ハウス・ジャック・ビルト(2018)



ヒトラーのことが理解できるし、少し共感もしている
ユダヤ人には同情しているが、イスラエルはいらつく存在なので
同情しすぎてはいない」



2011カンヌ映画祭メランコリア」を出品したときの
この発言で映画界を干されそうになったラース・フォン・トリアー

にもかかわらず、再び”アンチ・クライスト”(反キリスト)に挑み
カンヌ映画祭でプレミア上映されたものの
その残虐さに100人以上が途中退席したそうです



原題の「TheHouse That Jack Built」(ジャックが建てた家)は

マザーグースからの引用で、主人公ジャックのモデルは
19世紀のイギリスで世間を騒がせた「切り裂きジャック」と
1970年代のハンサムで知能指数抜群のテッド・バンディ

作中でも、ジャックが警察のふりをしたり
松葉杖をついて足が不自由なふりをして女性に近づきますが
これはバンディが誘拐や殺害に使っていたのと同じ手口なのです

彼にとって、魅力的な容姿を利用して
被害者となった女性たち近づき強姦、殺害するのは簡単なこと



しかも、かっての青春アイドルであり
メリーに首ったけ」(1998)の犬に人工呼吸男
「クラッシュ」(2004)のイヤラシイ巡査の
マット・ディロンの演技が実に見事で

こういう作品でなければ(笑)明らかに何らかの賞をとれたでしょう
もっと評価されていいひとりだと思います



内容は、イングマール・ベイルマンも探求した”神の不在”
に共通したものもありますが

こちらは言わずと知れた、陰々鬱々で女性嫌いな超ドS
「ジャックは僕の一部だ」と答えているくらいな

途中退席した方の気持ちもよくわかります
私の場合はですが見終えたあと
「トラジ」に焼肉ランチにいきましたけど(笑)



人間、実際「死ねばいいのに」と思うムカつく奴たくさんいます
でも大抵の場合、思うだけで殺したりはしません
でもジャックは違う


最初は車がパンクしたけど、ジャッキが壊れた女、ユア・サーマン

これが「男はアッシー(死語)」、私の言いなりよみたいな
バブルを引きずっているような中年女
ジャックはジャッキで撲殺します



次はたまたま見かけたオバサン、シオバン・ファロンの家に行き
警察官だとか、実は保険の調査員だと言って家に入り込み
締首殺しようとしますが、まだまだシリアルキラー初心者
手間取ってしまいます

しかも強迫性障害潔癖症が加わって
もしかしたら血痕を残したのではないかと
不安に駆られて何度も現場に戻ってしまう



私もあります
出かけた後になってから、コンロの火は消した?
玄関の鍵はかけた?と
どうしようもなく不安になって家にもどってしまうこと(笑)

にもかかわらず、2番目の殺人も奇跡的にうまくいき
(車で引きずった死体がリアルすぎ)
ジャックは人を殺す旨味を覚えていくのです

衝動的に、道を歩いているばあさんを車で轢き殺し
コールガール(恋人?)を殺害してからは、殺人だけでは飽き足らず
巨大冷凍庫を利用して、冷凍した死体をアートしていくようになります



次にジャックは新たな恋人と、そのふたりの男の子を
ピクニック兼、森の射撃場に連れて来ます

幼年男子嗜好は理解しがたいものがありますが
この殺された男の子の剥製化が、いちばん悪趣味
これがまた目をそむけたくなるよう、よくできている

そして、トリアーといえば音楽の使い方のセンスの良さ
いわゆる”映画音楽”というものはないけれど
デヴィッド・ボウイの「Fame」(名声)
そして(バッハの演奏者として有名な)グレン・グールドの映像



次はジャックにとって唯一名前のある女、”シンプル”
勝利品を財布に加工して持ち歩きます
(モデルは、女性死体の皮で生活小物などを作ったエド・ゲイン)

今度は何人もの男たちを誘拐し「フルメタルジャケット」弾で
何人の頭を撃ち抜けるか試そうとします

そんなジャックと共に存在し、話し相手になっているのが
地獄への案内人、ヴァージ(ブルーノ・ガンツ



ヴァージとは神曲」でダンテを
地獄案内の旅へと連れて行く人物なのだそうです


だけど結果、「家を建てれなかった男」の話
男の妄想、男の願望、やり遂げれない現実

というか、こんだけレビュー書いておいて
それで終わり?(笑)



【解説とあらすじ】KINENOTEより
71カンヌ国際映画祭に出品され、過激な描写で物議を醸したラース・フォン・トリアーの問題作。1970年代のワシントン州。建築家を志す独身の技師ジャックは、ある出来事をきっかけに、アートを創作するかのように、殺人に没頭するようになる……。出演

は「マイ・ライフ・メモリー」のマット・ディロン、「エレニの帰郷」のブルーノ・ガンツ、「ニンフォマニアックVol.1」のユマ・サーマン
1970年代、ワシントン州。建築家になる夢を持つハンサムな独身の技師ジャック(マット・ディロン)は、あることをきっかけに、アートを創作するかのように殺人に没頭し始める……。5つのエピソードを通じて明かされる“ジャックの家”を建てるまでのシリアル・キラー12年間の軌跡。