「浮気相手を連れ帰ってきたようなもんよ」
原題は「THE HIRED HAND」(使用人)
ピーター・フォンダの初監督作品
芸術的で叙情性あふれる美しい撮影
オーバーラップやスローモーションの使いかたのセンスの良さ
このような映像美と雰囲気で見せる映画は
途中で睡魔に襲われる場合もありますが(笑)
90分とコンパクトにまとめているので最後までダレない
溜息カメラはヴィルモス・ジグモンド
テーマはアメリカン・ニューシネマあるある「男の友情」
現実的な女性と違い、相手に深入りしない
「適度な距離感」が心地いいのでしょう
ウォーレン・オーツの繊細な演技にグッとくる
そこにフォンダが「開拓地に生きる女を描きたかった」と語った
男を待ち続け絶望する女を演じたヴァーナ・ブルームがまたいい
ハリー(ピーター・フォンダ)とアーチ(ウォーレン・オーツ)とダンの3人は
夢のカルフォルニアを目指す旅仲間
食料を調達するため寄った村で、ハリーはアーチに
自分は20歳の時10歳年上の女と結婚し娘が生まれたものの
結婚生活に耐えきれず家を出たと打ち明けます
しかしそろそろ家に帰りたいと言い出すのです
その夜、女を求めて遊びに行ったダンが撃たれてしまいます
ダンはその村の有力者、サム・マクベイの妻を襲ったというのです
しかしそれが(女を使い)ダンの馬を狙った罠だと悟ったふたりは
サム・マクベイの足を撃ち村を逃げ出します
そして荒野にダンの死体を埋めたハリーは
本当に家に帰る決意をします
広大で美し風景、けだるい音楽
妻子を捨て失踪した男が、数年ぶりに妻に会いにいくのは
そこに待っていたのはナスターシャ・キンスキーのように
美しい女ではありませんでした
女手ひとつで娘を育て、農場を切り盛りし
生きていくために夫以外の男に身体を預けたこともある
苦労して疲れきった、年増で蓮っ葉な女
7年ぶりに見知らぬ男を連れて突然帰って来た夫を
当然すぐに受け入れることはできません
しかしハリーに頼まれ、妻のハンナ(ヴァーナ・ブルーム)は
ふたり使用人として納屋に住まわせることにします
でも男たちは、意外にも真面目に働いた
荒れ果てた農場を立て直し、娘も懐いていく
やがてハリーとダンに気を許していくハンナでしたが
ある日、町に買い物に行ったダンはハンナの悪い噂を聞いてしまう
夫の不在中、ハンナは農作業を頼んだ使用人たちと寝ていたというのです
そのことをハンナに問いただすなとハリーに釘を打つダン
だけどハリーは妻に確認せずにいられなかった
赤裸々に夫に女の性欲を語るハンナ
ダンにさえ、あなたとも寝れると言う
ここには居れない
ハリーのため再び旅に出る決意をするダン
残されたハリーはその後も妻子のため働きますが
サム・マクベイは襲われた恨みを忘れてはいなかった
ある日ひとりの男がやって来て
アーチのものだという、切り取った指を置いていきます
もちろんそれはハリーをおびき出す罠でした
「行かないで」とハンナ
だけどハリーはアーチとの旅を思い出していました
そして妻より、男同士の絆を選ぶのです
それならむしろ帰ってこないほうがよかった・・
しかもサム・マクベイとの撃ち合いで
あっけなく殺されてしまうハリー
それでもアーチの腕の中で死ねたことは
彼にとって本望だったことでしょう
夫の帰りを待ちながら、ポーチで豆の皮を剥いていたハンナは
遠くに馬に乗ってやってくる男の姿を見つけます
それは蜃気楼が見せた幻なのか
それとも・・
孤独でボロボロな女と、目的を失った男
そして同情が愛になる
そういうこともあるかも知れない
これね、西部劇というより
ヴィム・ヴェンダースとか、パトリス・ルコント、ウォン・カーウァイ
いわゆるムーディ派
それが早すぎた傑作と言われる由来だと思います
そして、意図したかどうかはわからないけど
同性愛と異性愛、どちらも同じくらい深いと示している
善悪もだけど、人間どちらか一方だけが正しいとは
限らないのだから
【解説】映画.COMより
漠々とした放浪の旅には人生の豊饒がある。製作はウィリアム・ヘイワード、監督は「イージー・ライダー」を製作・主演したピーター・フォンダ、脚本はアラン・シャープ、撮影はヴィルモス・ジグモンド、音楽はブルース・ラングホーンが各々担当。出演はピーター・フォンダ、「ワイルドバンチ」のウォーレン・オーツ、「アメリカを斬る」のヴァーナ・ブルーム、ロバート・プラト、セヴァーン・ダーデン、テッド・マークランド、オウエン・オールなど。