千夜一夜物語(1969)

NHK朝ドラあんぱんをきっかけに

YouTube手塚プロダクション公式チャンネル」にて

やなせたかしさんの命日である10/13まで期間限定配信されているのを鑑賞

でもこれ、「あんぱん」とか「アンパンマン」から来て見た人は

びっくりするんじゃないでしょうか(笑)

 

手塚治虫虫プロを立ち上げたときから

「大人のアニメ」を作りたいと望んでいたそうです

(当時はアニメ=子どもが見るものだった)

朝ドラ(見ていません)では手塚治虫自身が

やなせたかしの画にほれ込んだという展開だそうですが

実際には「大人のアニメ」を作るならと

監督の山本暎一作画監督杉井ギサブロー

当時「大人漫画」「ナンセンス漫画」で評価を得ていた

やなせたかしを引き入れたそうです

主人公がジャン・ポール・ベルモントに似ているのは

やなせが山本監督に主人公のイメージを尋ねたとき

山本は考えるのが面倒で「勝手にしてくれ」と思ったことから

(「勝手にしやがれ」の)ジャンポールベルモントと答えたそうです

ちなみにバドリーはデヴィッド・ニーヴンがモデルだそうです

(ポスターはカイ・ニールセンだね 笑)

その後、アルディンはアニメ版ルパン三世」ファーストの原点となり

寺沢武一による「コブラ」になり

魔王ジンと魔女王ジニーはドキンちゃんバイキンマンなり(笑)

(女性をオークションにかける、女護島などのシーンは)

ONE PIECE」でもオマージュされているそうです

傑作を生みだした傑作ということには間違いないでしょう

千夜一夜物語アラビアンナイト)とは

昔々あるアラビアの国で

国王外遊中に妃が家臣たちと不貞していることがわかり

怒った国王は妃や家臣たちを処刑します

誰も信じられなった国王は、

一夜の慰み者として家臣や庶民の娘(処女呼び、犯しては殺していました

ある夜、美しい家臣の娘シェヘラザードが国王に呼ばれると

女性を殺すのを止めさせるため自ら志願したという説もある)

頭の良いその娘は夜遅くまで国王に夜伽(よとぎ)話を聞かせ国王の気をそらせます

話のいいところになると、この続きはまた明日とか

ひとつの物語が終わると次に話す物語はもっと面白いとか

1000日間、夜伽話きます

1001日目、ついに娘は話はこれで終わりですと告げ

あなたの息子だと、双子と赤子の男の子を示します

(いちども国王と接触していないのに)

王子の誕生に国王は歓び正式に娘を妃に迎えた・・というもの

手塚治虫といえば人間の皮を剥いだ

根源的な欲望を描くことが得意ですが

まさしく本作も性欲と物欲と金銭欲

男という動物の本質にスポットを当てたドラマ

 

1000の夜の物語の中でも特に有名な「アラジンと魔法のランプ」

「アリババと40人の盗賊」「空飛ぶ絨毯」 「シンドバットの冒険」

(&ピーター・ブリューゲルの「ハベルの塔」など)を織り交ぜた

ダイジェスト過ぎる(笑)深沢 一夫によるオリジナル脚本に

海は実写、街並みはミニチュアなどの)実験アニメであり

エロティシズム的(性的な欲求を美学的な視点から捉え概念)な

アート作品でもあります

 

ラストの崩れた塔の土台に書かれた「MADE IN JAPAN」には

日本製品が一番という)自惚れたり傲慢になってはいけないという戒律と

海外のアニメには絶対負けないという、強いプライドを感じます (笑)

バグダッドにやってきた貧乏な水売りアルディンは

奴隷市場で競売にかけられている美女ミリアムに一目惚れ

ミリアムは金持ちのマザコン男に落札されてしまいますが

そのとき竜巻がおこり、どさくさにまぎれてミリアムを誘拐

迷い込んだ(豪商シャリーマンの)豪邸の寝室でふたりは愛し合いますが

(覗きが趣味らしい)シャリーマンはふたりを監禁

かごの鳥のように飼おうとします

それを知った(マザコン男の父親の)警察長官部下のバドリーに

シャリーマンの排除ミリアムを取り戻すことを命じます

バドリーは40人の守護隊(盗賊)を使いシャリーマンを暗殺

アルディンは捕らえられ激しい拷問を受け

ミリアムはマザコン男に買い戻されてしまいます

しかしマザコン男は父親が作った精力剤を飲み過ぎたせいで勢い余って転落死

バドリーがミリアムを引き取りますが、すでにミリアムはアルディンの子を妊娠

娘のジャリスを出産すると死んでしまいます

同情した看守長に見逃してらったアルディンは

(死んだことにしてもらい墓場から脱出)

ミリアムに会うためバドリー邸に向かいますが

すでにミリアムが死んでいることを知らされます

ここでジャリスが産まれていたことを知っていたら

彼の人生も違ったものになったかも知れませんが(無理か 笑)

カマーキムが宝を隠している洞窟を偶然見つけアルディンは

宝を盗もとうとしたところを

(バドリーに犯され復讐を誓った)カマーキムの娘マーディアに見つかる

(なぜか無用に片乳を出している 笑)

彼女口説き魔法の木馬に乗って冒険の旅に出ることにします

しかし女護島(女性だけが住むという伝説上の島)に着くと

アルディンはマーディアより、大勢の美女と快楽の時を過ごすことを選びます

やがてやつれて瀕死になっていくものの

蛇に赤い木の実を食べさせられると、また精力が蘇り女を求めてしまう

(ここは「失楽園」か  渡辺淳一ではなくミルトンのほうね)

しかし島の女王から「森の奥にある扉だけは開けないこと」という約束を破り

中を覗くと、そこには女王が蛇に変身する姿(鶴の恩返しか)

女王だけでなく、女たちは全員蛇が化けた姿でした

海に飛び込女護島から逃げアルディン

無人島(ロクロク鳥)に漂着

そこでは食人鬼に襲われますが、怪鳥と食人鬼の戦いが始まった隙に逃げ出

怪鳥の羽根に乗り海を彷徨っているところに

長年主人を失い、次の主人を待っていたという

何でも願いが叶う魔神(の声)が現れ、魔法の船を手に入れます

アルディンはシンドバッドと名前を変え、世界中の海を渡り歩き巨万の富を得ると

15年後、バグダッドに戻ってきます

そこでシンドバッドはバグダッドの国王と、王位を賭けた財宝比べの賭けを申し出

結果国王が勝つのですが、船にはもっと財宝があると国王を騙し

船に乗船させると、船は国王と家来たちを乗せたまま外洋に向かって出発します

消えた国王の替りにバグダッドの王になったシンドバッドは

目上の人への挨拶は逆立ち

米と塩は10倍に値上げ、ヨモギと唐辛子は10分の1に値下げ

太陽に届く高い塔を造り、戦争を始めるという

トランプ如き法案を発令

それは「政治ではない」というバドリーに

従わないものは死刑だと命じます

さらに夜な夜な処女を求めるシンドバッドに

バドリーは自分の美し娘ジャリスを捧げます

だけどジャリスは羊飼いのアスラーンという青年を一途に愛していて

シンドバッドとの夜の営みを断り続けます

 

ある夜、建設中の「太陽に届く塔」の頂上で

ジャリスから恋人のアスラーンが父親のバドリーの命令で

奴隷兵として最前線にいることを聞かされます

自分の女になることと引き換えにアスラーンを助ける約束をするシンドバット

そのときアスラーンは収容所の牢を破って脱走しますが

捕らえられ(処刑場?に)捨てられてしまいます

ライオンたち肉を求めてやって来ると、そこにセクシーな雌ライオンが現れ

色っぽいお尻で雄ライオンたちを挑発

雄ライオンは(アスラーンに恋している)魔女王ジニーが変身した姿でした

アスラーンを魔王ジンの空飛ぶ絨毯に乗せ、バグダッドの宮殿まで運びます

寝室でジャリスにシンドバットがキスしていると

そこに突然現れたアスラーン

ジャリスとアスラーンは熱い口づけを交わし、きつく抱き合います

シンドバットのことなど眼中にない、完全無視(笑)

翌日、シンドバットはバドリーによって裁判にかけられます

ジャリスはシンドバットことアルディンミリアムの娘

近親相姦の罪で死刑を言い渡します

シンドバットは、ジャリスと夜を共にしたのはアスラーンだと釈明しますが

シンドバットを国王にしたのも、ジャリスを捧げたのも

アスラーンを戦地に送ったのも

すべて自分が国を統治するためのバドリーの罠だったのです

シンドバッドが王位を追われ、斬首台に向かったその時

(かってバドリーに恥辱を受けた)マーディアの弓で放った矢によりバドリーは倒れ

「太陽に届く塔」倒壊しはじめ、バグダッドに瓦礫が降り注ぎます

気がつくと斬首台からシンドバッドの姿は消えていました

シンドバッドは元のアルディンの姿に戻ると

かってのように砂漠に向かい放浪の旅へとるのでした

 

 

【解説】映画.COMより

「太陽の王子 ホルスの大冒険」の深沢一夫と「展覧会の絵」の手塚治虫が脚本を執筆し、「ある街角の物語」の山本暎一が監督した長編アニメーションドラマ。撮影は土屋旭が担当。この作品の題材は、「千夜一夜物語」(アラビアン・ナイト)で、原作を現代的に脚色した。マルチプレーンカメラの全面使用、実写と動画の合成などが試みられている。

1969年製作/128分/日本
配給:日本ヘラルド