ブラジルから来た少年(1978)


フランクリン・J・シャフナー×アンリ・ドカエ×ジェリー・ゴールドスミス

これだけで私の好み(笑)

特に中盤からはグッと引き込まれます

 

製作当時は重要な登場人物となっているメンゲレ博士が

実際に南米に潜伏していて、まだ存命中だったということで

恐ろしさも倍増したのではないでしょうか

 

舞台は南米パラグアイ

あるナチスハンターの青年が、メンゲレ博士が招集した会議盗聴に成功し

「2年半の間に公務員で65男性94人を殺害する

という計画を嗅ぎつけます
 

ベテランのナチスハンター、リーバーマンローレンス・オリヴィエ)に

そのことを知らせるものの、彼は行方不明になってしまいます

 


60代の公務員の不審死を調べることになったリーバーマン

彼らの息子が黒髪で色白で青い瞳

しかも性格までそっくりなことに驚きます
 

生物学研究所を訪ね、科学者に話を聞くと

そのことはクローンなら可能だというのです

ただし環境も同じでなければいけない

 

「こわい父親を持った陰気な子

税官吏だった父が52の時に生まれ

彼を甘やかして育てた母親は29

父親が65歳で死んだ時、彼は14歳」

その少年とは、アドルフ・ヒトラー

 

メンゲレ(グレゴリー・ペック)は94人のヒトラーのコピーを作り

その65歳になった父親を全員殺害する計画を立てていたのです

 
ムカデ人間」(2010)でもモデルとなった「死の天使」メンゲレ博士

 

一方のリーベルマンはサイモン・ヴィーゼンタールがモデル


 
この作品の凄いところは、根強いナチに対する反感と恐怖だけでなく

立場は違えどこのふたりが、戦争によって引き起こされた

同じ執念と狂気をメインに描いているところ

 

戦後の平和に馴染めず、周囲から孤立した孤独な老人

メンゲレはヒトラーを蘇らせナチスの再建を目指し

リーベルマンはナチスハンターに生涯を捧げる

それが彼らの唯一の生きる目的と化してしまっているのです

 

メンデレ博士の計画はチス上層部からさえも煙たがられ

戦争傷跡を掘り返すリーバーマンの行動は疎んじられている

 

それにしてもこういう物語を冷静に受けとめるドイツ人は偉いと思います

私だったらもし隣国が731部隊をテーマに映画を作ったら

いくらフィクションでも、きっと嫌な気持ちになってしまう

 

確かに古臭いところもありますし

71歳のオリヴィエと63歳のペックの格闘シーンも

ちょっとイタイですが(笑)

 

見事な演出で、あわせ鏡に写るふたりのカットに唸りますし

怖さの残る不気味なラスト・シーンも秀逸

 

原作もぜひ読みたいと思わせてくれるSFミステリーでした

 

 寡作のスリラー作家アイラ・レヴィンの同名小説を映画化したスリラー。アウシュビッツ収容所で死の天使と言われたメンゲレ博士が、ナチスの残党と共にある計画を発動した。それは、アメリカとヨーロッパにいる、94人もの人物を殺害する、というものだった。そしてそれは、ナチスの復活を告げる悪魔の計画でもあった……。地味な顔ぶれだったからか、結局、劇場公開されなかった作品だが、G・ペックの狂信的な悪役ぶりや、F・J・シャフナーの抑制の効いたサスペンス演出が冴える逸品だ。