西部の男(1940)

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「で、リリーちゃんは?」

「そんなことよりリリーちゃんは?」


原題は「THE WESTERNER」(西部の住民や西部出身者のこと)

これは不思議な魅力のある、なかなかの傑作でした

私的にはゲイリー・クーパーの主演作の中でも上位ランキング

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コメディ仕立ての中に、アクション、ロマンス

当時の社会問題までバランスよく組み込み

ストーリー、カット、セリフ、俳優、みんないい

モノクロの画面にモノラルな音声もマッチしている

「推し」がテーマというのも古くて新しい(笑)


スタッフも1流ですね

監督はウィリアム・ワイラー

脚本はニーヴン・ブッシュ

カメラはグレッグ・トーランド

音楽はアルフレッド・ニューマンディミトリー・ティオムキン

助演には名脇役ウォルター・ブレナン

3度のアカデミー助演男優賞受賞のなかのひとつ)

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1880年代のテキサス

牛追いたちが自由に放牧していた広大な土地に

(国から合法的に土地が与えられた)移民が移住して来るようになり

家を建て農業を始めました


農民たちは農作物が牛に荒されないよう、農地のまわりに柵を作りますが

ここは自分たちの土地だと、牧童たちは柵を壊し農地に牛を入れます

牧童と農民のいざこざは絶えず、農場に入り込んだ1頭の牛を

農民のひとりが誤って死なせてしまう

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酒場の経営者で、土地の実権を握る

ロイ・ビーン(自称)判事(ウォルター・ブレナン46歳)は

日ごろから牧童たちの後盾として農民への迫害を許していました

牛を死なせた農民も(裁判はない)判事の一言で

その場で縛り首にされてしまいます


そこに流れ者のコール・ハードン(ゲイリー・クーパー39歳)という男が

馬泥棒の容疑で捕らえられてやって来ます

判事は彼にも即刻死刑を宣告するのですが

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酒場が「リリー・ラングトリー」という女優の

ポスターでいっぱいなのに気付いたコールは

「リリーを知っている」「リリーの髪の毛を貰った」と言うと

本物のリリーの髪をどうしても見たい判事は

判決を保留することにします


しかも日ごろの牧童の横暴と、悪徳判事の判決に憤激した農民たちが

判事を捕まえ私刑にしようとしたとき、コールは両者の間に立ち

(リリーの髪の毛を与えるという条件で)

牛の群れを農民の土地と離れた場所に移動させると約束させ

判事の危機を救います

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判事は自分の特権を乱用する、どうしようもない男なんだけど

どこか憎めず、お調子者のコールとは気があう

判事が首を寝違えたのを治す呼吸もぴったり(笑)


コールは農民の娘のジェーン=エレンを口説いて髪の毛を貰い

それを「リリーの髪の毛だ」と判事に渡します

そしてリリーが西部の町に興味を持っていて

公演にくるかも知れないと判事を悦ばせるのです

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おかげで牛の害はなくなり、その年のトウモロコシは豊作

しかし感謝祭の日、農民たちがダンスでお祝いをしていると

牧童たちが焼き打ちをかけにやってきます


農地にも家にも次々と火が投じられ

(炎をバックに馬が疾走するシーンが素晴らしい)

牧童たちを止めようとしたジェーン=エレンの父親は

馬に撥ねられ死んでしまいます

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しかも黒幕は判事でした

牛の群れを農地から離したことで

焼き討ちをして農民を追い出すことを思いついたのです


判事の思惑どおり、全てを失った農民たちは焼け跡を去っていきました

だけどジェーン=エレンはひとりになっても

土地を離れないと断言します

(ヒロイン役の女優はスカーレットの最終候補だったらしい)

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今度ばかりはやりすぎ、判事の悪行を許せない

コールは町の保安官を訪ね判事の逮捕状を取ると

自ら副保安官となり逮捕する決意をします


そんなとき、本当にリリーが町に公演に来ることになりました

判事はチケット全て買占めひとり劇場に入っていく

南北戦争時代の制服を身につけ、憧れのリリーとふたりきりになる

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しかし舞台に登場したのはリリーではなくコールでした

コールの弾丸に倒れる判事


瀕死の判事を抱き、コールはリリーの楽屋に行きます

判事がリリーの足元で息絶えたとき

彼は最高の幸せを味わった顔をしていました

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そしてその2年後、ジェーン=エレンと農場を立て直したコールは

新たな入植者たちを迎えるのでした


ロイ・ビーンは実在した治安判事で(実際には長生きしている)

殺人、泥棒、詐欺・・を繰り返し、判事になってからは

とんでもない法律を作ったり、異常な裁定で知られ

多くの映画でも取り上げられていますが

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初期のワイラーらしく人情味ある仕上がりで

ウォルター・ブレナンが演じたことで、とてもチャーミング

最後にはなんだか「いい人」で「いい話」だったような

錯覚に陥ります(笑)


今日の名言も深い

「どんな問題にも、常に二つの立場がある」



【解説】allcinema より

1880年代のテキサス、移民と在来地主との争いは絶えず、判事でなおかつ牧場主でもあったロイ・ビーン(W・ブレナン)は強引なやり口で新興農民を退けようとし、仕返しに危うくリンチされかかる所を、流れ者のコール(クーパー)の仲裁で助けられた。お蔭でその年は豊作となったが、感謝祭の日、判事は焼き打をかけ、怒ったコールは、副保安官となって判事と対決する。ビーンが単なる悪徳判事でないのは、ポール・ニューマン主演の同名映画でも明らかだが、ここでも、憧れの女優リリー・ラングトリーを町に呼び、席を買い占めて嬉々として開演を待つ姿は、どうにも憎めない。ワルだけど愛すべき男なのだ。そんなブレナンにさしものクーパーも完全に喰われ、オスカー助演賞も当然。全体に正攻法の西部劇だが最後の劇場シークエンスは、ワイラー本来の緊密な演出が冴え、実に面白い。