湿地(2006)

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原題も「Mýrin

アイスランド語ミリン=ボグー酸性の泥炭が蓄積する湿原のこと

長ったらしい副題の付いたタイトルにはうんざりする

こういうシンプルな邦題がいい

製作が2006年にもかかわらず、日本公開が2015年というのも

北欧ミステリーブームに乗っただけの気もしますが(笑)

原作が”このミス”ということだけあって、面白い


冒頭から陰々鬱々

彩度が低く殺風景なアイスランドの風景

幼い少女が脳腫瘍で死んでしまう

一方で70歳のトラック運転手の撲殺死体

なんの関係もないように見える、ふたつの死体がどう繋がるのか

そして中絶したいから金をくれとやってくる、担当刑事の娘


この超辛気くささが私好み(笑)

食べるモノまでグロいぜ、羊の頭の炭焼き?料理(笑)

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アイスランドレイキャビクにある遺伝子研究会社で

深夜まで研究するオルンという男

それは5歳になるひとり娘コーラの

極めて珍しい遺伝性の脳疾患を調べるためでした

自分にも妻の家族にも脳疾患の遺伝をもつ人間がいないのに

なぜコーラは難病になったのか


幼いコーラは死に、純白のドレスに身を包まれ

小さな棺桶は土の中に埋められてしまう

だけどその後もオルンは、コーラの病気を調べ続けます

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数か月後、初老の男が死んでいるのを近所の少年が見つけます

ベテラン刑事のエーレンデュルと相棒のシグルデュル

中年の女性捜査エレンボルクが事件を担当することになりました


男は1937年生で名前はホルベルク

死因は灰皿で殴られた頭蓋骨骨折

幼い時6歳の妹を亡くし身寄りはなく、独身

ここ数年はトラックの運転手として働いていました

部屋に残されたパソコンの画像や、トラックの中に積まれたエロ本の内容から

この爺、かなりマニアックな変態(笑)

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エーレンデュル刑事は、殺人現場の机の引き出しの裏に隠された

「ウイドル」という名前の墓標の写真を見つけます

「ウイドル」は悪性の脳疾患で4歳で死んだ女の子

娘の死後母親は自殺しており、父親は不明


アイスランドで父親の記録がないということは

レイプか、近親相姦か、男性が外国籍ということ

エーレンデュル刑事は、唯一肉親として記録に残っていた

叔母にあたるエーリンに会いに行きます

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しかしホルベルクの捜査で来たことを知ったエーリンは

露骨に嫌悪を現わし「妹をあんな目に遭わせた警察を許さない」

「ルーナルに聞けばいい」 と言います


ルーナルとはすでに退職した元刑事で

現役時代だった頃、ホルベルクとグレータル、エットリデという

悪党3人組と組んで悪さをしていたようです

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「ウイドル」の母親は3人組にレイプされ裁判で訴えますが

ルーナルに「米国基地で売春をしていた」と偽証され敗訴

妊娠し「ウイドル」を産みますが、幼くして娘は死んでしまいます


ホルベルクは殺され、グレータルは1970年代から行方不明

エーレンデュル刑事は、服役中のエットリデに会いに行き

レイプしたのは「ウイドル」の母親以外にもうひとりいたと聞き出します

シグルデュル刑事とエレンボルク捜査官は

30年以上前のレイプ事件について聞き込み捜査をはじめ

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エーレンデュル刑事は(目の不自由な)グレータルの母親を訪ねました

グレータルはカメラ好きで、よく撮影していたこと

グレータルが失踪した時の担当刑事はルーナルだったと教えられます


やがて検死結果からホルベルクにも脳腫瘍があったことがわかり

「ウイドル」がホルベルクの娘かどうか

遺骨を検死するため墓を掘り起こしますが、頭蓋骨の中はからっぽ

何者かによって「ウイドル」の”脳”は持ち去られていたのです

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脳”を保存するのにどうするか

すぐにエーレンデュル刑事は遺伝子研究会社のオレンにたどり着きます

そこでオルンは「ウイドル」は「神経線維腫症」という

特殊な脳腫瘍で亡くなっていたこと

殆どは幼少期に発症するが女性だけが重症化し幼くしてんでしまう

男性は無症状なうえ保因者」なり、女性を妊娠させた場合

ほぼ確実に胎児に遺伝するのだと説明します


「ウイドル」とコーラは同じ病気

30年前3人組がレイプしたもうひとりの女性は

オルンの母親だったのです

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しかしホルベルクの家の床下から出てきた

グレータルの遺体と、彼のカメラに残されていたフィルムから

オルンの母親はレイプされたのではなく、夫が船乗りで寂しく

実はホルベルクと不倫していたのです


自分は変態悪党の息子、つまり「神経線維腫症」の「保因者」

この先も女の子が産まれれば死に、男の子が産まれれば「保因者」

オルンは種を断絶するため、ホルベルクを撲殺

そして「ウイドル」の墓で銃身自殺をするのでした

死人たちを悼む警官合唱隊の歌声

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なんの変哲ない殺人事件が、過去の忌まわしい事件とつながっていく

よくできたミステリー

レイプ犯が神経性の難病の「保因者」というのも新鮮

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ところで、エーレンデュル刑事の不良娘はどうなった(笑)

 

 

 

【解説】KINENOTEより

アイスランドの首都レイキャヴィクを舞台にしたアーナルデュル・インドリダソンの犯罪捜査小説シリーズの1作を映画化。監督は「2ガンズ」のバルタザール・コルマウクル2006アイスランドアカデミー(エッダ)賞最優秀作品賞等を受賞。トーキョーノーザンライツ2015にて201527日、9日、13日に上映された。

アイスランドレイキャビク。北の湿地にあるアパートで他殺体が発見される。捜査官のエーレンデュルは、机に隠された一枚の写真に目を留める。捜査を進めるうちに、長く埋もれていたある真実に突き当たる……。