西鶴一代女(1952)

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溝口健二今では小津安二郎黒沢と並ぶ

巨匠という評価が定着しているものの

この西鶴一代女」でヴェネツィアで国際賞を獲得する以前は

好不調の波が激しく失敗作も多く、特にこの作品を発表するまでは

長いスランプに喘いでいたそうです

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しかし時代が溝口に味方した

戦争に負けアメリカに占領されると、男は玉を取られ

女は強姦されると多くの日本人信じていました
そこで日本政府は、女性の貞操を守るため遊郭に協力を求め

ダンスホールや花街でアメリに対応します

さらに素人の女性を募集して慰安所を作ったそうです

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ですが性病が蔓延したり、女性を前借金で拘束する人身売買を禁止しようと

民主化の一環として、GHQは日本政府に公娼制度の廃止を要求します

慰安所は閉鎖慰安婦たちは退職金も貰えず解雇され

多くはパンパンと呼ばれる娼婦になるしか道はありませんでした

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日本での評価はイマイチで、興行も不況に終わったのにももかかわらず

この作品が、海外で高く評価されたのは


貧しくて売られたり、夫が戦死したり、家や家族を失ったり

落ちぶれた女ができる仕事といえば身体を売ることだけ

どこの国でも同じような時代背景があったのではないでしょうか

そんな戦後の女たちの姿と「西鶴一代女」が重なってしまう

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物語はひとりの遊女「お春」寺で羅漢の像を見て

初めて惚れられた男、勝之助(三船敏郎を思い出すところから始まります


御所 (ごしょ)に勤めていた10代の頃のお春は

公卿(くぎょう)の勝之介に宿に連れ込まれたところを役人に見つかり

不義密通だとされ、お春は両親ともども洛外(らくがい)追放され

勝之介は斬首刑になってしまいます

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そこに世継ぎのない主君(近衛敏明の側室を探していた松平家の家中が

お春を見初め、お春は松平家に輿入れすることになります

めでたく跡継ぎをもうけますが、大奥の妬みにあい

子は奪われ実家へ返されてしまいます


するとお金に困った父親は、お春を島原の遊郭売ってしまいます

そこでもまた田舎大尽(=田舎の金持ちで豪遊する者がお春を見初め

身請けすることになります

しかし金持ちというのは嘘で、実は贋金(にせがね)作りの指名手配犯

役人に捕らえられてしまいます

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廓を出たお春は、大商人笹屋女中として働きますが

笹屋の客がお春の遊郭時代の顔見知りであったことから

過去がばれ大旦那進藤英太郎)は

ただで傾城買い(遊女と遊ぶこと)出来る」と大喜び

怒った笹屋の女将に追い出されてしまいます

(仕返しに女将のハゲをばらすがな)

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行き場もなく、実家に帰ったお春

すると扇屋の弥吉宇野重吉がお春に一目惚れしてしまい

扇屋に嫁入りしたお春は、お人好しで働き者の弥吉と

初めて平和で幸せな生活を手に入れます

が、それも長く続かず

弥吉が物盗りに襲われて殺されてしまいます


お春は自分の不幸を嘆き、寺の尼僧の世話になるものの

借金を取り立てに来た男に犯されそうになるのを尼僧に見られ

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寺を追い出されたお春は、扇屋の番頭だった文吉と再会し

行動を共にしますが、文吉が盗みをしてしまい捕まってしまう

ひとりになったお春は三味線を弾く物乞いで小銭を稼いでいましたが

空腹で倒れてしまい、助けたのはふたりの夜鷹(下等の売春婦)でした

そしてお春も街娼として男を誘うようになります

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やがて過労がたたって再び倒れ、そこに母が

松平家の殿が亡くなり、若殿と一緒に暮らせると知らせにくるのです

しかし喜びもつかの間、お春が街娼だと知った家臣は

若殿の顔を遠くから見ることしか許さず

そのまま彼女を牢に入れ幽閉しようとしていました

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家臣たちの隙をみて逃げ出したお春は

過去も捨て、男も捨て

出家して諸国を彷徨う巡礼の旅に出ていました

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溝口ほど女性の憐れ描くのが上手い監督はいない

しかしそのサディスティックさは、撮影現場でも同じだったらしく(笑)


公道に突貫で作ったセットを、警察から翌日の朝まで撤去しろと要請され

(早く撮影を終わらせなければいけないのに)溝口が美術スタッフに

「ずらせ」とか「戻せ」でなかなか撮影に入ることが出来ず現場は大混乱

ついに助監督がキレたという有名なエピソードがあるそうです(笑)

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本作でも溝口が得意とするワンシーン・ワンカット長回し

流麗なカメラワークが随所で見られますが

やっぱり宮川和夫カメラで見たかったですね(笑)

宮川だったら、田中絹代にも男を惑わす色気や魅力

醜女にも残されているかすかな美しさを引き出す

完璧な傑作になっていた気がします


女は強いな

どんな地獄に突き落とされても、生きていこうとする

それを笑ったり、見下したりする特権は誰にもない

と、思います





【解説】allcinema より

井原西鶴の『好色一代女』を、依田義賢が脚色し溝口健二が監督した文芸作品。お得意の長回しや流麗なカメラワーク、そして田中絹代の熱演などが、ヴェネチア国際映画祭での受賞につながった。
 奈良の荒れ寺に集まる街娼たち。年老いたお春は羅漢堂に入り、過去に出会った男の面影を思い浮かべていた。御所勤めをしていた13歳のお春は、公卿の勝之介に宿に連れ込まれたところを見つかり、両親ともども洛外へ追放となってしまった。その後、松平家に取り立てられ嗣子をもうけたものの、側近の裏切りに遭い実家へ帰されてしまう。島原の郭に売られたお春は、気に入られた客の住み込み女中となるが、その妻に嫉妬され追い出されてしまった。さらに結婚相手が急死し、世話になった男の盗みが発覚して捕らえられるなど、流転の人生を歩むのだった。