天国と地獄(1963)




子どもを誘拐したという脅迫電話から
グイグイとストーリーに引き込まれました

おもちゃの銃を使っておいかけっこの遊びの最中に
追う役と追われる役を交代するため洋服を取り換えたふたり
そのことが原因で、靴メーカー重役である権藤の子ではなく
重役の運転手の子が間違って誘拐されてしまうのです

要求してきた身代金は3千万
ちょうど権藤は、会社の株を買収するための
全財産を小切手に換えて手元に持っていました
しかし、このお金を失えば買収に失敗し、会社を追われる
しかし、妻と息子からは「助けて」とねだられる

運転手は住み込みで、息子同士は幼いころから兄弟のように仲良く
家族同然に育ったのです(勝手に補足しています 笑)
ついに身代金を払う決心をする権藤

あらゆる伏線の引き方が実にうまい
特に素晴らしいのが新幹線での身代金を渡すシーン
一瞬見える子どもの姿、絶え間なく続く緊張感
鞄の厚さが7センチの理由を知る




そしてモノクロの映画のなか、ただひとつのカラーシーン
煙突から赤い煙が昇っていく光景に、成る程と唸らされる
そしてその煙が、犯人への手掛かりとなります


ただ、犯人を死刑にするために泳がせるというのは
実際に警察内部であったら大変なことでしょうね
(犯人を極刑にしたいという気持ちはわかる)

あと麻薬中毒者が大勢たむろする場所も大げさすぎます
「地獄」の様子を描きたかったと想像しますが
現実にあのような場所があったとして
警察が見逃していたとしたらやはり問題です

麻薬中毒者は死んでもいい
そんな危険な思想まで、はっきり感じられてしまう
(それも、気持ちはわかる)

犯人にたどり着くまでの前半が面白い分
後半は矛盾点が目立ってしまいました

とはいえ、犯人役の山崎努さんの演技はなかなかのもの
貧しい路地、場末の歓楽街、野良犬といった描写にも
オリンピックを控えた、高度経済成長中の都市
そしてそこに住む人々の格差を感じられます

面会室のシャッターが突然降りるという
最後の幕切れも見事

やはり傑作だと思います
今も変わらぬ社会の縮図でしょう



【解説】allcinemaより
エド・マクベインの原作を巨匠・黒澤明監督が映画化した傑作サスペンス。優秀な知能犯に刑事たちが挑む。ナショナル・シューズの権藤専務は、自分の息子と間違えられて運転手の息子が誘拐され、身代金3千万円を要求される。苦悩の末、権藤は運転手のために全財産を投げ出して3千万円を用意する。無事子どもは取り戻したが、犯人は巧みに金を奪い逃走してしまい、権藤自身は会社を追われてしまう……。巧妙なプロットもさることながら、登場人物たちの心理描写が秀逸で人間ドラマとしての完成度も非常に高い。