原題も「HILLBILLY ELEGY」(田舎者の哀歌)
「ヒルビリー」とは山岳地帯に住む田舎者を呼ぶときの蔑称
スコッツ=アイリッシュの人々のこと
原作はJ.D.ヴァンスによるベストセラー回顧録で
「トランプ支持者や、分断されたアメリカの現状を理解するのに最適の書」
と評されているそうです
でもただのトランプ支持者のキャリアポルノ
(読んだだけで達成した気分になる自己啓発書)と決めつけるのは
さすがにもったいない
主人公J.D.オハイオ州ミドルタウンの出身
祖父母はケンタッキー州にある小さな町ジャクソンの生まれで
13歳で妊娠した祖母マモーウ(グレン・クローズ)は
祖父とともにミドルタウン(当時は製鉄工場があり好景気に沸いていた)に駆け落ち
しかし今やアメリカの産業の過去の栄光の遺物
寂れ果て貧困層の人々が住みついています
母親のベヴ(エイミー・アダムス)は父親の暴力により離婚
看護師をしながらJ.D.(ガブリエル・バッソ)と
姉のリンゼイ(ヘイリー・ベネット)を育てますが
ガラも口も悪い、薬物に溺れ、男は絶えない
そして嘘をつく
薬物、アルコール、ギャンブル、依存症患者には嘘つきが多い
そのほとんどがお金に困ってのことだけど
J.D.は幼い頃から「家族を守るのが家族」と教え込まれているんですね
だから人生のチャンスをいつも邪魔する母なのだけれど
自分を育ててくれたのだから、どうしても憎めない
やがてJ.D.も不良仲間と付き合うようになります
がバアさんの車を借りたせいでバアさんに悪事がバレてしまう
J.D.はバアさんの家に引き取られることになります
このバアさんめっちゃ頑固で口が悪くておっかないんですよ
(「ターミネーター2」を100回以上見てセリフを丸暗記している)
J.D.の不良仲間でも怒られたら口を返せない(笑)
でも、やっぱりお金はないんですね
しかも貧乏人ばかりで福祉も財政も追いつかないのでしょう
無料の食料の配給を2食分頼んでいたけど1食分しか貰えない
するとあの糞ババアが、鬼ババアが
配給員に頭を下げ、J.D.のためスナック1袋を恵んでもらうのです
そのときJ.D.の中でなにかが変わります
貧乏のままじゃだめなんだ、じゃあどうするのか
学校にいく、勉強をする
テストで良い点数をとる
イェール大学のロースクールに進学し
知的でやさしいインド系の恋人ウシャ(フリーダ・ピントー)と幸せな日々
高額な学費を捻出するため
大手法律事務所のインターンに応募することになるのですが
採用試験のための食事会の最中に姉のリンゼイから
母が薬物の過剰摂取で入院し危篤だと連絡が入るのです
私だったら、息子にそんな大事な日に会いに来いと言わない
知らせることもないと思う
でも「ヒルビリー」の人間は違うんです
個人の努力や成功より、「団結」なんです
オマエだけ上手くいったらダメなんです
そういう気質をトランプは利用したんですね
アメリカの産業がダメになったのは日本のせいだ
経済がダメになったのは中国のせいだ
薬物依存が多いのはメキシコのせいだ
テロはアラブ人のテロのせいだ
貧しく(プアホワイト)なった責任は、すべて有色人種(オバマ)のせい
敵を作って団結させる
だから母親でさえ、一流大学に進学すれば偉いのかよ
それより家族を助けるべきだと考えていたのですが
J.D.が必死で自分の入院費を払う姿を見て気が変わります
私も息子を守らなければならないのだと
J.D.を(イェール大学のあるコネチカット州に)帰す決意をするのです
運よくJ.Dは法律事務所の仕事を掴むことができ
やがてウシャとも結婚
母親も今度こそは本当に薬物を断つ決意をするのでした
演技なんだけど、変貌ぶりにはびっくりしますよ
エイミーなんて「魔法にかけられて」(2007)では
お姫様だった人ですから(笑)
にもかかわらずハリウッドのトランプ嫌いのせいで
監督や主演者、 ヒルビリーの人たちまで
不当な評価を受けてしまうのはいかがなものかと思う
自分たちが差別されたくなければ、他人も差別してはいけないのだから
【解説】allcinema より
全米で一大ベストセラーになったJ・D・ヴァンスによる回顧録『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』を「ビューティフル・マインド」「ダ・ヴィンチ・コード」のロン・ハワード監督で映画化したNetflix作品。アパラチア山脈の田舎町に暮らす白人家族の3世代を主人公に、荒廃した町の悲惨な日常と、貧困が親から子へと引き継がれ固定化されていく白人貧困層の過酷な現実を描き出していく。主演は「メッセージ」「バイス」のエイミー・アダムス、共演にグレン・クローズ、ガブリエル・バッソ。Netflixでの配信に先立ち、一部劇場でも公開