原題も「L'ODEUR DE LA PAPAYE VERTE」(グリーンパパイヤの匂い)
全篇フランスのスタジオで撮影されたというフランス製ベトナム映画
このセットがすばらしい
吹き抜け、格子の窓、豊かな緑と水の庭
昆虫たち、蛙、鳥のさえずり
その庭で座って作る美味しそうな料理
その見事な空間で、汗でこびりついた髪、裸足、桶の水で洗う身体
蚊帳の寝床という、覗き見のようなカメラ
”10歳の少女”をここまで大人の男目線でとらえる大胆さ
しかも白い樹液や、大量のパパイヤの種は生殖を思わせます
このような禁断という魔力に人は惹かれる
逆に嫌悪する人間もいるでしょう
1951年、生地屋を営む裕福な家に奉公にやってき少女ムイ
奥様はやさしく、病気で亡くした娘だと思い大切にしてくれました
3男の嫌がらせで高価な壺を割ったときも怒りませんでした
3男の度を過ぎた悪戯も、ムイの気を引くためでしょうが(笑)
蟻を眺めて微笑むムイと、蟻を蝋で固めて殺すような兄弟や
家のお金を全て持ち出して愛人のもとに家出する旦那様とは
明らかに人間性が違う
ムイは長男の友人であるクェンに思いを寄せていました
それから10年後、ムイは20歳になり
長男(父親と同じで怠け者)はしっかり者の嫁と結婚
嫁は収入を増やすため、庭にオウム小屋を建てようと提案し
ムイはクェンの家に預けられることになります
この10年後のムイが、仏壇に飾ってある奥様の娘
トーの写真と同じくらいホラーだし、処女性もないし
(私的には)作風を壊してしまいました
まあ、こればかりは監督の趣味なのでしょうね(笑)
実際の奥様でもありますし
クェンには良家の娘で美しい婚約者がいるのですが
ムイは全く気にしていない様子でクェンの身の回りの世話をします
それどころか婚約者に「勝ったオーラ」を全身から放ち
クェンの家すべてを自分カラーに染めてしまう
奥様からいたたいたドレスとアクセサリーをつけ婚約者の口紅を塗る
それを陰から見つめ欲情を抑えきれないクェンは
夜中に彼女の寝る蚊帳へと向かうのです
潔く負けを認めて去った婚約者は、正しく清々しい
どんなイイ女でも、ムイのような女には叶うわけがない
ダイアナ妃が、カミラ夫人とチャールズ皇太子の仲を
決して引き裂けなかったのと同じ
文盲の(この不幸感がまた男にはたまらない)ムイに
クェンは読み書きを教えます
そしてムイは産まれてくる子どものため詩を朗読するのです
これが大人になったヒロインが、10歳の頃のまま大人になったイメージの
女優さんが演じたのなら、また印象が違ったのでしょうが
この大人ヒロインは(女性から見て)かなり計算高い(笑)
これだけ犠牲系勝ち組女子の
(出た!勝手にジャンル ← いつか流行語大賞 ← あるわけない)
こういうしたたかな女性の描きかたがうまい映画はそう多くない
純愛、間接エロティズム
それでも”お気に入り”にならなかった理由はただひとつ
成人期のヒロインが(女性から見て×2)気に入らなかったから(笑)
せめて20歳に見える女性使ってよ
【解説】allcinemaより
サイゴンのある資産家の家に、10歳の少女ムイが奉公人として雇われて来た。その家には優しい女主人と根無し草の旦那、三人の息子たち、そして孫娘を失って以来二階にこもりっきりのお婆さんがいた。ムイは先輩女中に教えられ、一家の雑事を懸命にこなしていく。そして彼女は、ある日長男が連れてきた友人クェンに恋心を抱く……。ドキュメンタリー出身のベトナム系フランス人、トラン・アン・ユンが初めて劇映画に挑戦した作品で、1951年のベトナムを舞台に、一人の少女の成長を瑞々しい映像で淡々と綴った小品。フランスのスタジオにセットを組んで作られたその絵造りは、時として演劇的な空間や演出を用いながら、水や光、草木(当然その中にパパイヤもある)、さまざまな小動物といった極めて自然なオブジェを融合させる事でユニークな印象をもたらしている。カンヌ映画祭でカメラ・ドール賞(新人監督賞)を受けたのも納得する力量だ。物語は後半で10年後に移りムイも成長した姿を見せるが、少女時代を演じた、ほのかなエロティシズムを醸し出すリュ・マン・サンの存在感は他を圧する魅力。彼女なくしてこの作品の成功はなかったろう。