犬に名前をつける日(2015)

監督の山田あかねさんの実体験と4年間200時間に及ぶ取材をもとにした

ドラマ仕立てのセミドキュメンタリー

 

タイトルだけで犬と飼い主のハートウォーミングな映画だと

勝手に思い込み見たら大間違い

癒されるどころか大砲を撃ち込まれましたね

 

愛犬を亡くしロスになったTV番組のプロデューサー、久野(小林聡美)が

犬の勉強をしにロンドンに行こうと思ってると

療養先の先輩、渋谷昶子(のぶこ)さんに相談しに行くと

渋谷さんから「それより日本で犬の映画を撮りなさい」と勧められます

でも犬の映画といっても、なにをしたらいいのかわからない

とりあえず千葉県の動物愛護センターに行き

「ちばわん」の副代表、吉田美枝さんと出会います

そこで毎年殺処分される犬の多さに驚かされます

そんななか1匹でも多くの犬の命を救おうと

吉田さんら「ちばわん」のスタッフは活動を続けているのです

つぎに久野は広島県の「NPO法人犬猫みなしご救援隊」の代表

中谷百合さんを訪ねます

この人が本当にパワフルで凄い人なんですね

野良猫の保護から始まって、広島市の動物管理センターから

全頭の猫引き受けを始め広島県の野良猫の殺処分ゼロを達成

2011東日本大震災後には取り残された300匹以上の被災動物の救済活動

「動物保護のカリスマ」と呼ばれているそうです

 

殺処分される猫が野良猫なのに対し

(その約9割が赤ちゃん猫←成猫は捕まえにくい、またはリリースされるため)

犬のほとんどが飼い主に捨てられ野犬化したか

飼い主自らが保護センターに持ち込むという

人間の身勝手によるもの

その中でも特に悪質なのがブリーダー(中谷さんは繁殖屋と呼ぶ)に

飼われていた犬たち

これは衝撃的で目を覆うものがありました

人気の純血犬を売るため何度も妊娠させられる母犬

もとは茶色い犬種から、白い犬を作り出すための品種改良

そのために母犬の子宮はボロボロ、歯が抜けはみ出した舌、虚ろな目

近親のための障害犬、奇形犬、改良に失敗し行き場のない犬たち

「ちばわん」が保護に向かった経営破綻した横浜の

ブリーダーも酷かったですね

汚物で汚れた新聞紙と狭い檻に閉じ込められた何十匹もの人気犬

ブリーダーは犬が吠えると棒で檻をガンガンと叩いて鳴きやませます

 

調べてみたところ、なんとブリーダーになるのには

専門的な資格が必要なわけでなく、誰でもなれるということ

あなたの飼っている血統書付きのそのワンちゃん

どこから来たか知っていますか?知らされましたか?

一方で「犬猫みなしご救援隊」や「ちばわん」活動に協力してくれる

多くのボランティアのみなさん

 

悪質なブリーダー(法律を作って撲滅すべき)もいれば

保護センターから、被災地から、名もない犬猫たちを助けようとする

多くの人たちがいる

そんな犬猫たちの里親になり、飼ってみようとする人たちがいる

 

映画の中でお金の話は出てきませんでしたが

実際、動物を保護して、よい環境を与えて育てるって

ものすごくお金のかかることなんですよ(笑)

飼い犬や保護犬と一緒に暮らせる横須賀の特別養護老人ホーム

「さくらの里 山科」の施設長はいい人でサービスも充実していますが

入居料はやはり、それなりにかかると思います(笑)

 

でも同じお金を使うなら、動物を買ったり売ったりするためではなく

動物が、私たち人間が、幸せになるため使うべきということですね

 

もしかして今あなたの欲しいと思っている犬猫ちゃんは

ペットショップではなく、保護センターで待っているかも知れません

早くパパやママに会いたいよ、と

 

 

【解説】映画.COMより

すべては海になる」の山田あかね監督が、動物愛護センターから犬や猫を救い出している人々や、東日本大震災で置き去りにされた動物を保護する人々の活動を追った4年間の記録映像に、女優の小林聡美が主人公を演じたドラマパートを加えて描いたドキュメンタリードラマ。愛犬のナツを病気で亡くしたテレビディレクターの久野かなみは、先輩の映画監督の勧めで「犬の命」をテーマにした映画を撮り始める。取材のため動物保護センターや原発事故の避難区域から救い出された犬たちのシェルターを訪れたかなみは、そこで一匹でも多くの動物を救おうと懸命に働く人々の姿に感銘を受け、ある決心をする。

バスターのバラード(2018)

The Ballad of Buster Scruggs 」(バスター・スクラッグスのバラード)

全6話 1話約20分程度のオムニバス西部劇集

アメリカでしか作れないブラックユーモア映画

テーマは死にまつわる古いアンソロジー(詩文の美しいものを選び集めた本)

舞台は19世紀後半(南北戦争後)のアメリカ西部開拓期

すべての章でなんの恨みもない者同士が、殺したり殺されたりされますが

それぞれの物語にはなんの関連性もございません(笑)

映画的に一番いい出来だなと思ったのは

5話目の「アーサーはビリー・ナップに合わせる顔がなかった」

20分でもこれだけのドラマを作れるのですね

コーエン兄弟が苦手で1話目で挫折しそうになっても(笑)

これは見てほしい



第1話「バスターのバラード」The Ballad of Buster Scruggs

放浪の旅を続ける陽気な白服の歌い人バスターはお尋ね者

ある町の酒場でポーカーに参加すると

難癖をつけられ、ならず者と銃撃戦なります

しかしバスターは類稀なる凄腕ガンマン難なく相手をやっつけますが

決闘を挑んできた黒服の流れ者に撃たれ、あっさりと死んでしまいます

けれど天使になっても軽口をやめることはありませんでした



第2話「アルゴドネス付近」Near Algodones

荒野にぽつんと1件の銀行

これは簡単に大金が手に入るぞと

ならず者が窓口の銀行員に現金を要求すると

このおじいちゃん銀行員が思わぬ「ランボー」(笑)

強烈な反撃を喰らってしまい気絶してしまいます

目覚めると保安官たちに囲まれ、首に縄を掛け馬に乗せられていました

馬が草を食べようと前進するたび、いつ落馬して死んでもおかしくない

そこにコマンチ族が急襲してきて、保安官たちが殺されてしまいます

生き残ったならず者は通りがかりの家畜商人に助けてもらいますが

家畜商人は実は家畜泥棒で、罪をなすりつけられたならず者は

結局絞首刑になってしまうのです

 

第3話「食事券」Meal Ticket

老興行漫談家四肢欠損の青年

見世物にして稼いでいましたが、やがて飽きられ客はこなくなります

そこで巷で人気の計算ができるニワトリを買うことにします

青年は介護なしでは、ひとりで生きることはできない

鳥かごの中のニワトリを見て自分は不必要になったことを悟ります

だけどまさか殺されるとまでは思っていなかったはず

しかし青年は老興行によって川に投げ捨てられてしまうのです



第4話「金の谷」All Gold Canyon

ひとり金脈を求めて旅する老人

彼なりの論理で、地道な作業を繰り返しやっと金脈を発見しますが

それを横取りしようとするならず者現われ、老人は撃たれて倒れてしまいます

が、それは死んだフリで(笑)

老人は金を奪おうとしたならず者を逆に撃ち殺すのでした



第5話「アーサーはビリー・ナップに合わせる顔がなかった」

The Gal Who Got Rattled 早とちりの娘

幌馬車隊兄と新天地オレゴンをしている

旅の途中兄が病気で死に、娘はどうしたらいいか迷いますが

純粋で真面目な娘を見染めた隊長ビリー・ナップ

彼女にプロポーズします

娘も結婚する決意をしますが、突然行方不明になってしまいます

隊員が言うには飼っていた犬を追いかけて行ったということ

ビリー・ナップと共に隊を率いるアーサーが娘を探しに行くと

犬を見つけ抱えた彼女はプレーリードックの群れを見て笑っていました

そこにインディアン襲撃

アーサーは自分に何かあったら自殺しろと娘に銃を渡します

もしインディアンに捕まったら嫁にされるか屈辱をうけるのだと

するとアーサーが死んだと早とちりしてしまった娘は

自らの額を撃ち抜いてしまうのです



第6話「遺骸」The Mortal Remains 遺体、なきがら

フォートモーガンコロラド)に向かう乗合馬車5人の乗客
別居中で大学講師をしている夫に会いに行くという老婦人

言葉の通じない先住民の女と暮らしていたという毛皮猟師

アイルランド人と英国人は(懸賞金のかかった)死体を運ぶビジネスパートナー

フランス人の職業はわからなかったけど(笑)

彼らは人間が1種類か2種類かの議論になり

老婦人が興奮しすぎて発作を起こしてしまいます

御者に助けを求めたものの、御者は拒否

やがて老婦人の容体は安定、不穏なムードの中馬車はホテルに着きます

アイルランド人と英国人が荷台の死体を部屋に運んでいきました

老婦人、猟師、フランス人は恐る恐るホテルに入ります

静かに去っていく馬車

アイルランド人と英国人は死神(コーエン兄弟の分身か)

老婦人、猟師、フランス人はすでに死んでいたのです

殺人、死刑、自殺、病気、事故、自然死、誰もが必ず死ぬということ

しかも死に方は様々、自分で選べないということを

残酷だけど陰湿ではない、いかにもシュールでしたね

 

豪華なキャストの中では、金を探し歩く老山師のトム・ウェイツ

アーサー役の(日本では知名度が低い)グラインジャー・ハインズがよかった

枯れ専萌えは間違いなしです(笑)



【解説】映画.COMより

ノーカントリー」のジョエル&イーサン・コーエン兄弟が製作・監督・脚本を手がけた西部劇アンソロジー。「オー・ブラザー!」のティム・ブレイク・ネルソンが陽気な凄腕ガンマンを演じる表題作をはじめ、ブラックユーモアや皮肉を散りばめたバラエティ豊かな6話で構成。キャストには「ディザスター・アーティスト」のジェームズ・フランコ、「96時間」シリーズのリーアム・ニーソン、「ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ」のゾーイ・カザン、「セブン・サイコパス」のトム・ウェイツら豪華な顔ぶれがそろった。2018年・第75ベネチア国際映画祭脚本賞を受賞。

カセットテープ・ダイアリーズ(2019)

原題は「BLINDED BY THE LIGHT 」(光で目もくらみ)で

ブルース・スプリングスティーン1973年に発表した楽曲のタイトル

悪くない邦題ですが、スプリングスティーン・ファンからは

ブーイングですね(笑)



ブルース・スプリングスティーン大・大・大・大好きな高校生が

差別や苦難を乗り越え成長していく物語

実話ベースなので正直詰めは甘く

ミュージカルシーンはダサくて恥ずかしいのですが(笑)

登場人物が皆親切なので見た後味はとてもいい

1987年、イギリスにある小さな町ルートン

両親はパキスタン移民で16歳のジャべドは作家になるのが夢

パキスタン人に対する偏見や経済問題について

詩や日記に書いたりしていますが

自分の気持ちを正直に表す言葉がうまく見つかりません

そんなとき同じムスリム系のルーブスが

ブルース・スプリングスティーン、通称「ボス」のアルバム

「ボーン・イン・ザ・USA」と「闇に吠える街」を録音した

カセットテープを借してくれます

私もCD持っています(何十年も聞いていませんけど 笑)

 

そこには差別社会に対する鬱憤が力強く歌われていました

ジャべドが世間に感じていたのと同じが疑問が、すべてそこにあったのです

ジャべドは「ボス」の言葉に勇気をもらい

やがて自分の正直な気持ちを言葉にできるようになっていきます

ガールフレンドも出来て充実の日々

しかも国語の先生がコンクールに応募した論文が入選し

アメリカの大学のセミナーに行けることになります

その場所はなんと!「ボス」の聖地、ニュージャージー!!


しかしジャベドの父マリクは保守的なイスラム教徒

ジャべドがアメリの音楽を聴くことを快く思っていないうえ

イギリスにパキスタン移民の作家などいないと吐き捨てます



しかも運の悪いことに、姉の結婚式に行く途中

父が移民反対のデモに巻き込まれてしまい暴行を受けてしまいます

激怒した父は、ジャべドが手に入れた「ボス」のコンサートチケットを

破いてしまいました(とんだとばっちりだ)

もちろんアメリカ行きにも反対します

父親と喧嘩し勘当されてもアメリカに行く決意をしたジャべド

帰国後は友人の家から高校に通います

やがて卒業式、優秀な生徒はスピーチをすることになっています

ジャべドもそのなかのひとりに選ばれていました

 

原稿には町を出て成功する夢が綴られています

そこに両親と妹が遅れてやってきたことに気付きます

ジャべドは即興でスピーチの内容を変え

スプリングスティーンへの大大愛とともに(笑)

両親へ感謝と、家族と和解したい気持ちを述べるのです

「自分がいるのは家族のおかげだということを忘れてはいけない」のだと

ジャベドは卒業後マンチェスター大学に進学し

友人たちもそれぞれ自分の夢に向かって動き出しました



エンドクレジットでは本人と「ボス」との

ツーショット写真が何枚か出てきましたね

マツコの知らない世界」じゃないですけど(笑)

本当に好きで好きで大好きで、その世界を極めれば

夢は叶うものなのだと思います(笑)

ジャべドのモデルとなったサルフラズ・マンズールさん(1971生)は

イギリスのジャーナリスト、放送作家、脚本家として活躍しているということです

 

 

【解説】allcinema より

1987年のイギリスの田舎町を舞台に、厳格なパキスタン移民の父親の下で窮屈な日々を送る青年が、ブルース・スプリングスティーンの音楽と出会い、自分らしく生きるための勇気を手にして人生が輝きだすさまを描いた青春音楽ストーリー。イギリスのジャーナリスト、サルフラズ・マンズールの回顧録を「ベッカムに恋して」「英国総督 最後の家」のグリンダ・チャーダ監督が映画化。主演は本作が映画初出演の新星ヴィヴェイク・カルラ。
 イギリスの田舎町でパキスタン移民の家庭に暮らす16歳の少年ジャベド。音楽と詩を書くのが好きな彼だったが、外では移民へのいわれなき差別や偏見に晒され、家では厳格な父親からの理不尽とも思える抑圧に苦しめられる日々を送っていた。鬱屈を抱え、いら立ちを募らせていたある日、ジャベドはアメリカのロック・スター、ブルース・スプリングスティーンの音楽と出会い、衝撃を受ける。彼の詩に激しく共鳴し、それまで抑え込んでいた自分を解き放っていくジャベドだったが…。

わが命つきるとも(1966)

原題は「A MAN FOR ALL SEASONS」(どんな状況でも頼りになる人間)

ユートピア」の著作で知られるイングランドの大法官(官職)、法律家

人文主義者のトマス・モアが反逆罪で処刑されるまでの物語

 

8年ほど前に鑑賞してレビューしているんですけど(笑)

この8年間、ヘンリー8世やキャサリン・オブ・アラゴン

ブーリン家の姉妹をテーマにした映画を見てきたおかげで

初見より理解できたような気がします

ことの次第

1501年兄アーサーが急死

1509年父ヘンリー7崩御、ヘンリー8世が即位

兄弟の妻と結婚することは教会法上禁止されていましたが

スペイン(カスティーリャアラゴン連合)の関係を保つため

ローマ教皇の赦しを得て2ヶ月後

ヘンリー8世は兄アーサーの妻キャサリンと結婚

キャサリン王妃は死産、流産を繰り返したものの

1516年ようやくメアリー王女(後のメアリー1世)を出産

ヘンリー8世(ロバート・ショウ)は利己的で好色家、多くの愛人を持ち

エリザベス・ブラントとの間に息子ヘンリー・フィッツロイをもうけ

(ヘンリーに認知された唯一の庶子で初代リッチモンド公およびサマセット公)

キャサリン王妃の侍女メアリー・ブーリンと関係を持ち

2人の子はヘンリーの子である可能性が高いが認知はされなかった)

次にメアリーの妹アン・ブーリンヴァネッサ・レッドグレイヴ)を求めますが

アンはメアリーとは違い愛人になることを断固と拒否し

正式な結婚を求めてきたのです

世継ぎとなる嫡出の王子を儲けるためにには

キャサリン王妃と離婚し、アンと結婚するのがてっとり早い

しかしカトリック教会から面倒な離婚の承認など受けたくない

ヘンリーは敬虔な信者としてカトリック教会からも

議員として国民からも信頼されているトマス・モア(ポール・スコフィールド

自由に離婚できる法案を認めてくれと詰め寄るのですね

しかしモアは「教皇が認めない限り離婚を正当化するいかなる根拠も無い」

とヘンリーの申し出を断るのです

そしてヘンリーによるモアへの復讐が始まります

査問委員会にかけられ、反逆罪ロンドン塔に幽閉され

153576斬首刑に処されます

遺体の首はロンドン橋に晒されたということです

ローマ教皇に離婚を認めてもらうのが面倒だという理由だけで

結果ヘンリーは6度の正式な結婚をしますが

どの結婚も幸せだったとは言えないでしょう

信念を貫く男を描かせたらこの人、フレッド・ジンネマン

豪華な俳優陣にセット、どれをとっても申し分ないですね

モアの妻はウェンディ・ヒラー、娘にスザンナ・ヨーク

巨漢の枢機卿オーソン・ウェルズ

出世のためなら魂も売るリッチにジョン・ハート

ヘンリーの側近の悪漢クロムウェル、レオ・マッカーン

大きな歴史の流れと裏切りに、たったひとりで立ち向かった男

悲しくも美しいドラマなのです

トマス・モアは没後400年の1935

カトリック教会と聖公会で聖人になったそうです

 

 

【解説】KINENOTEより

ドクトル・ジバゴ」のロバート・ボルトが彼自身の戯曲を脚色、「日曜日には鼠を殺せ」のフレッド・ジンネマンが製作・監督した作品で、アカデミー賞の作品賞に輝いているほか、数々の賞を獲得している。撮影は「モール・フランダースの愛の冒険」のテッド・ムーア、音楽は「カトマンズの男」のジョルジュ・ドルリューが担当した。出演は英国舞台俳優のポール・スコフィールド、「息子と恋人」のウェンディ・ヒラー、「モール・フランダースの愛の冒険」のレオ・マッカーン、「バルジ大作戦」のロバート・ショウ、「パリは燃えているか」のオーソン・ウエルズ、スザンナ・ヨークほか。総指揮はウィリアム・N・グラフ。

イングランド国王ヘンリー8世(ロバート・ショウ)は、若く精力旺盛であった。彼は王妃キャサリンと離婚し、王妃の侍女であるアン・ブーリンとの結婚を考えていた。しかしローマ・カトリックが国教であるイングランド国王の離婚には、ローマ法王の許しを得なければならなかった。王の2度目の結婚を法王に弁護できる者は、サー・トマス・モア(ポール・スコフィールド)をもって他にないと考えられた。モアは王の高等評議会の一員で信仰心あつく、ヨーロッパ中の人々から愛されていた。ある時、モアがチェルシーの領地で、妻のアリス(ウェンディ・ヒラー)、娘のマーガレット(スザンナ・ヨーク)や友人たちとの宴を楽しんでいると、ウォルジー枢機卿(オーソン・ウエルズ)からの使いが来て、ハンプトン宮殿へ召喚された。枢機卿はモアに、ヘンリー8世と王妃の離婚を法王が承認するよう取りはからうように依頼する。しかしモアはそれを拒否した。1年後、ウォルジー枢機卿は王の離婚実現に失敗し、大寺院で寂しく死んだ。ある夜ヘンリー8世がモアの館を訪れた。今や大法官の地位に就いているモアは、王に忠誠こそ誓ったがローマ・カトリックへの信仰から王の離婚に決して賛成しなかった。間もなく評議会がカンタベリー大寺院で招集され、国王はローマ法王に対する忠誠を放棄し、自ら英国教会の主となることが発表された。そうして王はキャサリンと離婚し、アン・ブーリンと結婚式を挙げた。大法官の地位を躊躇なく棄てて、一市井人として静かな生活を送っていたモアだったが、ヘンリー8世が発布した国王至上法に反対したため、大法官秘書クロムウェル(レオ・マッカーン)の策により、査問委員会にかけられる。遂にモアは反逆罪で逮捕され、ロンドン塔に幽閉された。やがて彼はウエストミン・ホールの裁判にて死刑宣告を受けモアは長い沈黙を破り、こう宣言した。「私は王の忠実な召使いとして死にます。だが王よりも第一に神のために死ぬのです!」と。

ロスト・ドーター(2021)

原題も「The Lost Daughter」(失われた娘)

これは手強い映画でした

単に酷い母親を描いているようだけど一筋縄にいかない

女性監督が女性の「裏側」にメスを入れます

 

英国からギリシャへ避暑のためバカンスにやって来た

自称「文学を教える教授」のレダオリヴィア・コールマン

コテージの管理人ライル(エド・ハリス)は親切だけど下心がある

レダ目線からはそう見えます

翌日ビーチに行き読書をしているとビーチハウスのアルバイト

ウィルが日陰にテントを移動してくれます

最初は押し売りだと思ったけれどそうではなさそう

そこに周りの迷惑も顧みず賑やかな集団がボートに乗ってやってきます

そして家族のパーティだからレダに場所を譲れと言うのです

断るレダ

 

その中にニーナ(ダコタ・ジョンソン)という母親と

幼いエレーナという娘がいました

ニーナは子育てに少しうんざりしている様子

エレーナはお気に入りの人形を放さず可愛がっています

そんな母娘の姿を見て、レダは自分の幼かったふたりの娘を思い出します

蛇のようにオレンジの皮を剥くのを見るのが好きだった娘たち

その頃レダはイタリア文学の研究に没頭していました

しかし子どもたちが絡んでくるせいで、集中できないストレス

しかも夫がEDになってしまい欲求不満

レダは名のある教授を誘惑し、論文を認めてもらったうえ

彼とのセックスに溺れます

ついには夫と娘たちを捨て家を出てしまうのです

にもかかわらず、娘たちが恋しくな3年後には戻ってきます

自分でもわかってる自分勝手な女だと

レダはニーナとエレーナを観察するようになります

ある日ニーナが夫と口論している間に、エレーナが行方不明になってしまいます

ついさっきまで鬱陶しかった娘

だけどいなくなって初めて、その大切な存在に気付く

 

自分も長女をビーチで見失った経験のあるレダ

海岸の林を抜けた岩場で遊んでいるエレーナを見つけます

エレーナを見つけてくれたレダに、ニーナは感謝以上の友情を感じます

しかしエレーナの大切な人形は見つからないままでした

人形がないと泣き叫び、余計に手がかかるようになったエレーナ

ファミリーは人形に多額の懸賞金まで懸けて人形を探します

だけど人形は見つかりません

なぜならレダが人形を隠し持っていたからです

 

日本でいう、おままごと用の「ミルク飲み人形」

レダは人形のお腹の中を洗い、新しい服を買って着せます

そして人形を返すため、ニーナの家を訪ねたとき

ニーナとウィルがキスしている現場を目撃してしまうのです

しかもウィルがニーナと会うため、部屋を貸してくれてやってきます

イギリスに帰るから(契約期間中)好きなだけ使ってと言うレダ

レダの親切にお礼にやって来たニーナ

そこでレダは隠し持っていたエレーナの人形を渡します

 

あれほど探していた人形

激怒したニーナは(レダからプレゼントされた)帽子のピンで

レダの腹を刺し立ち去るのでした

レダは死ぬのかと思ったのですが(笑)

急所は外れたのでしょう

コテージを出発し、ビーチ娘と携帯で話しています

こんな母親失格な私でも、心配してくれる娘たち

 

映画の中で説明はありませんでしたが

問題はなぜレダは人形を隠したか、ということですね

 

ニーナの家族はどう見てもマフィア

そしてエレーナの人形への異常な執着心

人形に懸けられた多額の賞金

その様子をずっと伺っていたレダ

人形には中毒性のあるものが詰められているかも知れない

母親(あるいは夫が)手のかかる娘に摂取させているのだ

そう考えたレダは人形を綺麗にして返そうとしたのです

 

でもレダにニーナを咎める資格はない

むしろ彼女の気持ちがよくわかるのです

自分も自由と男を求めて逃げた人間だから

だけど子どもを愛していたという気持ちに嘘はない

今は幼なかった娘を思い出し、罪悪感に苛まれ続けているのです

 

美味しそうな果物が裏を返せば腐っていたり

可愛い人形の口から気持ち悪い生物が出てくる

それと同じようにいくら真面目で善い人間のように見えても

私たち誰の過去や心の中に、汚れたものがあるということ

しかもその汚れは、救われることはあっても

一生消えることはないのです

世界的に子育ての環境はもっと整うべきですね

虐待も育児放棄も、やはり母親の負担が大きすぎることが

原因のひとつだと思います

そこはもう少しメスを入れてもよかったかな

 

 

【解説】映画.COMより

クレイジー・ハート」などの女優マギー・ギレンホールが長編監督デビューを果たしたヒューマンドラマ。エレナ・フェッランテの小説を基にギレンホール監督が自ら脚本を手がけ、2021年・第78ベネチア国際映画祭で最優秀脚本賞を受賞した。海辺の町へバカンスにやって来た中年女性レイダは、ビーチで見かけた若い母親ニーナと幼い娘の姿に目を奪われる。母娘の関係に動揺したレイダは、かつて自分が母親になったばかりで恐怖と混乱に満ちていた頃の記憶に押しつぶされそうになり、心の中の不気味な世界へと迷い込んでいく。出演は「女王陛下のお気に入り」のオリビア・コールマン、「フィフティ・シェイズ」シリーズのダコタ・ジョンソン、「ジュディ 虹の彼方に」のジェシー・バックリー。第94アカデミー賞ではコールマンの主演女優賞、バックリーの助演女優賞と、脚色賞の計3部門にノミネートされた。Netflix20211231日から配信。

映画より猫?

なかなかブログの更新・訪問できず

BZDファンクラブ(存在しない 笑)のみなさま

申し訳ございません

 

その理由のひとつがこの子っ!

先月、車の中から猫の鳴き声がすると近所の方にお教えていただき

ボンネットを開けると産まれたばかりの子猫を発見

タオルに包み靴箱に入れ動物病院へ連れて行ったものの

低体温、低体重、初乳を飲んでいないため免疫力がなく

命の危険と言われてしまいます

しかし病院と猫の保護活動(子猫専門)をしてしる

ボランティアさんの協力もあり

ここまで大きくなりました

しかもこのあとトライアルも決まりました

トライアルとは里親希望の方が保護猫(犬)との相性を確かめるため

一定期間一緒に暮らすことです

 

男の子です

トイレしているつもり(まだ出来ない 笑)

私も可愛くて可愛くて目が離せなく

手放すのは惜しい気持ちでいっぱいなのですが

我が家の先住猫の警戒心があまりに強すぎて(汗)

一切リビングに近寄らなくなってしまったのです

 

それにまた車の中に猫が入ることがあるかも知れない(それは困る)

 

野良猫に餌付けしている人は責任もって不妊手術もして欲しいですね

特に敷地内で餌付けしている場合は

保護ボランティアもそのお宅の許可がなければ敷地内に入り

捕獲してリリース(手術して元の場所に戻すこと)することができません

 

猫の餌付けが生き甲斐の人もいるでしょう

母親猫が子猫を生み育てる姿も微笑ましい

だけど半年も経てばその子たちがまた子どもを生み

しかも病気になったり、事故にあったり、カラスにさらわれたり

保健所で殺傷処分になるかもしれない

 

野良猫の避妊去勢が残酷と言う前に

不幸な猫を増やすほうが残酷だということを理解してほしい

そういう人たちにいくら説得しても

聞く耳をもたないことはわかってるんですけど

この子の小さな命が助かったのは

たまたまこの子が強運だったからなのです

グッバイ、リチャード!(2018)

原題は「THE PROFESSOR」(教授)

末期ガンの宣告を受けた大学教授の余生の過ごしかた

死期の迫った主人公が、どう生きるべきか

多くの映画で扱われるテーマのひとつですね

市役所の課長が、胃癌で余命わずかと知り

市民公園の整備に注ぐ姿が描かれた黒澤明の「生きる」

 

産まれてくる我が子のために自分の姿をビデオに撮り

遺言”を通して、妻との絆を取り戻していく「マイ・ライフ」

 

余命2か月の宣告を受けた23歳の人妻が

「死ぬまでにしたいこと」をノートに書き出し

ひとつずつ実行してゆく「死ぬまでにしたい10のこと」

 

自分の美しい姿だけを覚えていて欲しいと

1ヶ月ごとに恋人を変える 「スウィート・ノベンバー

 

脳腫瘍で余命わずかな少女と、日本兵の霊が親友少年の

儚い恋を描いた「永遠の僕たち」

 

偶然同じ病室になった初老の男ふたりが冒険の旅に出る

最高の人生の見つけ方

すぐに思い出せるだけでも、たくさんの名作がありますが

 

本作のリチャード(ジョニデ)は、なにかを成し遂げるわけではない

家族とともに過ごす感涙なラストでもない

 

医師から宣告されたのは余命半年、延命治療して1年か1年半

家族に打ち明けようとしたその日、娘は自分がレズだとカミングアウト

妻(ローズマリー・デウィット)は上司の学長と不倫していると告白

なんだ、そんなことか

死ぬより悩むことか?よっぽどマシじゃねえか

勝手にやってくれ

だけど不倫相手がいけすかない学長とは、妻の趣味を疑う

 

それからというもの健康第一にオサラバ

理想的な夫とも父親とも、尊敬される大学教授ともオサラバ

精一杯無駄で適当な時間を過ごします

吸いたい時にタバコを吸い、飲みたい時に酒を飲む

やりたい授業だけやり、生徒からマリファナを買う

パブでウェイトレスとトイレでヤッてみる

ゲイの男子学生も試してみるコンビニエンスなセックス

パーティの席ではタマ3つの学長に毒を吐き、学長の妻にキスをします

それらの行為は浅はかで、自暴自棄なのだけど

リチャードにとっては、たぶん「けじめ」なんですね

 

そんな中、リチャードの同僚で長年の親友

ピーター(ダニー・ヒューストン)だけは別れを悲しみ

本人以上にメソメソしてしまいます

ピーターの熱い思いにリチャードも自分が考えている以上に

悲しくなってしまう

恋人(女の子)と破局した娘を慰め、恥ずかしながらハグをする

「お前はそのままでいい、信じた道を行け 愛してる」

もしかしたら、これが父親らしい愛情を注いだ最初かも知れない

今までの人生は全て嘘つき

なんて無関心だったのだろう

段々と弱っていく身体、やがて死期を感じたリチャードは

愛犬を連れ(道連れではないと願いたい)

右でも左でもない、道のない死後への旅に向かうのでした

 

映画的な評価は中、それなり

もうすこし皮肉を効かせて欲しかったところですが

90分にテンポよく収まっているのは見やすいし

ジョニデは素顔がやっぱりいい

50代になってからはちょっと、サム・ペキンパーを意識してるか

目指しているようにも見えますけど(笑)

 

 

【解説】allcinema より

ジョニー・デップがガンで余命半年の宣告を受けた大学教授を演じるコメディ・ドラマ。突然の余命宣告に戸惑いながらも、何にも縛られずに生き始めたことで自分にも周囲にも様々な気づきをもたらしていく姿をユーモラスな筆致で描き出す。共演はローズマリー・デウィット、ダニー・ヒューストン、ゾーイ・ドゥイッチ。監督はデビュー作となる前作「グッバイ、ケイティ」が高い評価を受けた新鋭、ウェイン・ロバーツ。
 愛する妻と娘と何不自由ない生活を送る真面目な大学教授のリチャード。幸せな人生だと思い込んでいたところ、突然ガンの宣告を受け余命6ヵ月と告げられてしまう。その気持ちの整理も付かぬうちに、今度は妻から不倫の事実を打ち明けられてしまう。動揺しつつも、もはや失うものは何もないと開き直り、これからはやりたいように生きると決意するリチャードだったが…。