ノスフェラトゥ(1979)

原題は「Nosferatu: Phantom der Nacht(ノスフェラトゥ:夜の怪人 )

今年(2025)公開されたロバート・エガース版と

比べていいものかどうかわかりませんが

ヴェルナー・ヘルツォーク版は古典作品らしく登場人物それぞれのエピソードは控えめ

過激なシーンもないので、見やすいといえば見やすい

ただ救いようはない(笑)

ノスフェラトゥ=ドラキュラ伯爵は

気弱そうで空を飛ぶわけでなく、自分でわざわざ船を調達して棺桶に収まり

引っ越し先にも自分で棺桶を担いで探しに行く(笑)

人間のように生き、愛し、死ぬことを望んでいて

夜明けがやってくると知りながら

愛する女性に引き寄せられるまま死を迎えてしまう

それも美しく煙のように舞って消えていくのではなく

部屋の片隅に惨めな姿で倒れるだけという滑稽さ

ここらへんは公私ともに悪評高いクラウス・キンスキーだからこそ

逆に普通の人間として好かれたいと切望する怪人の

孤独と悲しみを伝えることに成功していると思います

(撮影でヘルツォークと喧嘩しすぎて疲れ果ててしまったという説もあり 笑)

1850年ドイツのヴィスマール

冒頭、カタコンベのミイラが延々と映し出され

悪夢にうなされたルーシー (イザベル・アジャーニ)の悲鳴から物語は始ります

彼女は何ものかわからない差し迫った恐怖に怯えていました

夫のジョナサン(ブルーノ・ガンツ)は優しく妻をなだめますが

勤め先の不動産業会社の雇い主レンフィールドから

ヴィスマール不動産を購入したいという

トランシルバニアの古城に住むドラキュラ伯爵を訪ねるよう命じられます

報酬は高額で、妻に新しい家を買ってやれると思ったジョナサンは

出発に反対する妻を友人のシュレイダー宅に預け旅立ちます

途中、ジョナサンは立ち寄った村の宿屋

ロマ族からドラキュラの城は呪われた城だから近づかないよう教えられ

宿屋のトランシルバニアの女将からは聖水をかけられ

ドラキュラについての本を渡されます

乗せてくれる馬車も貸してくれる馬もない中

ジョナサンは徒歩で旅を続けることに

(渓流にある手すりが近代的なのはご愛敬 笑)

そこに突然迎えの馬車が来て

古城ではドラキュラ伯爵(クラウス・キンスキー)が待ちうけていました

白い肌、大きな耳、尖った歯、長い爪・・という風貌のドラキュラですが

あまり怖くはありません(笑)

(メイクアップアーティストは、日本人のレイコ・クルック)

ジョナサンもビビルことなく出された食事を遠慮なく食べます(笑)

ジョナサンがパン切り用のナイフで指を切ってしまうと

「昔ながらの方法で治療してあげよう」と指を吸おうとしても

ジョナサンに拒否られるとすぐに怖気ずいてしまうような女々しいタイプ

ドラキュラはジョナサンが身につけていたペンダントの

ルーシーの小さな肖像画に一目惚れ

ルーシーの喉に噛みつきたいという欲望に駆られ

ヴィスマールの土地を購入することに同意します

酒を飲みドラキュラ城に泊まったジョナサンが

目を覚まし鏡を見ると首に噛み傷を発見

さらに地下の棺桶の中で眠るドラキュラを見つけます

(バイオリンを弾いている少年は誰? 笑)

ドラキュラが吸血鬼だとわかり

自分が城に閉じ込められていることもわかります

そのうちにドラキュラが船でヴィスマールに向かい

シーツで窓から脱出したジョナサンは馬で追いかけるわけですが

血を吸われているせいで倒れてしまいます

修道女に助けられ修道院で治療を受けるものの(完治する前に)

ルーシーを助けたい一心でヴィスマールに向かうジョナサン

しかしヴィスマールに着いた時ジョナサンはすっかり記憶をなくし

ルーシーのことも覚えていませんでした

港ではドラキュラが乗ってきた船によってねずみが大量発生

ペストが蔓延し人々が大量死していきます

ジョナサンの雇い主レンフィールドは

牛に嚙みついたと精神病院に入院させられていましたが

(ペストで誰もかも死んだため)脱獄し

ドラキュラからネズミの大群を連れてくるよう指示を受けます

ルーシーはジョナサンの持ち帰った日記と本で

ペストは吸血鬼の仕業だと知り、主治医のヴァン・ヘルシング教授に訴えますが

ヘルシング教授は信じてくれません、

町の人々を説得しようとしても、彼らは最後の晩餐だとパーティを楽しむだけ

ルーシーは単独で吸血鬼を倒すことを決意します

この大量のねずみは12,000匹の実験用ラットを

ハンガリーから輸入したそうですが

輸送に3日かかり、その間十分な食事や水分が与えられず

共食いを引き起こし数は半数に減り

撮影場所のオランダでは、ヘルツォークがネズミを黒く染めろと

塗料入りの熱湯に入れさせさらに半数を死なせたそうです

(生き残ったラットは塗料をなめて結局元の白色に戻ったという)

他に使われた羊や馬も同様の扱いを受け

ヘルツォークは動物虐待だと責められたそうです

時々出てくる飛行中のコウモリのスローモーションショットが

違和感あるような気がするのは、映画で撮影したものでなく

科学ドキュメンタリーから借用したものということ

(手をかけるところと、かけないところが極端すぎる)

毎夜町を徘徊し、ルーシーを探すドラキュラ

シュレイダー宅にいることを知ったドラキュラは

眠る彼女の寝室に忍び込みますが

ルーシーに十字架をかざされ逃げてしまいます

ルーシーがトランシルバニア人の本に書いてある吸血鬼の弱点

聖餐用のパンをジョナサンの周りに撒いて結界を作ると

ひとり寝室のベッドに横たわりドラキュラを待ちます

夜明けまでドラキュラを引き止めておくことさえできれば

ドラキュラを倒すことができると思ったからです

ドラキュラはルーシーの腕に抱かれ彼女の血を吸い

朝を迎え雄鶏の鳴き声を気にするも

ルーシーに引き寄せられると再び彼女の喉を噛みます

ドラキュラは太陽の光を浴びて倒れ、ルーシーはそのまま息を引き取ります

ルーシーの死を知ったヘルシング教授

彼女の言っていたことが本当だったことを知り

彼女の犠牲が無駄にならないように

ドラキュラが二度と蘇らないよう心臓に杭を打ち込みます

その時ジョナサンは胸に強い痛みを感じ、目を覚ますと

メイドに散らかった聖餐用のパンを掃除するよう命じます

聖餐用のパンが片づけられると

ジョナサンの口には2本の牙が生えていました

ドラキュラに杭を打ったヴァン・ヘルシングは逮捕されてしまい

新たに吸血鬼となったジョナサンは黒い服で馬に乗って立ち去り

ペストが終結した・・わけでもない

結局何も解決しないラストでしたが(笑)

ヘルツォーク曰く、これは堅苦しいブルジョアの町における

秩序の脆弱性(弱点や欠陥)についての寓話だからだそうです

(ちゃんと意味があったのか 笑)

 

 

【解説】映画.COMより

22年にムルナウが発表したブラム・ストーカー原作の小説の映画化のリメイクで、悪の象徴で災禍をもたらすドラキュラ伯爵の孤独な宿命を描く恐怖映画。製作・脚本・監督は「緑のアリの夢見るところ」のヴェルナー・ヘルツォーク、撮影はヨルク・シュミット・ライトヴァイン、音楽はポポル・ヴー、メイクアップは麗子クルックとドミニク・コラダンが担当。出演はクラウス・キンスキーほか。

1978年製作/西ドイツ・フランス合作
原題または英題:Nosferatu-Phantom der Nacht
配給:シネマテン=パルコ