人生スイッチ(2014)




アルゼンチンで爆発的にヒットし、歴代興収第1位を記録したという
ブラックコメディのオムニバスもの
アルゼンチン版の「世にも奇妙な物語」か
トワイライトゾーン」といった感じです

その攻撃性はなかなかのもので
どのエピソードも行くところまで行ってしまいます

原題は「Relatos salvajes」で
スペイン語で「野蛮な物語」という意味だそうです
海外での評価もかなり高かったようですが
この酷い邦題のせいで見るチャンスを逃す人が多いのではないでしょうか
ひとつひとつのエピソードの邦題もかなりトンチンカン


第1話「おかえし」
原題の「Pasternak(パステルナーク)」は人の名前です

これがいちばん面白かったです
乗った飛行機の乗客全員が「パステルナーク」という人物の知りあいでした
そのパステルナークが操縦室を占拠してしまいます
主治医だという男が操縦室に向かい「キミの両親が一番悪いんだ!」と叫ぶと
飛行機は老夫婦(両親と思われる)のところに突っ込んでいきます





第2話「おもてなし」
原題の「Las ratas」は「ネズミ」のこと

ある田舎のレストランに、そこで働くウェイトレスの父親を自殺に追いやり
おまけに母親を寝取ろうとした高利貸しの男がやってきました
悪党を成敗しようと料理人の女は料理に猫いらず盛ります
その料理を食べても死なない男に、今度は包丁を刺し殺してしまいます

こんな社会のクズは死んだ方がいいという心理は
わからないでもありません(笑)





第3話「エンスト」
原題は「El más fuerte」で「最強」という意味だそうです
この邦題の酷さは、日本人として恥ずかしいくらいです

田舎の道でアウディを走らせていたら、前を走る車に追い越しを邪魔されたので
追い越す際に罵ったところ、アウディがパンクしてしまいました
タイヤの交換中に、追いついてきた男と喧嘩になってしまいます

脱糞だとか、海外のコメディは本当に最低の底がありません(笑)
最後は車が爆破してしまい「ゲイのカップルの心中」にされてしまいます





第4話「ヒーローになるために」
原題の「Bombita」は「小さな爆弾」のこと

駐車中の車を何度もレッカー移動され、キレてしまうビルの爆破職人の話
短い時間にもかかわらず、駐車違反のキップ切られると確かに頭にきますよね(笑)
主人公はそのことが原因で職も家族も失ってしまいます
彼は陸運局を逆恨みし、爆弾を仕掛けた車をあえてレッカー移動させるのです
しかし入った刑務所で、その反逆精神が讃えられ英雄扱いされてしまいます





第5話「愚息」
原題の「La propuesta」は「提案」ということ

息子が酒を飲んで妊婦をひき逃げをし死亡させてしまいます
父親とその弁護士は、大金を払って使用人を犯人に仕立て上げようとします
すぐに使用人が犯人でないと気が付いた検察官も買収します

父親が資産家なのをいいことに、弁護士はあまりに莫大な金額を請求し
キレてしまった父親は、息子を自首させようとします
でも結局話し合いで使用人が出頭しようとするのですが
そこに待っていたのはゴルフクラブを持った死んだ妊婦の夫でした

凶悪犯の弁護をする弁護士って、法で抜け道を見つけるだけで
人間の命なんかどうでもいいように思える時があります
そして現実にも、こういう腹黒い人間のほうが生き延びるのです





第6話「HAPPY WEDDING」
原題の「Hasta que la muerte nos separe」は「死が2人を分かつまで」

披露宴で新郎の浮気相手を見つけ、ブチ切れる花嫁の話
屋上で自殺するのかな?と思いきや、料理人とセックスするわ
「離婚しないで永遠に苦しめてやる!」と花婿の全財産没収を宣言するわ
泣いた花婿を撮影してわ「私が再婚したら、次の結婚式でこの動画を流すの」

結局本音でぶつかり合った後は、和解することになるのですけれど
このような披露宴に呼ばれたお客さんは大変迷惑ですし
浮気相手や元カノを結婚式に呼ぶのは絶対やめたほうがいいでしょう


いい人が誰もいなく、どれもドロドロしていて陰鬱なのですが
人間が何かのきっかけで、怒りや悲しみの境界線を超えてしまうと
こんなふうになってしまうのだという、教訓めいたものは感じます

普通に見える人間が些細なことでキレてしまい
事件を起こしてしまうというのは
日本だけでなく、世界中で社会問題になりつつあるのかも知れません

真っ黒すぎるブラックユーモア
でも、面白かったです



【解説】allcinemaより
本国アルゼンチンで大ヒットし、アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされた全6編のオムニバス・ブラック・コメディ。監督はこれが長編3作目のダミアン・ジフロン。本作はその才能に惚れ込んだペドロ&アグスティン・アルモドバル兄弟が自らプロデュースを買って出て、製作陣に名を連ねた。
 「おかえし」――仕事の依頼を受け、指定された飛行機に乗ったファッションモデル。やがて、乗客全員が彼女の元カレと関わりあることが判明するが…。「おもてなし」――郊外のレストラン。ウェイトレスの女は、客として現れた男が、父を自殺に追いやり、母を誘惑した高利貸しと気づく。怒りを募らせ、猫いらず入りの料理を出してしまうが…。「エンスト」――荒野の一本道で前をノロノロ走るオンボロ車に、追い越しざまに罵声を浴びせる新車の男。運悪くパンクに見舞われ、タイヤ交換を始めたところに、先ほどのオンボロ車が追いついてくるが…。他、ささいなきっかけで、押さえ込んでいた怒りのタガが外れてしまう人々を待ち受ける衝撃の顛末を、辛口のユーモアで繊細かつパワフルに描いた全6編を収録。