タレンタイム 優しい歌 (2009)

原題も「Talentime」(マレーシア英語でタレントショーのこと)

日本でも「ファンブック」(2021)が発売されるくらい

一部のファンからは評価がかなり高いようです



マレーシア映画は初めてだと思うのですが

監督であるヤスミン・アフマドは(2009脳卒中により他界)

イスラム教によって「禁じられている」とされている

出来事や関係を描くことで、国内外で物議を醸し

マレーシア映画「最初の」ニューウェーブの中心人物だったそうです

冒頭の30分くらいわかりにくいことと

ストーリーの繋ぎに粗削りなところはありますが

終盤は泣きそうになりました(笑)

 

過去は変えられないけど、未来は変えられる

それが出来るのは若者たちだということを教えてくれる

マレーシアのある高校、音楽教師の主催で

ダレンタイムが今年も開催されることになりました

ふたりの男性教師の会話を、いちいちゲイじゃないかと勘違いする

ムスリムの教師が可愛い(笑)



予選で選ばれた7名の生徒と

くじで選ばれた7人の教師が(教師の部門は中止になる)

歌や踊りなどを披露し優勝者には賞金が支払われます

また、出場が決まった7名の生徒には送迎係がつきます

ピアノと歌の上手なムルー(マレー系ムスリム)の送迎係に選ばれたのは

マヘシュ(インド系ヒンドゥー)でした

ハンサムで寡黙なマヘシュにムルーは一目惚れ

しかし彼の叔父が結婚式を挙げる日

叔父が喪中の隣人(ムスリム)に刺されて死んでしまい

マヘシュの母(叔父の姉)はショックで寝込んでしまいます

ムルーは送迎のお礼を言っても無視をし続けるマヘシュに

叔父さんが死んだのは気の毒だけどあまりに失礼だと怒ります

しかし友人のシャフィー(マレー系ムスリム)から

マヘシュが聴覚言語障害者であることを教えられるのです

 

このわだかまりの背景には、2001カンポンメダン暴動があるんですね

それはカンポンメダンという小さな村の結婚式と葬式から始まった

インドとマの宗派間による対立で

暴動はエスカレート、やがて各地に広がって行ったのです

シャフィーは転入したクラスで

同じく二胡でダレンタイムへの出場が決まってる

優等生のカーホウ(中国人)からカンニングをしたと訴えられます

そこで先生がシャフィーに再度テスト(さらに難題25問)をすると

シャフィーはそこでも満点でした

 

先生がカーホウに理由を聞くと

成績が1番でなければ父親に殴られるというのです

ベンツに乗って迎えに来る父親

さらにシャフィーは母子家庭で

たったひとりの肉親である母親は末期脳腫瘍と診断されていました

薬の副作用で苦しむ母親

「たかが嘔吐じゃないか」「排便中なら失礼するがね」

車椅子で見舞いにくる男性がやさしい

彼はお迎え(死神)だったのだろうか

シャフィーの母親が彼から苺を受け取ったとき

それは死を意味するものでした

 

マヘシュがろう者だと知り

ムルーは自分が酷い態度をとったことを謝りました

だけど言葉が通じなくても、宗教が違っても関係ない

恋のチカラは偉大

好きな人の顔を見ているだけで幸せ(笑)

ムルーのおばあちゃんはイギリス人なので

他のムスリムより考え方がグローバルなのでしょう

家族は平気で下ネタ言いますし(笑)

 

だけどマヘシュの母親はマヘシュがムスリムと付き合うことを許さない

かっての暴動では家が焼かれ、今度は弟まで殺されたのです

でも結婚式の前日、死んだ叔父はマヘシュにメールを出していました

叔父はかってムスリムの娘と結婚の約束をしていたといいます

しかし家族に反対されて諦めた、彼女のことを傷つけた

叔父が35歳まで結婚しなかったのは

いつか彼女が戻ってくると信じていたから

でも彼女が病気で死んだことを知った、彼女も生涯独身だった

だからお前は好きな女性を諦めちゃいけない

そしてついにダレンタイムの日

ムルーはマヘシュに恋する気持ちを歌う

シャフィーは天国に逝った母への思いを

(オーディションの時の明るい曲との対比が哀しい)

そこに現れたのが二胡を持ったカーホウでした

シャフィーとカーホウのコラボ

 

音楽は世界を繋ぐ、人と人を繋ぐ

こんな簡単なこと、なぜ私たちは忘れていたのだろう

ダレンタイムで誰が優勝したかはわかりません

いつものように公園のベンチに座るムルーとマヘシュ

そこにはいつの間にか、たくさんの赤ちゃんが集まっていました

 

宗教も、人種も、対立も、まだ何も知らない赤ちゃん

どう教えるかは、私たち次第です





【解説】映画.COMより

2009年に他界したマレーシアの女性監督ヤスミン・アフマドの長編映画としての遺作となった作品。音楽コンクール「タレンタイム」(才能の時間=タレントタイム)が開催される高校で、ピアノの上手な女子学生ムルーは、耳の聞こえないマヘシュと恋に落ち、二胡を演奏する優等生カーホウは、成績優秀で歌もギターも上手な転入生ハフィズを嫌っていた。コンクールに挑戦する生徒たちの青春を描きながら、マヘシュの叔父に起きる悲劇や、ムルーとの交際に強く反対するマヘシュの母、闘病を続けるハフィズの母など、民族や宗教の違いによる葛藤を抱えた人々の様子を通して、多民族国家としてのマレーシア社会を映し出す。

2009年製作/115分/マレーシア