サイダーハウス・ルール(1999 )

おやすみメインの王子たち

ニューイングランドの王たちよ

 

原題も「The Cider House Rules

Ciderとはリンゴジュースのことで(日本のサイダーは英語で”soda pop”

ここでの「The Cider House」とは リンゴ農園にある納屋の名称のこと

第二次世界大戦中のニュー・イングランド、セント・クラウズ孤児院

院長のラーチ先生(マイケル・ケイン)は

産婦人科医で看護師のエドナとアンジェラと共に

様々女性出産携わっていますが

出産を望まない女性に乞われれば、中絶手術も手掛けます

ラーチ先生の助手で、自らも孤児であるホーマー(トビー・マグワイア)は

堕胎は法律違反で、倫理的に間違っている

なにより堕胎されていたら自分はこの世にいなかった

受け入れずにいました

アメリカでは共和党の大統領選挙の公約でも

人工妊娠中絶中止の強化が掲げられていますね

もちろん「胎児の命を尊重すべきである」という考えには賛成です

しかし同時に妊婦たちがそれぞれが抱える事情や

人権も尊重されるべきだと思うのです

しかも、むやみに人工中絶を廃止してしまえば

正しく安全な医療行為のできる医師が減り

稽留(けいりゅう)流産で、母体が命の危険にさらされたり

闇医療で、子どもが欲しくても産めない身体になるかも知れない

そういうことを一切議論も、考えもせず法律で決めようなんて

しかもそれを指示する国民が半数近くもいるとは驚きです

そんな重くて難しいテーマを

青年の成長物語としてサラリと描き

アーヴィングの世界観を見事品位の高い作品に仕上げた

ラッセ・ハルストレム監督の手腕は讃えたい

これがアメリカ人監督なら

こう爽やかにはならなかったでしょう

ある日、孤児院に堕胎の相談に来た若いカップ

ウォリー中尉(ポール・ラッド)と

恋人のキャンディ(シャーリーズ・セロン

ふたりと親しくなったホーマーは、キャンディの処置が終わると

彼らの車で孤児院を出ていく決意をし

ウォリーの家業のリンゴ園を手伝うことにします

リン ゴ園で働く人々のほとんどは、黒人や移民

収穫の時期だけやってきて、リンゴを摘みジュースを作り

「サイダーハウス」と呼ばれる納屋で共同生活しています

リーダーはミスター・ローズ(デルロイ・リンドー)という黒人男性で

娘のローズ・ローズ(エリカ・バドゥ)が身の回りの世話をしていました

サイダーハウスの壁には、そこで暮らすための

「ルール」が書かれた紙が貼られています

(その1.ベッドで煙草を吸わないこと など)

しかし、労働者たちの中に文字を読める者はいません

何が書かれているかわからない

結局は自分たちのルールに従うだけ

すなわち「サイダーハウス・ルール」とは

「役に立たないルール」ということ

ウォリーがビルマに出征した寂しい思いから

キャンディはホーマーと親しくなっていきます

リンゴの収穫が終わり、来年の収穫がやってくるまで

ミスター・ローズらは次の仕事に旅立つ

ホーマーとキャンディは関係を深めていき

毎日恋人のように過ごします

もちろんお互い好意は持っていましたが

ふたりの間にあるのはLOVE(愛)ではなく

NEED(必要)だということに気付いていました

次の収穫が始まり、ミスター・ローズたちが戻ってきました

再会を喜ぶホーマーでしたが

キャンディはローズ・ローズの異変に気付きます

彼女は妊娠していました

しかもお腹の子の父親はミスター・ローズだというのです

ショックを受けるキャンディでしたが

「大丈夫よ」「私も1年前妊娠したのよ」と告白

ホーマーにローズ・ローズが父親にレイプされていると告げます

ホーマーはローズ・ローズの中絶手術をするため

隠していた医療カバンを取り出します

それはリンゴを送ったお礼に、ラーチ先生が贈ってくれたものでした

ミスター・ローズは堕胎に反対でした

彼は本気で娘を(女として)愛していたのです

彼女とも、彼女の赤ちゃんとも別れたくなかった

だけどローズ・ローズに刺されてしまうミスター・ローズ

娘に棄てられた彼が望んだのは治療することではなく、死ぬことでした

かたやローズ・ローズは、ひとりで生きていこうと誓う逞しさ

間もなくして、戦地でかかった脳炎の後遺症で

下半身不随となったウォリーが戻って来ることになり

ホーマーとキャンディは自然と別れることになります

さらに孤児院からラーチ先生が

エーテルの過剰摂取で)亡くなったという知らせが入り

孤児院に帰る決意をするホーマー

無邪気に迎えてくれる子どもたち、優しい看護師

 

そこにはラーチ先生が偽造した卒業証書(医師免許)と

(徴収兵を免るための)嘘の心臓の写真が用意されていました

ホーマーの心の声が呟きます

「かつての人生は期待してばかりだったが それは終了した」

 

世の中は辛くて、厳しいことばかり

だからこそ優しくなりたい

目の前の困っている人を助けたい

それがルール違反だと、後ろ指さされたとしても

 

今の私たちが忘れてしまったこと

 

 

【解説】映画.COMより

セント・クラウズの孤児院で生まれたホーマーは、父のように自分を育ててくれたラーチ院長の後を継ぐべく医術を学んでいた。しかし将来に疑問を抱き始めていた彼は、ある日若いカップル、キャンディとウォリーと共に孤児院を飛び出す。初めて見る外の世界、初めての外の仕事──ホーマーはリンゴ農園で働き、収穫人の宿舎“サイダーハウス”で暮らし始める。ほどなく軍人のウォリーは戦地へ召集され、残されたホーマーとキャンディは次第にお互いに惹かれていく。アカデミー賞で作品賞、監督賞ほか7部門にノミネート、助演男優賞マイケル・ケイン)と脚色賞(ジョン・アービング)を受賞した。

1999年製作/126分/アメリ
原題:The Cider House Rules
配給:アスミック・エース