見守られながら
女の子を出産、アレクサンドリアと名付けます
仕事と育児と勉強で疲れ果てて寝る毎日
目覚ましだけは忘れずに・・
この目覚まし時計の使い方がうまいですね
これひとつだけでタイム・マシーン(笑)
disc2、1978年
娘のアレクサンドリアは美しく成長し、音楽が大好きな大学生
カテリーナは化学プラントの責任者で工場長に昇格
出会い系(社会主義国家だから公務か)の顧問も勤めることになります
どこの国も結婚や出産率の低下による生産性の低下は社会問題なんですね
しかも戦争ばかりしている国は、男性の数が圧倒的に少ない
安定した職業で経済力のある男はもっと少ない
カテリーナも出会いを求めていたのでしょうが
妻子ある男性と不倫(いい男はみんな結婚してる)
だけど所詮自分は遊びで、家族が大切なことを知ります
リュドミラはアイスホッケーのスター選手セルゲイと結婚しましたが
セルゲイがアルコールで身を滅ぼし7年前に離婚
それでも金を無心にやって来るセルゲイに身銭を渡してしまう(腐れ縁)
だけど男狩りハンターの目は40歳になっても健在(笑)
職場のクリーニング店に将校さんがくれば熱い眼差しでアイコンタクト
相手に奥さんがいようがかまいません
アントニーナは今も建設現場で働きながら
夫の両親の農場で三人の息子たちと暮らしています
カテリーナとリュドミラもときどきやって来て農場を手伝ったり
とれた野菜で料理を作っています
休日は田舎でのんびりが理想は、万国共通ですね(笑)
そこでカテリーナは「靴の汚い男は嫌」という話をするのですが
その後、通勤途中の列車の向かいに座ったのが靴の汚い男
カテリーナの一瞬の表情に気付いた男は
「その目は刑事か、男を探る女の目」と彼女の分析を始めます
ゴーシャと名乗るその男は、カテリーナをタクシーで駅から家まで送り
次の日もやって来て、疲れているというカテリーナの代わりに料理
しかもいきなりプロポーズ
さすがに早いか、返事は5日待とう
明日はピクニック行くぞ
彼の職場の同僚もやって来てバーベキュー
娘のアレクサンドリアの元カレとのトラブルは喧嘩で解決
カテリーナ「もうそんなことしないで」(怒)
ゴーシャ「俺に命令するな」(怒)
アレクサンドリアが席を外すと
「娘の前では言わないでくれ」(願)
常に男の立場は女の上でなくてはいけない
時代遅れで男尊女子な男
だけど、散々男で苦い経験をしたはずのバリキャリが
意外とこういう強引な男に弱いんですね
本当はずっと、誰かにリードしてもらいたかったのです
自分より強い男を探していたのです
そんなとき、テレビの取材で20年ぶりにルドルフと再会
出世したカテリーナを見て逃がした魚が大きかったことに気付いた彼は
娘に会いたい言い出します
なんていう糞(本人は無意識だろうけど)
そうして突然ディナータイムに花束とプレゼントを持って来る
アレクサンドリアに父親だと説明するカテリーナ
「パパは死んだのでは」とアレクサンドリア
「ごゆっくり」と部屋を出て行ってしまうゴーシャ
テレビ局に勤めるルドルフと工場長のカテリーナ
格下の工員、ただの技師など出る幕はない
ゴーシャはたぶん戻らない
悲しくて悲しくて泣いてしまうカテリーナ
しかも駆け付けたリュドミラとアントニーナに
カテリーナはゴーシャの苗字も住所も知らないという
そこでゴーシャを探すことを買って出たのは
アントニーナの夫ニコライでした(ゴーシャと同じ本業は技師)
ゴーシャは本で埋もれた質素な部屋で
干し鱈を肴に酒を飲んでいました
この無機質で女っ気のなさがまたいい(笑)
ニコライも鱈で酒を飲む(一緒に酒を飲めば友だちの文化)
ニコライとわかりあえたゴーシャはカテリーナの元に戻ってきます
リュドミラにも嬉しい知らせがありました
元夫のセルゲイがアルコールを断ち、昔のように素敵なスーツ姿で
アイスホッケー界に呼ばれたことを知らせに来たのです
どんな強い女でも、男を本気で好きになってしまえば
鋼鉄のような心もメロメロ、過ちを犯してしまう
モスクワは涙を信じない(泣いたところで誰も助けてくれない)
でも苦労を乗りこえれば、努力さえすれば
きっと幸せは待っているはず
そうやって女たちは生きてきたんだな
これがソ連時代のロマコメの傑作
女性の友情を描いた先駆けでもあります
外国語映画賞を受賞しました
【解説】KINENOTEより
それぞれに夢と希望を抱いてモスクワに出てきた三人の娘の20年に亘る愛と苦悩、友情を描く。監督はウラジーミル・メニショフ、脚本はワレンチン・チェルヌィフ、撮影はイーゴリ・スラブネビッチ、音楽はセルゲイ・ニキーチンが各々担当。出演はヴェーラ・アレントワ、アレクセイ・バターロフ、イリーナ・ムラヴィヨワ、ライサ・リャザノワ、ナターリヤ・ワヴィーロワ、ユーリー・バシリエフ、ボリス・スモルチコフ、アレクザンドル・ファチューシンなど。
1958年モスクワ。カテリーナ(ヴェーラ・アレントワ)、リュドミーラ(イリーナ・ムラヴィヨワ)、アントニーナ(ライサ・リャザノワ)の三人は、同じ女子労働者寮に住む親友同士。カテリーナは専門学校の資格獲得をめざして学ぶ努力家。リュドミーラは、明るく積極的な性格で、有名人や芸術家に出会って成り上がろうと考えている。アントニーナは良妻賢母型の控え目な人柄、同じ職場のニコライ(ボリス・スモルチコフ)との結婚は時間の問題だった。そんなある日、大学教授の伯父の留守番を頼まれたカテリーナをリュドミーラが訪れ、カテリーナを大学教授の娘に仕たて、ハイ・レベルの男性たちを家に招いた。それがきっかけでリュドミーラはアイス・ホッケー選手グーリン(アレクザンドル・ファチューシン)と知り合い、カテリーナもTVカメラマンのラチコフ(ユーリー・バシリエフ)と愛し合うようになった。しかし、カテリーナが女性調整工であることを知ったラチコフは、彼女のもとを去った。カテリーナはすでに妊娠しており、未婚の母となってひとり工場で働きながら子供を育てた。それから18年、カテリーナはモスクワの大きな工場の工場長にまでなっており、娘アレクサンドラ(ナターリヤ・ワヴィーロワ)も美しく成長していた。一方、リュドミーラは、アルコール中毒の夫グーリンとは離婚して結婚相談所に通っていた。そして、アントニーナはニコライや子供たちと幸福に暮らしていた。ある日、カテリーナは、ゴーシャ(アレクセイ・バターロフ)という不思議な魅力をもつ中年の仕上工に出会い、プロポーズされる。初めての安らぎに満ちた愛を受けるカテリーナ。アレクサンドラともすぐ親しくなるゴーシャだったが、実の父ラチコフの出現で彼は姿を消した。そしてニコライたちが必死でゴーシャを探して彼を連れ戻した。涙ながらに、カテリーナは言うのだった。“一生涯あなたを探していたような気がする”と……。