ディーパンの闘い(2015)

 
スタートレックにアラブ人がいない理由は?」
「未来だから」
 
 
内戦の起きている国で、あかの他人同士が親子を偽装する
それは親子のほうが難民の審査を通り
先進国に受け入れてもらえやすいからだそうです
 
スリランカの難民キャンプで知り合った
元兵士のディーパンと若い女性ヤリニ
そして親を失った少女イラヤル
親子を偽りフランスに移住して集合住宅の1室に住み
ディーパンはそこの管理人として働き始めます
 
彼らは少数民族のタミル人でイスラム教徒のようです
そのため仏教国のスリランカでは迫害され、武装闘争していました
 
 
 
タルミ人と言えば、タミル語と日本語は同根という説が
テレビで(「日立 世界ふしぎ発見」だと思う)話題になったことがあります
タミル人は日本と関係があることを喜んでくれました
そう思うと身近な存在に感じます
 
 
ディーパンが意外としっかりしていて
フランス語も話せるし、働き者で毎日団地を修理します
 
白人からのあからさまな差別は見受けられません
住民たちともスムースに溶け込み
偽の妻ヤリニには高給な介護の仕事の世話もします
ただ、偽の娘イラヤルが(移民なので)学校で仲間に入れてもらえないため
小さな事件は起こるということはありました
 
その団地の住民たちが何者なのかはわかりません
麻薬密売に関わる抗争があるような気配は漂います
とはいえ、ボスのブラヒムは根っからのワルなどでなく
ヤリニのことも親切に扱います
 
 
 
やがてディーパンはヤリニと肉体関係をもつようになり
ヤリニとイラヤルの本当の家族のような愛情を抱いていきます
しかし女性の心理はそんなに単純ではない
銃撃戦に巻き込まれたとき、ヤリニはひとりでイギリスに逃げようとします
 
 
欧州に行けば、平和な暮らしが手に入ると信じていたのに
生活の拠点となるのは治安の悪い貧困街という厳しい現実
 
こういう作品を見ると、私は移民や難民の問題について
本当に何も知らないと反省させられます
他の先進国の方に、意見する資格さえないでしょう
 
 
ディーパンは家族を守るためにギャングにひとり立ち向かいます
ここからはちょっと作風が変わり
アクション映画のようになっていくわけですが(笑)
 
オーディアール監督は「わらの犬」(1971)のような
映画を撮りたかったと知り納得しました
 
 
イギリスに渡航し子どもが産まれ幸福になるという結末は
現実味がなく唖然としたのですが
(あんな銃撃戦があってフランスから出れるわけがない)
 
直前の襲撃シーンでディーパンが頭を被爆していたので
幸せな3人の姿は、ディーパンが夢見た幻ではないかと
解釈することにしました
 
 
フランスが抱える難民問題を、パルムドール受賞という形で
世界に紹介したカンヌ映画祭は意義のある審査をしたと思います
今のままでいたら、世界中が難民と貧民とギャングばかりになってしまう
そういう恐怖を覚える作品でした
 

 
【解説】allcinemaより
預言者」「君と歩く世界」のジャック・オーディアール監督による2015年カンヌ国際映画祭パルムドール受賞の社会派サスペンス・ドラマ。内戦下のスリランカを逃れ、フランスに入国するため赤の他人と家族を装うことになった元兵士の過酷な運命をスリリングに描き出す。主演は本人も実際に少年兵として内戦で戦った経験を持つアントニーターサン・ジェスターサン。
 内戦が続くスリランカ。妻と娘を殺され、戦う意味も失った元兵士のディーパン。難民キャンプで一人の女ヤリニと出会う。単身よりも家族のほうが難民として受け入れられやすいということで、2人は母を亡くした少女イラヤルも加え、家族としてフランスへ向かう。やがて、どうにか難民審査をパスした3人は、パリ郊外の集合団地に移り住む。そこで、団地の管理人の職を得たディーパンは、秘密を共有するヤリニ、イラヤルとともに、嘘がバレないよう、慎重に家族のフリをし続ける。それもこれも、ただ平穏な暮らしを願ってのことだったのだが…。