フェイブルマンズ(2022)

It shows what the artist is made of

「全てのことには意味がある」

原題はThe Fabelmansフェイブルマン一家)

Fabelmanとは、おとぎ話作り話をする人という意味で

ここでは架空の苗字



誰もが知る映画界の革命児、スティーヴン・スピルバーグ

多くの作品の監督・プロデュース、新技術の提供

CGでキャラクターを動かしたのも彼が最初

(「ヤング・シャーロック 」でピクサーの始まり)

なぜこんなにもたくさんの、面白い話、怖い話が作れるのか

特撮を思いつくのか

その原点がすべて少年時代に詰まっているんですね

6歳で初めて見た実写映画「地上最大のショウ」

家族、ボーイスカウト時代、学校での虐め、初恋、両親の離婚・・

 

それをスピルバーグが、スピルバーグになるまでを

自ら脚色したことに意味がある

シネフィルが作った、シネフィルのための映画

古い映画に詳しい方ならもっと楽しめます

ぜひ、映画館でご覧ください

 

【観覧注意 ここからネタバレ】

「映画なんか行かない 暗くて怖い」と嫌がる6歳の息子サミーに

「映画は科学技術で作られた作り話」

「毎秒光がスクリーンに投影されてるだけ」と説明する父親(笑)

だけど母親から「夢よ」「芸術なの」と説得され渋々映画館に入ると

 

強盗は出てくる、人は死ぬ、列車は脱線事故(笑)

まずい・・・と後悔する両親

だけどサミーはスクリーンに釘付け

 

クリスマスプレゼントに鉄道の模型をおねだりすると

それで遊ぶのではなく(笑)衝突させるのです

(高級だったのだろう)父親からは二度とするなと言われますが

サミーは映画がどうやって撮影されたか知りたい

母親は「秘密よ」と父親の8ミリカメラをサミーに渡すのでした

最初サミーがあんなに怖がっていたのは

ディズニーの「バンビ」を見たからだそうです

母鹿が人間に殺され、成長すると恋人を巡り他の雄鹿と対決

さらに火の不始末による山火事

幼いスピルバーグのトラウマになってしまったのです(笑)

 

しかもユダヤ人で背が低く、スポーツは苦手

作中で妹たちにも馬鹿にされていますが、成績が悪く

失読症という学習障害を抱え、いつも虐められいたということ

 

それらの恐怖を克服するため、怖い映画を撮る

妹たちに歯医者と患者役をやらせたり

トイレットペーパーを使いミイラの演技をさせます

人を笑わせるセンスは母から譲りうけたもの

そしてもうひとり、父の親友で仕事のパートナーであるベニーから

彼は技術者で発明家の父の長くて訳の分からない話を

わかりやすくユーモアたっぷりに説明する才能がありました

 

ボーイスカウトに入ると、仲間たちと西部劇や戦争映画を撮影し

人を集めて上映するようになります

ちなみに13歳で撮った映画は今でもYoutubeで見れます

(78) Escape to Nowhere (1961) - Early Steven Spielberg Film (The Most Complete Version) - YouTube

 

自分の作った映画で皆が喜んでくれる

でも父は映画は「趣味」

数学を勉強して技術者になるべきだと言います

父の仕事でアリゾナに引っ越した一家とベニーは

夏休みキャンプ旅行に出かけました

それは笑いの絶えない楽しいものでしたが

 

その直後、母の母親(祖母)が死んでしまい

母は悲しみに暮れ鬱になってしまいます

父は以前からサミーが欲しがっていた編集機を買い与え

母に元気になってもらうため

キャンプの時の映画を作って欲しいと頼みます

サミーがフィルムを編集していると

そこに映っていたのは母とベニーが親しくしている光景でした

ふたりの関係を不審に思ったことはない

でもフィルムの中の母は、僕の母でも父の妻でもない

見たことのない女の顔をしていたのです

 

サミーの編集した映画に家族は喜び

母は元気を取り戻します

だけどサミーの心は晴れない

母に反抗するようになります

そんな時、祖母の訃報を知った祖母の弟ボイスがやって来ます

予知夢を見た母は、叔父さんは流れ者だから話しちゃダメ

家に入れちゃダメって言うけれど

その日、食べきれないほど大量に料理を作っていて

結局食事させることに(笑)

 

ボイスとサミーはまるで「男はつらいよ」の「寅さん」と「満男」

ボイスは風来坊でとても話が面白い、自分勝手だけど人情がある

サーカスで旅芸人をしていたことや

サイレント時代多くの映画の仕事に関わった話を聞いて

サミーはすっかり影響を受けてしまいます

ボイスは母にはピアノの才能があり一流になれたのに

結婚が女の幸せだと信じていた祖母のせいで夢を諦めた

覚えておけ、芸術と家庭は両立しない

芸術というのは、全てを捨ててそこに捧げるものだと教えます

次の朝ボイスはまたどこかに行ってしまいました

 

サミーの反抗は続き、ついに母と対決した日

サミーはキャンプの時のボツにしたフィルムを母に見せます

泣いてしまう母

浮気の現場を知ったうえ、母を悲しませてしまう

映画作りをやめてしまうサミー

間もなくして一家はカルフォルニアに引っ越すことになります

カメラを売りに来たサミーに

ベニーが餞別だと新しいカメラを用意していました

頑なに拒否するサミー

 

父と母の会話が全く噛み合わないことも

ベニーがいい人なのもわかってる

でも親友にずっと裏切られていたなんて

父があんまりにも不憫だ

 

ベニーとの別れを哀しむ母

でも決してやましい関係ではなかった

父のことを愛してる、離婚はしないとサミーに誓います

しかしカルフォルニアでまた鬱になってしまう

猿を飼いベニーと名前をつける

学校ではサミーのクラスにユダヤ人はひとりもおらず

キリストを殺したことを謝れ!とか

ベーグルマンとか(ベーグルはもともとはユダヤ教のパン)

クラスメイトのローガンとチャドから酷い虐めにあうことになります

 

仕返しにローガンの彼女クラウディアの前で

ローガンが赤毛の女の子とキスをしていたことをばらします

サミーは殴られ、浮気は嘘だと言うよう強要されますが

クラウディアの友人モニカから、なんで嘘なら赤毛まで知ってるのと笑われ

モニカはサミーを気に入ります

 

このモニカって娘、推しがキリスト(笑)

ヲタクっぽいところがあってユニークなんですね

おまけに美人だし明るいし、付き合っていて楽しい

地獄だった学校が天国にになります

 

サミーの家に食事に誘われたモニカは

サミーが映画作りをしていたことを家族から教えてもらうと

「おサボリ日」で撮影スタッフを募集しているから撮ってと頼みます

映画はやめたと拒否するサミーでしたが

モニカの父親が最新鋭の16mmカメラを持っていると聞き

誘惑に負けてしまうのです(笑)

「おサボリ日」とは卒業前に授業をサボって

クラスの皆で遊びにいくというもの

ここはカルフォルニアなので泳いだり、日光浴をしたり

ビーチバレーをして楽しむんですね

久しぶりに撮影を楽しむサミー

 

しかし突然、母がアリゾナ帰る

父と離婚してベニーと一緒になると言い出します

妹たちは泣いて反対しますが、父はだまって母の要望を受け入れます

サミーは「おサボリ日」の編集に集中することにしました

日本では岡本かの子岡本太郎の母)が有名ですが

両親はいわゆる三人婚だったのかも知れませんね

外に愛人を作る浮気や不倫とは違う、3人で成り立つ夫婦の関係

 

母は夫の仕事と子どもたちのために、いったんはベニーと別れたものの

精神的な支えを失い、耐えられなかった

夫は大企業で仕事、サミーは大学に進学

でも私にはベニーしかいない

 

スピルバーグのお父さんはアメリカのコンピューター産業に貢献した有名な技師

お母さんはテレビなどにも出演していたピアニスト

両親が亡くなるまで撮影を待ったというのも理解できますね

自分を語るうえで、両親を語ることは外せない

プロムの日、サミーはモニカに花と十字架のネックレスをプレゼント

モニカは喜びますが、ダンスパーティで両親が離婚すること

ハリウッドで映画の仕事をしたいからついて来て欲しいという告白に

 

今日はプロムよ、なんで今?

楽しい気分が台無し

大学への進学も決まっている、行けるわけないじゃない

モニカからネックレスを突き返されてしまうサミー

 

いよいよプロムのクライマックス、「おサボリ日」の上映会

サミーの映画に会場は大盛り上がり、大爆笑が続きます

特にローガンはかっこよく、お間抜けなチャド

上映会のあと落ち込むサミーをロッカー室まで探しに来たローガン

映画の中の俺は俺じゃない、かっこよすぎる

どうしてあんな風に撮ったんだとサミーを責めます

かっこよくてモテモテのローガンも、人知れず努力していた

本当はコンプレックスの塊だったのです



サミーはいい映画を作りたかっただけ

ハンサムでスポーツマンのローガンはカメラに映える

チャドはその逆

虐めの仕返しをしたわけじゃない

映画を面白くしたい執念が勝っただけ

でも映画は人を感動させるものだけど

悲しませることも、泣かせることもできる

人の感情をコントロールできるエンターテインメントなのだと知るのです

 

卒業後サミーは大学に通いながら

映画スタジオに仕事を求めていました

父は大学に馴染めないサミーと

妻の手紙に同封されていたベニーとの幸せそうな写真を見て

大学を中退して好きな映画の仕事をすることを認めます

しかもスタジオから採用通知が郵便物に紛れ込んでいたのです

最初はテレビの助手の助手の助手からスタート

そこでサミーの映画に興味があるという手紙に

感銘を受けたというプロデューサーが

なんとジョン・フォードの部屋に案内してくれます

 

このデヴィット・リンチのジョン・フォードが素晴らしい

「小僧、地平線はどこにある?」「違う!地平線はどこだ」って(笑)

 

映画はストーリーや、俳優だけじゃない

演出上で地平線、建物、家具の場所など、とても重要なこと

それを理解できない人間に、映画を作ることは無理

ラストには地平線を動かすという

ちょっとしたイタズラがあります(笑)

 

楽しいも、辛いも、悲しいも

少年時代のすべての経験が姿を変え、物語を変え

「E.T」「インディ・ジョーンズ」「バック・トゥ・ザ・フューチャー

プライベート・ライアン」となって

私たちを笑わせ、泣かせ、数々の感動を与えてくれたのですね

ありがとう、スピルバーグ



【解説】映画.COMより

サミー役は新鋭ガブリエル・ラベルが務め、母親は「マンチェスター・バイ・ザ・シー」「マリリン 7日間の恋」などでアカデミー賞4度ノミネートされているミシェル・ウィリアムズ、父親は「THE BATMAN ザ・バットマン」「ラブ&マーシー 終わらないメロディー」のポール・ダノが演じるなど実力派俳優が共演。脚本はスピルバーグ自身と、「ミュンヘン」「リンカーン」「ウエスト・サイド・ストーリー」などスピルバーグ作品で知られるトニー・クシュナー。そのほか撮影のヤヌス・カミンスキー、音楽のジョン・ウィリアムズら、スピルバーグ作品の常連スタッフが集結した。第95アカデミー賞で作品、監督、脚本、主演女優(ミシェル・ウィリアムズ)、助演男優(ジャド・ハーシュ)ほか計7部門にノミネートされた。

2022年製作/151分/PG12アメリ