リスボンに誘われて(2013)




よかったです

1970年代のポルトガルサラザール独裁時代の
ひとりのレジスタンスの過去を探るサスペンス
でも、それより大人の恋愛映画として佳作でした

スイスのベルンの高校で、古典文献学の教師をしている
ライムント・グレゴリウス(ジェレミー・アイアンズ)は
ラテン語ギリシア語に精通し、チェスの名士でもあります
ある雨の日、橋の欄干から飛び降りる素振りをみせた女性を助けます

その女性は消えてしまいますが、残された赤いコートには
ポルトガル人作家の『言葉の金細工師』という本が入っていました
作者はアマデウ・デ・プラド(ジャック・ヒューストン)
数ページ読んだだけでライムントはその本の虜になってしまいます
そして衝動的に、本に挟んであった夜行列車のキップでリスボンへと向かいます
アマデウに会うために





謎から始まる素敵な導入部分でした
ライムントは真面目なだけの57歳
そんな彼が授業を放り出して、荷物のひとつも持たずに列車に飛び乗る
誰でもこういういきあたりばったりの旅を
一度はしてみたいと思うのではないでしょうか


アマデウはすでに死んでいました
しかし、新しい眼鏡を購入するために行った眼科で担当してくれた
女医であるマリアナの叔父ジョアンナが
アマデウのレジスタンス仲間だったのです
ジョアンナによって明かされていくカーネーション革命前夜





サラザール独裁時代についての詳細は知りませんが
弾圧は苛烈を極めていたそうです
本作でも登場するPIDEという秘密警察は
ドイツのゲシュタポを真似て第二次大戦前に創設され
戦後名称は変わっても、革命まで残酷な活動が続いたそうです

ポルトガル人はやさしく、控えめな国民性ということですが
クーデター時は国民は分裂、お互いを傷つけあい
そのことは今でも人びとの心に深い影を落としているのだそうです


そんな反体制運動中、アマデウは親友ジョルジュの恋人
エステファニア(メラニー・ロラン)と愛し合ってしまいます
そのことはやがてジョルジュに知れ
ジョルジュはエステファニアを殺そうとします

アマデウはエステファニアを連れて国外へ脱出
そして「アマゾンで一緒に暮らそう」と夢を語ります
貴族であるアマデウが真の革命家でないことに
エステファニアは気が付いたのでしょう
エステファニアは別れを告げ、アマデウはポルトガルに戻ることになります





アマデウ、ジョルジュ、ジョアンナそしてエステファニアという
4人の若い革命家の物語ではありますが

私がよかったと思うのは、やはりライムント
反体制にも、革命にも、赤狩りにも、エネルギーを燃やせず
正義を胸の奥にしまい込んでしか生きてこれなかった勇気のない男
どちらにもつかない多数派のひとりだったことを後悔しているのです

その自称「退屈な男」がよかった
インテリそうな見た目も、好きなタイプのおじさまです
特に眼鏡を変えてから(笑)


女医のマリアナとは出会ったときから雰囲気がよかったですね
お互い感じるものがある、でも大人だから焦らないのです
ゆっくり、ゆっくり、距離を縮めていく
でも最後まで、べったりにはならない


そして、素敵な素敵なラストシーン





「赤いコートの女性」の正体は浅くて惜しかったところですが
リスボンの美しい風景は魅惑的ですし
大人が鑑賞するのにふさわしい上品な恋愛映画だと思います

駅のホームのシーンが、長い余韻を残します
このシーンだけでもう、お気に入りです



【解説】allcinemaより
パスカル・メルシエの世界的ベストセラー『リスボンへの夜行列車』を「ペレ」「愛の風景」の名匠ビレ・アウグスト監督が映画化したミステリー・ドラマ。退屈な人生を送る高校教師が、一冊の本との偶然の出会いをきっかけに、作者の素顔を探るべくリスボンの街を旅するさまと、主人公が解き明かしていく作者の波乱の人生を哀愁あふれる筆致で綴る。主演は「運命の逆転」のジェレミー・アイアンズ、共演にジャック・ヒューストン、メラニー・ロラン
 スイスの高校で古典文献学を教える教師ライムント・グレゴリウス。5年前に離婚して以来、孤独で単調な毎日を送っていた。ある日彼は、橋から飛び降りようとする女性を助ける。しかし彼女はすぐに行方をくらまし、ライムントは彼女が残した本に挟まれていたリスボン行きの切符を届けようと駅へ向かう。しかし女性の姿はなく、ライムントは衝動的に夜行列車に飛び乗ってしまう。そして車中でその本を読み心奪われたライムントは、リスボンに到着するや作者アマデウを訪ねる。しかし、アマデウは若くして亡くなっていた。やがて彼を知る人々を訪ね歩くライムントは、独裁政権下のポルトガルで反体制運動と情熱的な恋に揺れたアマデウの濃密な人生を明らかにしていくのだったが…。