小さいおうち(2013)


アプローチは「日の名残り(1993)的で
日中戦争から太平洋戦争にかけての時代を
良家に仕えた女中の視点から描かれたもの
 
そこに、現代に生きる大学生の孫の感覚と
当時を生きたおばあちゃん(大叔母)の感覚の違いが

みごとに写し出されています

 
 
 
ヒロインを演じた黒木華ちゃんがいいですね
 
ちょっと垢ぬけない感じを残した抜群に好い顔
 
この顔を嫌いになる人はなかなかいない
 

昭和10年、山形から上京したタキは
 
おもちゃ会社の重役である平井家に奉公にあがり
 
美人で優しい奥様時子(松たか子 )に誠実に使え
 
小児麻痺の息子、恭一を献身的に面倒見ます
 
 
 
そんな平井家に夫の部下で芸大卒の
 
板倉(吉岡秀隆)という若者がやってきます
 

板倉と時子はスコトフスキーのレコードから、
 
「オーケストラの少女」(1937)の話で盛り上がり
 
演奏会でも一緒になり、意気投合
 
そしてときどき家にやってくるようになりました
 
 
 
そんな中、平井(片岡孝太郎)はタキにお見合い話をもってきます
 
あまりにも年の離れた男性にタキは泣き、お見合いは破談しますが
 
板倉にも縁談がきます
 

当時は「産めよ、殖やせよ」という唱導とともに
 
軍国主義を支えるべく、兵力と労働力増強のため
 
独身者を(男性25歳、女性21歳まで)結婚させ
 
子どもをたくさん(平均5人)産ませようという
 
国の政策がとられていたというのです
 
 
 
板倉と気があう時子に、見合い話を進めてくれと頼む平井
 
しかしそのことがきっかけで板倉と時子の密会が始まってしまいます
 

板倉と時子の秘密を知りながら
 
最初に奉公した小説家から「夫婦円満は賢い女中次第」と
 
教えられたタキは苦しみます
 
 
 
そして板倉が徴収のために東京を旅立つ日
 
板倉に会いに行こうとする時子をタキが説得します
 
手紙を書いてくださいと、その手紙を自分が届けると
 
しかしその日、板倉は現れませんでした
 
 
タキ(倍賞千恵子)の死後、その手紙を見つけた孫の健史(妻夫木聡)は
戦後画家として成功した「イタクラジョージ」の展覧会で知った
 
恭一(米倉斉加年の住所を訪ねていきます
 
 
 
恭一は「この歳になって母親の不倫の証拠を見るとは」と嘆くものの
 
板倉とタキによく江ノ島に連れて行ってもらったと思い出を語り
 
「二人はお似合いだったよ」とつぶやくのです
 

当時はまだ封建社会の道徳が色濃く残り
 
不義密通は重罪で、もしばれてしまったら奥様ばかりか
 
ご主人様も坊ちゃまも社会からはじき出されてしまう時代
 
タキがとった行為は最も懸命なものだったのでしょう
 
 
 
でも本当の理由はタキも板倉のことが好きだったのです
 
奥様と駆け落ちや、心中をしてほしくない
 
不名誉な非国民にしたくない
 
そしてなにより、自分でも気がついていないかもしれない
 
奥様への「ライバル心」
 

だから時子の想いに封をしたまま手紙を開けなかった
 
開けることができなかった
 
私はそう思います
 
 
 
ただ、残念なのは女をそこまで虜にさせる
 
怪しい色気が吉岡秀隆になかったこと(笑)
 
これは完璧なミスキャストですし
 
恋愛事情の描き方も軽すぎでしょう
 

それでも私たちの知らない、戦争の祝賀ムード
 
物資がなくてものんびりした庶民の生活感を
 
知れたことは勉強になりましたし
 
何か不思議なものを感じました
 
 
 
戦争も、不倫もいけないこと
 
でもそうなっていく、決して逆らえない運命が
 
確かにそのとき、そこにはあったのです
 


 
【解説】allcinemaより
 
中島京子の第143直木賞受賞作を「男はつらいよ」シリーズ、「東京家族」の名匠・山田洋次監督が映画化した感動ドラマ。日本が泥沼の戦争へと向かっていく昭和初期の東京を舞台に、赤い三角屋根のモダンで小さな家に女中奉公することになった若い娘タキによって語られる庶民の暮らしぶりと美しい女主人・時子の秘めたる禁断の恋の行方を、リアルな時代風俗描写とともにミステリアスに綴る。出演は時子役に松たか子、女中タキ役に黒木華、現代のタキ役に倍賞千恵子。その他の共演に片岡孝太郎吉岡秀隆妻夫木聡。 大学生の健史は、亡くなった大伯母・布宮タキから彼女が遺した自叙伝を託される。そこには、健史が知らない戦前の人々の暮らしと若かりしタキが女中として働いた家族の小さな秘密が綴られていた――。昭和初期、山形から東京へと女中奉公に出たタキは、小説家の屋敷に1年仕えた後、東京郊外の平井家に奉公することに。その家は、赤い三角屋根が目を引く小さくもモダンな文化住宅。そこに、玩具会社の重役・雅樹とその若い妻・時子、そして幼い一人息子の恭一が暮らしていた。3人ともタキに良くしてくれ、タキはそんな平井家のためにと女中仕事に精を出し、とりわけ美しくお洒落な時子に尽くすことに喜びを感じていく。ある年の正月。平井家に集った雅樹の部下たちの中に、周囲から浮いた存在の青年・板倉正治がいた。美術学校出身の心優しい板倉に恭一がすぐに懐き、時子も妙にウマが合って急速に距離を縮めていくが…。