さすらいのカウボーイ(1971)

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「浮気相手を連れ帰ってきたようなもんよ」

 

原題はTHE HIRED HAND(使用人)

ピーター・フォンダの初監督作品

芸術的で叙情性あふれる美しい撮影

オーバーラップやスローモーションの使いかたのセンスの良さ

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このような映像美と雰囲気で見せる映画は

途中で睡魔に襲われる場合もありますが(笑)

90分とコンパクトにまとめているので最後までダレない

溜息カメラはヴィルモス・ジグモンド


テーマはアメリカン・ニューシネマあるある「男の友情」

現実的な女性と違い、相手に深入りしない

「適度な距離感」が心地いいのでしょう

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ウォーレン・オーツの繊細な演技にグッとくる

そこにフォンダが「開拓地に生きる女を描きたかった」と語った

男を待ち続け絶望する女を演じたヴァーナ・ブルームがまたいい

 

ハリー(ピーター・フォンダ)とアーチ(ウォーレン・オーツ)とダンの3人は

夢のカルフォルニアを目指す旅仲間

食料を調達するため寄った村で、ハリーはアーチに

自分は20歳の時10歳年上の女と結婚し娘が生まれたものの

結婚生活に耐えきれず家を出たと打ち明けます

しかしそろそろ家に帰りたいと言い出すのです

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その夜、女を求めて遊びに行ったダンが撃たれてしまいます

ダンはその村の有力者、サム・マクベイの妻を襲ったというのです

しかしそれが(女を使い)ダンの馬を狙った罠だと悟ったふたりは

サム・マクベイの足を撃ち村を逃げ出します

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そして荒野にダンの死体を埋めたハリーは

本当に家に帰る決意をします


広大で美し風景、けだるい音楽

妻子を捨て失踪した男が、数年ぶりに妻に会いにいくのは

パリ・テキサス(1984)のようでもあるけれど

そこに待っていたのはナスターシャ・キンスキーのように

美しい女ではありませんでした

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女手ひとつで娘を育て、農場を切り盛りし

生きていくために夫以外の男に身体を預けたこともある

苦労して疲れきった、年増で蓮っ葉な女

 

7年ぶりに見知らぬ男を連れて突然帰って来た夫を

当然すぐに受け入れることはできません

しかしハリーに頼まれ、妻のハンナ(ヴァーナ・ブルーム)は

ふたり使用人として納屋に住まわせることにします

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でも男たちは、意外にも真面目に働いた

荒れ果てた農場を立て直し、娘も懐いていく

やがてハリーとダンに気を許していくハンナでしたが

 

ある日、町に買い物に行ったダンはハンナの悪い噂を聞いてしまう

夫の不在中、ハンナは農作業を頼んだ使用人たちと寝ていたというのです

そのことをハンナに問いただすなとハリーに釘を打つダン

だけどハリーは妻に確認せずにいられなかった

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赤裸々に夫に女の性欲を語るハンナ

ダンにさえ、あなたとも寝れると言う

 

ここには居れない

ハリーのため再び旅に出る決意をするダン

残されたハリーはその後も妻子のため働きますが

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サム・マクベイは襲われた恨みを忘れてはいなかった

ある日ひとりの男がやって来て

アーチのものだという、切り取った指を置いていきます

もちろんそれはハリーをおびき出す罠でした

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「行かないで」とハンナ

だけどハリーはアーチとの旅を思い出していました

そして妻より、男同士の絆を選ぶのです

 

それならむしろ帰ってこないほうがよかった・・

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しかもサム・マクベイとの撃ち合いで

あっけなく殺されてしまうハリー

 

それでもアーチの腕の中で死ねたことは

彼にとって本望だったことでしょう

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夫の帰りを待ちながら、ポーチで豆の皮を剥いていたハンナは

遠くに馬に乗ってやってくる男の姿を見つけます

それは蜃気楼が見せた幻なのか

それとも・・

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孤独でボロボロな女と、目的を失った男

 

そして同情が愛になる

そういうこともあるかも知れない

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これね、西部劇というより

ヴィム・ヴェンダースとか、パトリス・ルコントウォン・カーウァイ

いわゆるムーディ派

それが早すぎた傑作と言われる由来だと思います

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そして、意図したかどうかはわからないけど

同性愛と異性愛、どちらも同じくらい深いと示している

 

善悪もだけど、人間どちらか一方だけが正しいとは

限らないのだから

 

 

【解説】映画.COMより

漠々とした放浪の旅には人生の豊饒がある。製作はウィリアム・ヘイワード、監督は「イージー・ライダー」を製作・主演したピーター・フォンダ、脚本はアラン・シャープ、撮影はヴィルモス・ジグモンド、音楽はブルース・ラングホーンが各々担当。出演はピーター・フォンダ、「ワイルドバンチ」のウォーレン・オーツ、「アメリカを斬る」のヴァーナ・ブルーム、ロバート・プラト、セヴァーン・ダーデン、テッド・マークランド、オウエン・オールなど。