サタンタンゴ(1994)

雨が降ろうと、道がぬかるもうと、ある地点からある地点へ行くためには

人間は歩き続けなければならない

人生も同じ、結果7時間18分の作品になったんだ

映画が1時間半であるべきだなんて誰が言ったんだ?

そんなものは「ファック・オフ」だ!

タル・ベーラインタビューより)

原題も「Satantang」(悪魔のタンゴ)

原作は1985年に発表されたクラスナホルカイ・ラースローによる同名小説で

全編約150カットという驚異的な長回し

タンゴのステップ(6歩前に、6歩後へ)に呼応した12章で構成され

準備に9年、撮影に2年、さらに4年の歳月をかけて完成した大作

 

しかし7時間18分という長さは、やはり見る人を選ぶ映画ですね

私もようやっと見たという感じです(笑)

さらに第5章では、少女が本物の猫に折檻しているので

このシーンを受け入れられるかどうかで

この映画の評価が決まると言っても過言ではありません

舞台は秋雨に入ったハンガリーの小さな村

ハンガリーは戦後(1946年~) から1989年まで

ソ連占領下の社会主義政権でした

給料は配給制、やる気のない男たち(労働者)は

お金が入っても、酒代か女を買うのに使ってしまう

女たちも旦那がいても関係ない、売春をしています

「働いたほうが負け」と思っていて

3人の男はお金を盗んで村から逃げようとしています

そのような問題を解決しようと、政府(警察)は

かって村からペテン師として追放され

死んだことになっている男を雇います

ペテンは自殺した少女の死をきっかけに

これは不平等(最もか弱い弱者が犠牲になる)がもたらした不幸

こんな無垢な子どもが亡くなる世界はもういらない

誰もが平等で幸せに暮らせる楽園を目指そうと誘います

そしてその場所を私は長い旅でついに見つけたと

ペテン師の言葉は、救世主のように村人の心に響きました

村人たちから、全財産を預かり廃墟に案内し

次に楽園計画が実現するまでだと、町で住み込みで働く仕事を紹介

人々を観察(スパイ)するよう命令します

ただひとり、足の不自由な男だけはペテン師を疑い従いませんでした

そしてもうひとり、村に残ったアル中の肥満男が

全て嘘で操られていたことに気付くのです

 

キリストの再臨と神の国の到来に疑問を投げかけた

タル・ベーラの映像黙示録

でもこの先はよほど興味のある人しか読まないほうがいいです

(長いから 笑)

(1)1 やつらがやって来るという知らせ

 

小屋から牛たちが現れ気ままに行き来したり、交尾している

やがて牛は謎の引力によってひとつの方向へ向かっていきます

小屋では女が桶で股を洗っている

フタキとシュミット夫人が抱きあっていると、シュミットが帰って来て

小屋を抜け出そうとしたフタキ(片足が悪い)は

シュミットとクラーネルのふたりが村人から金を巻き上げ

(男らは集団農場で働き1年間の給料がまとめて支払われるようだ)

夜逃げする計画を聞いてしまいます

フタキは何事もなかったように小屋に戻り

自分もその計画に加担しようとします

村では死んだはずのイリミアーシュが戻ってくるという噂が広がっていました

(1)2章 我々は復活する

 

イリミアーシュと友人のペトリナが警察に呼ばれ、警視と面談しています

警視が「なんで働かない? 十分な期間があったのに」と訊ねると

イリミアーシュ「働いたら負けかな」と答え(笑)

でも自分は潔白だと言うと、警視は書類を見ながら「前科が多すぎ」(笑)

ふたりは警察への協力を余儀なくされます

イリミアーシュとペトリナは酒場に行き

「全てを爆発する」宣言し酒場にいた人々を凍りつかせます

ボクトゥトゥ!ボクトミシュ!(歩き続ける、歩き続けるのだ)

無煙火薬黒色火薬!と連呼する髭のおっさん

その後ふたりは村に向かい、若い同志のサニが迎えにきます

イリミアーシュが死んだと広めたのはサニでした

(1)3章 何かを知ること

 

双眼鏡でシュミットの小屋を覗いていた「先生」は

ノートを取り出しその様子を全て書き留めています

家政婦をしてくれていたシュミット夫人がもう来れなくなると言い

パーリンカハンガリー蒸留酒)がなくなると

先生は雨の中、酒を買いに行くことにします

途中売春婦がふたりいる小屋で雨宿りをして

やっと酒場に到着すると、村人たちがダンスをしていて中に入るのをためらいます

少女に「先生」と声をかけられ追い払うと、思わず転んでしまい

驚いて逃げた少女に謝ろうと後を追うと森で倒れてしまい(3人の人影が見える)

翌朝、車掌のケレメンが馬車の荷台に乗せ運んでいきます

 

インターミッション

 

(2)4章 蜘蛛の仕事 

 

に来たケレメンがイリミアーシュとペトリナが来る

多くの人が彼を見て、ケレメンもイリミアーシュに抱きしめられたと言います

そこに(2で登場したおっさんが現れる

嘆き」(実際には第6章の狂乱)が来ると語られます

(2)5 不思議の国のアリスはチェシャ猫を殺す

 

父親が首を吊り、施設に入れられていたエスティケは

兄のサニから「金のなる木を作るから、有り金出して」と言われ

林の中に穴を掘ってお金を埋めました

その日、売春婦の母親は客をとっていて家に入れない

雨風が吹いて隣の納屋で猫と一緒に過ごしていたら

猫が急に逃げてしまいました

エスティケは「粗相したわね」と猫を掴まえ

「私のほうが強いんだ」と何度も猫を振り回します

更に網に入れ、最後には猫いらずの入ったミルクを無理やり飲ませます

死んだ猫を埋めようと林に向かうと、穴は掘り返されお金は盗まれていました

兄に文句をつけても「金が必要だから取った」のひと言

酒場の外から、大人たちが踊っているのを見る

そこへ現れた先生に呼びかけますが、不機嫌な先生に追い払われて逃げます

エスティケは死んだ猫を抱きしめ、自分も猫いらずを飲むのでした

(2)6 裏からの眺望

 

酒場ではイリミアーシュの話でもちきりでした

店主は酔いつぶれたフタキを店の裏に連れてい

かつてイリミアーシュが提案した玉ねぎ栽培で皆助かったけれど

それを恩に着せて店の酒を二週間ただ飲みしたことを愚痴ります

村人たちはアコーディオンの伴奏に合わせて踊りをはじめ

窓の外からのぞいているエシュティケに誰も気づかない

元校長がシュミット夫人をタンゴに誘い口説く

ケレメンは俺の人生はタンゴ 母親は海で 父親は大地で♪と歌いだす

パンを頭に乗せ、右往左往するクラーネル

恐怖心を忘れるためかのように、酔い潰れるまで踊り狂

 

インターミッション

 

(3)7 悩みと仕事ばかり

 

エシュティケの遺体を囲んで村人が集まっています

そこに帰って来たイリミアーシュは

少女の悲劇について村人全員が罪びとであると説き

問題の解決のためにはこの村を捨て、皆が平等で幸せに暮らせる

見本農場を作ろう、すでに場所も決まってると言います

ただしそのためには出費が必要だと

フタキ、シュミット夫妻、クラーネル夫婦、元校長らは

1年働いた金を全てイリミアーシュに預けることにします

イリミアーシュは明朝6時にアルマーシ荘園に集合しましょうと約束します

(3)8 裏からの眺望

 

村人は荷物をまとめ、不要になった家具は壊しジプシーに盗まれるよりマシ)

酒場の主人がそれを見ています

皆に親切にしないからよと売春婦に言われると

酒場が潰れたら玉ねぎ栽培をやればいいさと呟く

雨の中歩いてアルマーシ荘園を目指して歩く村人たち

アルマーシ荘園に着いたのは夜で建物は大きく

寒さの中、希望を抱きながら一夜を過ごすのでした

(3)9 ボンバーマンは爆薬を欲する

 

イリミアーシュ、ペトリナ、サニの三人は町にあるシュテイゲワルトの店に行き

武器商人を呼び、車とできるだけ多くの爆薬が必要だと注文します

宿と豚足入りの豆スープを注文すると(美味しそうに食べるな 笑)

警視への報告書を作り始めました

イリミアーシュの仕事は村人を警察のスパイに仕立てることだったのです

(3)10章 教祖は激怒した

 

翌朝約束の時間になってもイリミアーシュが現れないので

村人たちは騙されたのではと疑います

遅れてやって来たイリミアーシュは見本農場の計画は無期延期なった

不信を抱くものたちがいるからだ

金は返そう、信頼と根性のない奴はここでサヨナラだ

君らにはもう関係ないことだ、と強烈に突き放します

再びイリミアーシュの引力に寄せられていく村人たち

イリミアーシュは当面村人たちはばらばらに住み

住居と仕事はすでに用意してあるので

事業の敵について報告してほしいと頼みます

皆さんは偉大な事業に選ばれた人たちだと

トラックにのせられて町へ行き

当面の資金1,000フォリントを与えられ、ばらばらになります

しかしフタキだけは「夜警の仕事くらいみつかるさ」と

ひとり去っていくのでした

(3)11 一方その頃、警察で

 

イリミアーシュによる警視宛ての報告書を

よりわかりやすく、より露骨な文章に

二人の警官がタイプライターで書き換え戸棚にしまいます

(3)12 円環は閉じたようだ

 

酒を買った先生が家に戻ってきました(生きていたのか 笑)

先生は13日間入院していて、村人たちがいなくなったことを知りません

鐘の音に気付いた先生は(村に礼拝堂はない)

神のお告げかと思い、かって教会があった廃墟に向かうと

狂人がベルを叩き、「トルコ軍が来るぞ」と叫んでいただけでした

先生は家に帰ると棚板で窓を閉じ、暗闇の中に身を沈めるのでした

 

おわり

そもそもイリミアーシュは村で何をしていたのか

なぜ村人に恐れられているのかが、全く描かれていない

ただ胡散臭いのはわかります(笑)

少女の純粋無垢さを延々と述べられても

(彼女の生い立ちには同情するが)

私たちは少女の残虐さを見せつけられているから

でも、村人たちはイリミアーシュのどんなに整合性がなく

論理的にも破綻している言葉でも信じてしまう

そもそも、そんな夢のような楽園などあるはずがないのに

そんな場所に行けると希望を持ってしまうのです

(そして持ち金を全部払ってしまう)

 

この世で一番怖いのは教祖降臨なのかも知れません

 

 

【解説】映画.COMより

2011年の「ニーチェの馬」を最後に56歳で映画監督からの引退を表明したハンガリーを代表する巨匠タル・ベーラ監督が1994年に発表した作品で、4年の歳月をかけて完成させた7時間18分におよぶ長編大作。ハンガリーのある田舎町。シュミットはクラーネルと組んで村人たちの貯金を持ち逃げする計画を企てていた。その話をシュミットが彼の女房に話しているところを盗み聞きしていたフタキは、自分もその話に乗ることを思いつく。その時、家にやって来た女は「1年半前に死んだはずのイリミアーシュが帰ってきた」と、にわかに信じられないことを口にする。イリミアーシュが帰ってくることを耳にした村人たちは、酒場に集まり議論するが、やがてその場は酒宴となり、いつものように夜が更けていった。そして翌日、女の言葉通りにイリミアーシュが村に帰ってきた。日本では映画祭などでの上映のみだったが、2019年にベルリン国際映画祭フォーラム部門で初披露された「4K デジタル・レストア版」で1910月に劇場初公開される。

1994年製作/438分/ハンガリー・ドイツ・スイス合作
原題:Satantango
配給:ビターズ・エンド