原題も「The Lost Daughter」(失われた娘)
これは手強い映画でした
単に酷い母親を描いているようだけど一筋縄にいかない
女性監督が女性の「裏側」にメスを入れます
英国からギリシャへ避暑のためバカンスにやって来た
自称「文学を教える教授」のレダ(オリヴィア・コールマン)
コテージの管理人ライル(エド・ハリス)は親切だけど下心がある
レダ目線からはそう見えます
翌日ビーチに行き読書をしているとビーチハウスのアルバイト
ウィルが日陰にテントを移動してくれます
最初は押し売りだと思ったけれどそうではなさそう
そこに周りの迷惑も顧みず賑やかな集団がボートに乗ってやってきます
そして家族のパーティだからレダに場所を譲れと言うのです
断るレダ
その中にニーナ(ダコタ・ジョンソン)という母親と
幼いエレーナという娘がいました
ニーナは子育てに少しうんざりしている様子
エレーナはお気に入りの人形を放さず可愛がっています
そんな母娘の姿を見て、レダは自分の幼かったふたりの娘を思い出します
蛇のようにオレンジの皮を剥くのを見るのが好きだった娘たち
その頃レダはイタリア文学の研究に没頭していました
しかし子どもたちが絡んでくるせいで、集中できないストレス
しかも夫がEDになってしまい欲求不満
レダは名のある教授を誘惑し、論文を認めてもらったうえ
彼とのセックスに溺れます
ついには夫と娘たちを捨て家を出てしまうのです
にもかかわらず、娘たちが恋しくな3年後には戻ってきます
自分でもわかってる自分勝手な女だと
レダはニーナとエレーナを観察するようになります
ある日ニーナが夫と口論している間に、エレーナが行方不明になってしまいます
ついさっきまで鬱陶しかった娘
だけどいなくなって初めて、その大切な存在に気付く
自分も長女をビーチで見失った経験のあるレダは
海岸の林を抜けた岩場で遊んでいるエレーナを見つけます
エレーナを見つけてくれたレダに、ニーナは感謝以上の友情を感じます
しかしエレーナの大切な人形は見つからないままでした
人形がないと泣き叫び、余計に手がかかるようになったエレーナ
ファミリーは人形に多額の懸賞金まで懸けて人形を探します
だけど人形は見つかりません
なぜならレダが人形を隠し持っていたからです
日本でいう、おままごと用の「ミルク飲み人形」
レダは人形のお腹の中を洗い、新しい服を買って着せます
そして人形を返すため、ニーナの家を訪ねたとき
ニーナとウィルがキスしている現場を目撃してしまうのです
しかもウィルがニーナと会うため、部屋を貸してくれてやってきます
イギリスに帰るから(契約期間中)好きなだけ使ってと言うレダ
レダの親切にお礼にやって来たニーナ
そこでレダは隠し持っていたエレーナの人形を渡します
あれほど探していた人形
激怒したニーナは(レダからプレゼントされた)帽子のピンで
レダの腹を刺し立ち去るのでした
レダは死ぬのかと思ったのですが(笑)
急所は外れたのでしょう
コテージを出発し、ビーチ娘と携帯で話しています
こんな母親失格な私でも、心配してくれる娘たち
映画の中で説明はありませんでしたが
問題はなぜレダは人形を隠したか、ということですね
ニーナの家族はどう見てもマフィア
そしてエレーナの人形への異常な執着心
人形に懸けられた多額の賞金
その様子をずっと伺っていたレダ
人形には中毒性のあるものが詰められているかも知れない
母親(あるいは夫が)手のかかる娘に摂取させているのだ
そう考えたレダは人形を綺麗にして返そうとしたのです
むしろ彼女の気持ちがよくわかるのです
自分も自由と男を求めて逃げた人間だから
だけど子どもを愛していたという気持ちに嘘はない
今は幼なかった娘を思い出し、罪悪感に苛まれ続けているのです
美味しそうな果物が裏を返せば腐っていたり
可愛い人形の口から気持ち悪い生物が出てくる
それと同じようにいくら真面目で善い人間のように見えても
私たち誰の過去や心の中に、汚れたものがあるということ
しかもその汚れは、救われることはあっても
一生消えることはないのです
世界的に子育ての環境はもっと整うべきですね
虐待も育児放棄も、やはり母親の負担が大きすぎることが
原因のひとつだと思います
そこはもう少しメスを入れてもよかったかな
【解説】映画.COMより
「クレイジー・ハート」などの女優マギー・ギレンホールが長編監督デビューを果たしたヒューマンドラマ。エレナ・フェッランテの小説を基にギレンホール監督が自ら脚本を手がけ、2021年・第78回ベネチア国際映画祭で最優秀脚本賞を受賞した。海辺の町へバカンスにやって来た中年女性レイダは、ビーチで見かけた若い母親ニーナと幼い娘の姿に目を奪われる。母娘の関係に動揺したレイダは、かつて自分が母親になったばかりで恐怖と混乱に満ちていた頃の記憶に押しつぶされそうになり、心の中の不気味な世界へと迷い込んでいく。出演は「女王陛下のお気に入り」のオリビア・コールマン、「フィフティ・シェイズ」シリーズのダコタ・ジョンソン、「ジュディ 虹の彼方に」のジェシー・バックリー。第94回アカデミー賞ではコールマンの主演女優賞、バックリーの助演女優賞と、脚色賞の計3部門にノミネートされた。Netflixで2021年12月31日から配信。