
「魔王様、人間は残酷です」
原題は「La Beauté du diable」
原題の通りの意味ですが、ちょっと見る気のおきない邦題が残念(笑)

ルネ・クレールによるオリジナル脚本で
1940年からハリウッドに拠点をおいていた
ルネ・クレールの帰仏第2作目
自由第一主義のフランスが
アメリカ主導の金銭主義や、科学(原爆の発明など)主義を
(強欲な悪魔だと)皮肉っているストーリーともいえます

大学で学部長のアンリ・ファウスト教授の誕生日が祝われ
帰宅すると何者かの声が「何も成し遂げられずにもうすぐ死ぬ」と予言します
声の主は悪魔メフィストフェレスでした
しかし科学者と生きてきたファウスト教授はなかなか疑り深い
そこでメフィストは彼に無条件で若さを取り戻す提案をします

名優ミシェル・シモンの悪魔がとにかくチャーミング
女好きでダンス好き、なかなか契約を交わせないうえ
最後までドジってしまうという
こんな悪魔なら近所にひとりくらいいてもいい(笑)

若返ったファウストを演じるファンファンも見事なもので
老人のような仕草から
だんだんと青春を謳歌する自信たっぷりの若者の姿になっていく
台詞がなくても仕草と表情で「見せる」演出が活きています

若さを取り戻したアンリはジプシーのサーカス一座の娘
マルグリット(ニコール・ベスナード)と出会い
腹が空いたことに気付くと(老人の時は食欲がなにもなかった)
食堂に行き皆にも食事とワインを奢ります
そこでお金をもっていないことに気がついたアンリは
自宅に戻り引き出しにあるお金を取り食堂の主に支払いますが

ファウスト教授を殺害して強盗をした疑いで逮捕され
裁判所で斬首刑を言い渡されますが
そこにファウスト教授(の姿をしたメフィスト)が現れ救われます

釈放されたアンリは一文無しでしたが、偶然金貨を拾い
その金を持ち食堂に入ります
しかし主の前で金貨は砂になり、追い出されそうになるアンリ
そこにまたまたファウスト教授が現れ「私の連れだ」と助けてくれます

それでも悪魔に魂を売る契約にはサインしませんでしたが
アンリことファウスト教授が研究していた
錬金術(土砂から金貨を作る)を成功させ大金持ちになることを
悪魔のファウスト教授と約束します

ファウスト教授とアンリはこの事業を宮廷に売り込み
大量の金貨を作り王子(カルロ・ニンチ)の顧問となると
爆弾、飛行機、潜水艦などを開発する軍事産業にまで手を染めます
それでもまだアンリは契約書にサインはしていませんでした

ついに大魔王ことルシファーにお伺いをたてるファウスト教授
そこで閃いたのがアンリが美しき王子の妻
大公妃(シモーヌ・ヴァレール)に恋することでした
大公妃と結ばれるためついに魂を売る契約書にサインします
しかしそこでファウスト教授が止めるにもかかわらず
「未来が見える鏡」を覗いてしまいます
そこに映っていたのは、大公妃を手に入れるために王子を殺害し
さらに彼女を欺き、すべてを破壊する暴君になった姿でした

アンリは運命を変えるため、大公妃のもとを去り
作った金貨を砂に戻すと宮廷から逃げ出します
気がつくと大公妃への愛は消えていて
ジプシーの娘マルグリットのところに向かうアンリ

甘言でマルグリットの魂も手に入れようとするファウスト教授ですが
契約書にサインするにもマルグリットは無学で字が書けない
「奇跡が彼を救うわ」と断ると
ファウスト教授はマルグリットのことをアンリに「魔法にかけた」魔女だと訴え
マルグリットは火刑に処される判決を受け
アンリはマルグリットの魔術に屈した
(実際は悪魔ことメフィストに魂を売った)として逮捕されます

どうしてもマルグリットの魂が欲しいファウスト教授は
死んだら(寛大な魂の)マルグリットは楽園に行き
アンリの魂は地獄に落ち永遠に別れることになると
(ふたりが結ばれるには、ふたりとも地獄に落ちること)
アンリとの契約書を見せると

マルグリットはその契約書をファウスト教授から奪い
火刑を見に集まった群衆に投げつると
契約書を追いかけたファウスト教授は窓から飛び降り
契約書もファウスト教授の身体も燃えて灰になってしまいます
贋金作り、(戦争のための)危険な科学、不倫という
(自分の欲望を満たすためだけの)悪魔の誘惑から解放されたアンリは
贋物ではない自由と、金でも得られない愛を手に入れたのでした
【映画】映画.COMより
「沈黙は金」につぐルネ・クレール監督作で、イタリアにおいて撮影が行われた。「ファウスト」の物語であるが、ゲーテの戯曲によらず、ファウスト伝説よりの独自の構想で映画化されている。脚本はクレールと、劇作家アルマン・サラクツウの協力になるもの。撮影は「恐るべき親達」のミシェル・ケルベ、音楽はロマン・ヴラドの担当。主演は「リゴレット」のミシェル・シモンに「パルムの僧院」のジェラール・フィリップで、「バラ色の人生」のシモーヌ・ヴァレール、コソセルバトワアル出身の新人ニコール・ベナール、クレエル映画の定連レイモン・コルディらが共演、カルロ・ニンキ、パオロ・ストッパらのイタリア俳優が助演する。
1949年製作/フランス
原題または英題:La Beaute du Diable
配給:東宝