原題も「Sami Blood/Sameblod」
スゥエーデン出身のアマンダ・ケンネル監督は
自分がサーミ人の血を引いていることから
サーミ文化の映画制作を考え
出演者もサーミ人を起用したそうです(姉妹は本当の姉妹)
「ラップランド」といえば子どもも大人も憧れる
”サンタクロース”の住む小人とトナカイの村
ラップ(サーミ)人のコルトと呼ばれる衣装もお洒落で
可愛らしい民族工芸の数々
今でこそこれらの伝統文化を守ろうとしていますが
かっては差別され、同化政策 や分離政策(アパルトヘイト )
が行われていたことをこの作品で知りました
しかしそのような政策に反対するというより
むしろ同化して生き抜いていこうとする女性の姿は
今までの映画体験とは違う手触りで面白かったです
クリスティーナ(エレ・マリャ)は妹の葬儀の知らせを受け
息子と孫娘と一緒にラップランドに来ていました
祭司は「(妹は)死ぬまであなたのトナカイのマーキングをしていた」と
伝えますが、クリスティーナは言葉が通じないふり
親戚の家に泊まろうという息子を振り切って、自分だけホテルに泊まり
「サーミは粗暴で泥棒な民族」と宿泊客に悪口を言うありさま
そしてクリスティーナの記憶は1930年代の「14歳」だった頃に戻ります
それは、もうすぐ移牧学校に行くエレ・マリャとニェンナ姉妹が
トナカイの片耳にナイフで印を付けるシーンから始まります
エレ・マリャは最初から他のサーミ人とは違うものを持っていました
スウェーデン語を流暢に話し、詩の朗読ができる優等生
そして進学して学校の先生になりたいという夢がありました
だけど、地元の男の子たちからは毎日のように罵られ
信頼していた女性担任には「サーミ人の脳は文明が理解できない」と言われ
お偉いさんが来ては見世物のような身体検査
そんなある日、エレ・マリャは外に干してあった
女性担任のワンピースに目を奪われ着替えてしまいました
すると通りすがりの男の子たちが「お祭りにいこうよ」と誘ってくれたのです
エレ・マリャは妹の反対を押し切りお祭りに行き
一目惚れしたニクラスに「クリスティーナ」(担任の名)を名乗ります
初めてのダンス、初めてのキス、男の子からの初めてのやさしさ
だけどそのことをきっかけに「スウェーデン人を気取って、サーミの恥」と
仲間たちから冷たい眼差しを受けるようになります
しかしエレ・マリャは強い
学校を脱走しニクラスの家に泊めてもらい、すぐさま肉体関係をもってしまう
両親はニクラスに彼女はラップ(サーミ)人だと教え
すぐに関係を断つように命じます
だけどエレ・マリャは強い
スウェーデン人の学校に転入生のふりをして潜り込み馴染んでいきますが
学費が必要になり、再びニクラスを訪ねます
なのに友人たちにサーミと見世物にされてしまう始末
それでもエレ・マリャは強い
実家に帰り母親の猛反対にあうも、学費をねだり
父親の形見の銀のベルトを受けるのです
強い信念があれば、不可能も可能になる
エレ・マリャは高度な教育を受け、念願の教師となり
スウェーデン人と結婚し(相手はニクラスだろうか)
立派な息子と、可愛い孫娘にも恵まれます
全ては故郷も、家族も、サーミとしての自分も捨てたから
その決意を、今も間違っているとは思ってはいません
だけど差別や偏見をもたない、優しい息子の説得のおかげなのか
老いのせいなのか
突然、妹を失った悲しみに襲われる
「14歳」だった頃、何より守ろうとした大切な妹
その美しい金髪の少女が、老婆の死骸となり横たわっている
その時、ぽっかりと空いていた心の空白に気づいてしまう
妹は自分が帰ってくるのを待っていてくれたのだと
私は兄と、子どもも男しかいないので
姉妹の関係や感情というものを、わかりませんが
とても女性監督らしい切り口
姉妹って”ソウルメイト ”な繋がりがあるような気がするから
【解説】シネマトゥディより
第29回東京国際映画祭で審査委員特別賞と最優秀女優賞を受賞したヒューマンドラマ。1930年代のスウェーデンを舞台に、弾圧を受ける少数民族サーミ人の少女が、現状から脱しようとするさまが描かれる。メガホンを取るのは、短編を中心に手掛けてきたアマンダ・ケンネル。実際にサーミ人であるレーネ=セシリア・スパルロクが主演を務め、ユリウス・フレイシャンデル、ハンナ・アーストロムらが脇を固める。重厚な物語と美しいラップランドの風景が観る者の心をつかむ。
1930年代、スウェーデン北部。山間部で生活している中学生のエレは、少数民族のサーミ人であることから差別や偏見にさらされていた。成績が良い彼女は街の高校に進んで、民族衣装を着ることを強いられテントで暮らしているのを見世物のように眺められる日々から抜け出そうと考えていた。だが、教師からサーミ人に進学の資格がないと言われてしまう。ある日、彼女は村の夏祭りでスウェーデン人少年のニコラスと出会い……。