パラダイン夫人の恋(1947)

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原題は「THE PARADINE CASE」(パラディン裁判)
ロバート・ヒッチェンズの原作をアルマ・レヴィル(ヒッチコック夫人)が翻案し
制作のデイヴィッド・O・セルズニック脚本の台詞劇
カメオは38分弱、駅から出てくるペックの後ろでチェロを持つヒッチさん

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ひとことでいうと「ヒッチコックっぽくない」(笑)
殺意のスパイスもなければ、どんでん返しもない
全てが台詞で説明された、男女の愛憎、法廷人間ドラマ

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ヒッチさんとしては実験的意味合いとして撮影したのかもしれないけど
どんな才能ある監督にも向き、不向きというものがあるもの
これは間違いなく、ウィリアム・ワイラー
ビリー・ワイルダーがやらんとダメな系でしょう(笑)

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展開は以下の通り
ひとこと感想は「こんな弁護士はいやだ」(笑)

盲目のパラダイン大佐が毒殺~若く美しい妻が逮捕
弁護士にやり手のアンソニー・キーン(グレゴリー・ペック)が雇われる
キーン、パラダイン夫人(アリダ・ヴァリ)に一目惚れ
判事がキーンの妻、ゲイを誘うが断られる~キーンのやり方が気に喰わない

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死の真相を知る大佐の世話人アンドレが法廷へ
キーン、アンドレが殺した線で無罪判決を勝ち取ろうとする
キーン、 弁護方針をパラダイン夫人に反対され嫌われる
パラダイン夫人への質問~アンドレの自殺の知らせ
パラダイン夫人、アンドレと暮らしたいために夫を殺害したと告白
アンドレを死に追い込んだキーンを法廷で侮辱

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法廷という弁護士にとっての聖域で、最愛の女に振られるという失態を犯し
キーンは妻の元に帰れず、(夫人の顧問弁護士)フラカーの家に泊まろうとする
キーンを迎えに来たゲイは、夫の過ちを許し「弁護士を続けて」と励ますのでした

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この映画の失敗は、愛人のアンドレさえ”邪悪な女”と呼ぶ悪魔の化身
パラダイン夫人の人物造形が描き切れていないこと

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主人に忠実な使用人アンドレにも、法に仕え愛妻家のキーンにも
どんな人間も心の中に悪の部分(ここでは不倫)を持っていて
悪魔の囁きに惑わされ、自我を失い奈落の底に落ちていく

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すべての男を骨抜きにするような魔性の女を演じるのには
アリダ・ヴァリには気品と知性がありすぎる(笑)
ここはもっと現実と狂気ギリギリ演じれる女優連れてこないとダメよ
ベティ・デイヴィスとか、悪役やらせたら本気で殺したくなる女(笑)

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それを救うのが妻のゲイで、こんな出来た女房
現実にいるわけないと思うわけだけど
パラダイン夫人に対して、ゲイの役割は天使なのね

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プロットは悪くないし、演出の巧みさやモノクロ映像の美しさなど
光るものはあるけれど名作になり損ねた残念な作品(笑)

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レイモンド・チャンドラーが脚本を手掛けた「見知らぬ乗客」まであと4年
巨匠にも失敗があったと思えば、勇気が湧くというものです(笑)

 


【解説】KINENOTEより
デイヴィッド・O・セルズニック(「風と共に去りぬ」)が製作し、アルフレッド・ヒッチコックが「汚名」に次いで監督したスリラー1947年。ロバート・シチェンズの原作小説をアルマ・レヴィルとジェームズ・ブリディが潤色し製作者セルズニック自身が脚色した。撮影は「探偵物語」のリー・ガームス、音楽は「陽のあたる場所」のフランツ・ワックスマンの担当。主演は「キリマンジャロの雪」のグレゴリー・ペック、「超音ジェット機」のアン・トッド、それに「第三の男」のアリダ・ヴァリ(本作品が米映画初出演)で、「青いヴェール」のチャールズ・ロートン、「追はぎ」のチャールズ・コバーン、「女海賊アン」のルイ・ジュールダン、エセル・バリモア、ジョーン・テッツェル、レオ・G・キャロルらが助演する。

汚名(1946)

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原題は「NOTORIOUS」(悪名高い)

設定と展開はまんま「M:I-2」(2000)(笑)
ヒッチさんは今でも映画界に影響を与えているんですね
カメオはパーティでシャンパンを飲み干すヒッチさん

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この映画はイングリッド・バーグマンが好きかどうかで評価が割れると思います
残念ながら私はバーグマンが嫌い
バーグマンの美貌は認めるものの(特に下唇の形がGOOD)
男優に負けない大柄でゴツい体系と、ものすごいだみ声で
弱々しいヒロインを演じるのは違和感を感じるし
彼女独特のわざとらしいオーバーアクトにも
「男は騙せても、女は騙せないわよ」という気分になる(笑)

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本作では、ナチスのスパイとして父親の有罪判決を受けても
娘のアリシア(バーグマン)気を晴らすためホームパーティを行い
酒に酔い初対面の男(ケーリー・グラント)と猛スピードでドライブ
男はFBIのエージェントでデブリンと名乗り
南米でナチスの活動を探るスパイをしてくれないかとアリシアに頼みます

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序盤は、ほかの作品にないハスッパさで(笑)
ゴツいだけでなく、タフなバーグマンの新境地発見かと期待しましたが  
(グラントが寒いからとスカーフを巻くのはなぜかバーグマンの腹 笑)
結局バーグマンお得意の、ウジウジ、涙目キラキラ
「私のこと愛しているの?いないの?」パターンに着地

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アメリカ育ちで、アメリカかぶれのナチの残党の娘が
スパイとしてナチの要員の妻になり活動を探る・・の見せ場が
ケーリー・グランドとキス、キス、キス、キスの連続
(上司たちといい、こんなスカスカな諜報活動でいいのか 笑)

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とはいえ当時の検閲では3秒以上のキスシーンが禁止だたっため
ヒッチコックはそれを逆手にとり
3秒以内のキスを何度も繰り返すという手法が話題になったそうで
今でも「キスシーンの美しい映画」として評価が高いそうです

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だからといって、いくらマザコンでもこんな優柔不断女に騙された
組織のドン、セバスチャン(クロード・レインズ)が私的には気の毒よ
アリシアがスパイだと打ち明けられた母親が、ベッドを起き上がって
タバコに火をつけるシーンはクールだったけど

もしこれが、純真純情ブリブリのバーグマンじゃなく
「愛の女神」リタ・ヘイワース女スパイ様のハニートラップだったら
騙されてもしょうがないし、裏切られても本望だけどな
(でも、リタはヒッチさんの好みじゃないわね)

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セバスチャンの酒蔵に隠されたワインの瓶から発見されたウラニウム
素手で触っちゃダメだよな 汗)
そこからナチス原子爆弾を開発しようと思われるわけですが
そんなウラニウムの話はどこかに行ってしまい(笑)

毒を盛られ倒れたアリシアデブリンに助けられ
セバスチャンは仲間に殺される運命が待っていました

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いやいや、そういうことの前に
「愛してる」「もう一度言って」とか顔近づけて囁きあって
アリシアを抱きかかえ正面玄関から出ていくデブリンを
何もしないで眺めているだけなのおかしいだろ(笑)

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さすがヒッチさん、たとえシリアスなメロドラマでも
ツッコミどころは欠かしません

私はバーグマンが嫌いですが(しつこい)

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彼女が巨匠と呼ばれる男たちにモテることは認めます
しかも「白い恐怖」(1945)と並ぶ、イングリッド・バーグマン(30歳頃)の
美貌と演技力が最も発揮されたる”絶頂期”の作品
溜息ものの美しさを堪能できることは間違いないでしょう

 


【解説】KINENOTEより
「断崖」「疑惑の影」のアルフレッド・ヒッチコックが「ガス燈」「ジキル博士とハイド氏(1941)」のイングリッド・バーグマンと「独身者と女学生」のケーリー・グラントを主役として監督した1946年作品。脚本は「運命の饗宴」やヒッチコック作品「呪縛」のベン・ヘクトが書き下ろしたもので、撮影は現在監督に転じて名を挙げている「春を手さぐる」等のテッド・テズラフで、音楽は「ママの思い出」のロイ・ウェッブが作曲した。助演はクロード・レインズ、「ゾラの生涯」のルイス・カルハーン、映画初出演の舞台女優レオポルディーン・コンスタンチン、「少年牧場」のモローニ・オルセン、かつてドイツ映画の監督だったラインホルト・シュンツェルその他である。

逃走迷路(1942)

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原題は「SABOTEUR」(破壊工作員
プロットは「北北西に進路を取れ」(1959)と同じですが
「北北西」が”ラシュモア山”ならこちらは”自由の女神
昔の映画は世界の有名観光所案内の役割も果たしていました(笑)

軍需工場が火事になり、謎の男に渡された消火器の中身がガソリンだったため
消火活動にあたった同僚が焼死してしまいます
その日から主人公バリーは破壊活動を行ったテロリストとして
警察に追われる身になるのです

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これもヒッチさんお得意の巻き込まれ型サスペンスなのですが
そこにソ連社会主義共産主義)打倒の思想が絡み
テロリストは「白鳥の湖」を口ずさむというわかりやすさ(笑)

主人公を助けるのが盲目の老人や、サーカス団のフリークスなのは
ナチス政権の「強制断種政策」や「障害者安楽死政策」の批判で
そこだけ異質でドラマチックなのは、別の脚本家のアイディアだったそうです
ドロシー・パーカー=父親はドイツ系ユダヤ人)

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展開は
カリフォルニア州グレンデールの軍需工場で働くバリー
工場で出会う見知らぬ謎の男フライ~親友の死
親友の母親、ご近所の奥さん~逃亡

人の好いトラックの運転手〜黒幕は大牧場主
ソーダシティに向かう」の電報~逃走

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盲目の紳士と姪のメイ(おやぢギャグじゃないよ)
メイは「市民の義務」と警察にバリーを引き渡そうとしますが
(車のファンで手錠が切れるか! 笑)
捜査網を潜り抜け、寒い中抱き合ううち惚れてしまう

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サーカス団~廃墟の街ソーダシティ~ダムで破壊工作を知る
バリーはメンバーになりすましニューヨークの豪邸のパーティ
(パットはいつソーダシティから抜け出した)

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オークション好きのマダム
地下に監禁されスプリンクラー作動
(バリーはどうやって地下から脱出した)
(閉じ込められているパットはルームサービス利用 笑)

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ブルックリンの進水式で戦艦爆破の工作
造船所でフライともみ合い~ロックフェラー・センター自由の女神像
パットが追いかけ、バリーとFBIが後から追う
(いつの間にバリーとFBIは仲間になった 笑)

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足を滑らせたフライを助けようとするバリー
バリーの潔白を告白~袖が破れて落下
ジ・エンド

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カメオは1時間43分頃、雑貨屋の前で通行人と話しているヒッチさん
看板や本のタイトルでメッセージを伝える手法は素敵

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共産主義ナチス批判という政治的背景がありながらも
戦争中にこれだけの娯楽作品を撮れたのはさすがアメリ
戦時下の日本の国策映画は見たことがありませが
このように楽しませてくれる作品はそうないでしょう

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その理由はこの当時のアメリカ映画が「大衆賛歌」を描いているから
無実の男が立ち向かうのは社会的地位があり、代々金持ちのような人々
助けるのは労働者や障害者(赤ちゃんも 笑)という社会的弱者
ロック・フェラーに自由の女神は「自由と民主主義の国アメリカ」の象徴

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とはいえ、実際そんな難しいことは一切考えず楽しめるのがヒッチさん
ご都合主義な「ツッコミ」どころ発見もクセになります(笑)

 


【解説】allcinemaより
ヒッチコックがセルズニックからユニヴァーサルに貸し出されて撮った戦中の作品で、主演者への不満はあるが、クライマックスの自由の女神のシーンの素晴らしさが多少の不備は忘れさせる。監督でもあるN・ロイド(本篇の製作者でもあるF・ロイドの息子)の悪役が、必死の形相でしがみつく女神の指股からジリジリと滑っていく、あのスリル! ヒッチ集大成「北北西に進路を取れ」に較ぶれば、無実の罪を被った男が真犯人を突き止める、十八番のストーリーもいささか未整理で、そのラストを効果的ならしめるために奉仕するにすぎない。航空会社に勤務するバリー(カミングス)は、軍需工場への破壊工作(光と影の生きた見事な放火シーン)の濡れ衣を着せられ、手錠のまま逃亡の身となるが……。真犯人を自ら捜し出そうとするヒーロー、それを助けるヒロイン。二人の危機的状況がほぼパラレルに描き出されるのがヒッチらしくない(それが絶妙に一本に縒り合わされてこそ彼のタッチだ)という気もする。

レベッカ(1940)

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「私はオスカーをもらったことなんかないよ
あれはセルズニックにあたえられた賞だ
その年の監督賞は「怒りの葡萄」のジョン・フォードがもらった」
ヒッチコック映画術トリュフォーより)

原題も「Rebecca

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ヒッチさんの渡米第一作にして、アカデミー作品賞&撮影賞受賞
独特のユーモアや遊び心は影を潜め、ひたすらゴシック調の画面作りに邁進
いかに当時のハリウッドでデヴィッド・O・セルズニックの影響力が
大きかったかがわかります

それはともかく(笑)
人間は無意識に自分の「記憶の書き換え」をすることがあるそうですが
見ている方も多いとおもうこの名作、私はすっかり記憶違いをしていました

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イングランド、コーンウォルにあるマンダレイの領主
マキシム・デ・ウインター(ロウレンス・オリヴィエ)は
モンテカルロで知り合ったホッパー夫人の付き人である
”わたし”(ジョーン・フォンテーン)と電撃結婚して帰邸します
マンダレイのNo.1家政婦のデンヴァー夫人(ジュディス・アンダーソン)は
前妻レベッカへの忠誠心と熱愛から、屋敷を生前のままに保存していました
どこを見ても「R」のイニシャル、今でも家を支配しているのはレベッカ

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”わたし”は自信をなくし、マキシムからの愛も信じられない
デンヴァー夫人に操られ、仮装舞踏会ではレベッカと同じドレスを着てしまい
マキシムから(ドレスを)嫌悪されてしまう
ショックを受けた“わたし”にデンヴァー夫人は窓から身を投げるよう誘導しますが
そのとき1年前事故死したレベッカのボートが見つかります

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ここから先、私の記憶違いが始まっていて(笑)
レベッカの乗るボートは水抜き栓を抜かれ沈没していたことが判明
“わたし”はレベッカの死にマキシムとデンヴァー夫人が関わっていると疑いますが
レベッカが事故にあったと思われる時間、マキシムにはアリバイがありました
やがてレベッカの亡霊に苦しむ”わたし”も命を狙われるようになり
マキシムから殺されようとする直前(ヒロインだから殺されない)
レベッカの乗ったボートの水抜き栓は砂糖菓子でできていて
岸から離れるまで時間をかけて溶けていき沈没したという事実を知らされる
・・・という展開

これ途中から何の映画になったのでしょう(笑)
それとも私の100%妄想なのでしょうか

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実際のストーリーは、レベッカは男遊びが過ぎて妊娠したとマキシムに報告
その時誤って転んでしまい事故死、マキシムはレベッカをボートに乗せ
船底に穴を開けて自分だけ脱出します
レベッカの従兄で愛人のジャックはマキシムが犯人だと察し、彼をゆすりますが
ロンドンにいるレベッカの主治医により彼女が末期がんであったことが判明
警察はレベッカは自殺したと結論を出します
デンヴァー夫人はマンダレイに火を放ち、城は全焼してしまいました

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これはもう「映画の中の怖い女」にダンヴァース夫人がランクイン(笑)
気付くと必ず”わたし”の後ろにいるストーカーみたいな人
いつも突然で、歩いている気配すら感じられない

ちなみに私の「映画の中の怖い女」は
カッコーの巣の上で」(1975)の看護師
ミザリー」(1990)のこれまた看護師
「嘆きのテレーズ」(1954)の姑ババア
「鬼畜」(1978)の岩下志麻
比較的最近では「ブルックリン」(2015)の雑貨屋のクソババア

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ヒロイン”わたし”(ジョーン・フォンテイン)のオドオドした態度は
ヴィヴィアン・リーと共演を望んでいたオリヴィエから冷たい態度をされ
オリヴィエを怖がっていることを知ったヒッチコック
スタジオにいる全員に彼女につらく当たるよう支持したそうで(笑)
フォンテインは本気でスタッフに打ち解けることができず
結果、初主演にして見事なネガティブでネンネな演技に繋がったそうです

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一度も姿を見せないのに一番存在感あるレベッカ
「サイコ」(1960)ほどインパクトはないものの
サイコスリラーの名作のひとつでしょう

そしてもし「ボートの水抜き栓が砂糖菓子」というサスペンス映画が
存在していたら教えてください(笑)

 

 

【解説】KINENOTEより
「情炎の海」のダフネ・デュ・モーリアの同名の原作から、「我等の生涯の最良の年」のロバート・E・シャーウッドがジョーン・シンプソンと協同脚色、英国より渡米したアルフレッド・ヒッチコック(「汚名」)が第1回監督した1940年度アカデミイ賞受賞作品。製作は「風と共に去りぬ」につづくデイヴィド・O・セルズニック。撮影は「海賊バラクーダ」のジョージ・バーンズ、音楽は「大編隊」のフランツ・ワックスマンが担当する。「嵐ケ丘」のローレンス・オリヴィエ、「純愛の誓い」のジョーン・フォンテーン、「天国の怒り」のジョージ・サンダース以下、ジュディス・アンダーソン、ナイジェル・ブルースらが助演。

海外特派員(1940)

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原題も「FOREIGN CORRESPONDENT」(外国人記者)

ヒッチコックのハリウッド進出第二作目で、第二次世界大戦の直前に撮影された
(ドイツ系ユダヤ人)ウォルター・ウェンジャー製作の反ナチのプロパガンダ映画
とはいえ(ご都合主義な)シナリオは面白いし、カメラワークは秀逸
「ドイツ」や「ナチス」というワードを用いることなく
敵国として必要以上に侮蔑したり、揶揄する描写はありません
あくまで娯楽サスペンス第一主義を貫いた潔さ

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見送りに来た親戚の子に帽子を隠されてしまう
キルトについて熱く語るスコットランド男にラトビア語男を押し付ける
平和党の広報担当女性が毅然と演説する姿に惚れてしまい
手元でラヴレターを書くというトッポさ
序盤からヒッチさんの洒落たギャグが冴え渡ります

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中盤からラストにかけてはヒッチさんお得意の巻き込まれ型サスペンス
オランダでの黒い傘が連なる中での暗殺劇(めっちゃかっこいいシーン)
逆に回る風車中で目撃する敵国スパイの会合
ロンドンの寺院の展望台から突き落そうとして逆に転落
飛行機が砲撃され海に墜落し、水が操縦席のフロントガラスを突き破り
勢いよく流れ込んでくるワンカット撮影
空襲が続くロンドンで停電の中、米国向けのラジオに語り掛ける主人公
今でこそ特撮やCGで当たり前のシーンですが
当時の観客はこの迫力にさぞかし驚いたのではないでしょうか

カメオはホテルを出た主人公の前を、新聞を読みながら通るヒッチさん(笑)

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1938年、ニューヨーク・モーニング・グローブ紙の社長は
ヨーロッパ情勢を取材する特派員に不祥事でクビになりかけている記者
ジョン・ジョーンズ(ジョエル・マクリー)を指名します
社長室に呼ばれたジョーンズは平和運動の大物フィッシャーを紹介されます
ロンドンへ向かったジョーンズは、戦争防止の立役者でオランダの元老政治家
ヴァン・メアの歓迎パーティに出席します
そこでフィッシャーの娘のキャロル(ラレイン・デイ)に一目惚れ

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その後、アムステルダムの平和会議の取材に出かけたジョーンズの目の前で
ヴァン・メアがカメラマンを装った男に拳銃で撃たれ死亡します
雨の中、傘の間をぬって犯人は逃げ、待たせてあった車に乗り込み逃走
ジョーンズが通りがかりの車に無理矢理乗り込むと
車にはとキャロルと新聞記者のフォリオットが乗っていました

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カーチェイスの末、車は風車の集まる田園地帯にやって来ました
ジョーンズが風車の1つが奇妙な動きなのに気づき小屋へ忍び込むと
不審な男たちと、死んだはずのヴァン・メアがいました

ジョーンズは小屋から逃げだし、警官を呼びに行きますが
戻った時にはすでに痕跡は消され、昼寝している農夫がひとりいただけでした
(手に泥を塗る演出がニクい)

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仕方なくホテルに戻ると、警察官を装った2人組の男が訪ねてきます
ジョーンズは浴室から窓づたいにキャロルの部屋に入り
彼女に協力してもらい、船でロンドンに戻ることができました
ところがキャロルを送ってフィッシャーの家へ行くと風車小屋の農夫がいたのです
フィッシャーは男は情報を集めてくれる味方なのだと釈明し
真相を知りすぎたジョーンズを危険から守るため、護衛の私立探偵をつけます
男は教会塔からジョーンズを突き落とすため雇われた殺し屋でした
しかし男は誤って自ら展望台から墜落してしまい
ジョーンズは、フィッシャーがヴァン・メア誘拐の黒幕だと気づきます

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ジョーンズはフォリオットと協力してヴァン・メアの救出に成功しますが
拷問によりヴァン・メアが開戦の暗号を告白した後でした

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開戦の号外がとびかい、アメリカへ帰国する飛行機にジョーンズが乗ると
フィッシャーとキャロル父娘も同じ飛行機に乗りあわせていました
アメリカに着いたら逮捕されると察したフィッシャーは
キャロルに自分はイギリス人ではなく、敵国のスパイだったことを打ち明けます
その時、軍艦の攻撃を受け飛行機は洋上に不時着
浮遊物につかまっていたフィッシャーは(重量オーバーのため)
キャロルたちを助けるため、海に飛び込み自ら死を選びました

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アメリカ軍に救助されたジョーンズとキャロルたちは
事件を伏せようとするアメリカ軍をゴマかし、本社へ連絡し特ダネを報道
ロンドンに戻ると空襲を受ける中、アメリカ向けのラジオ放送で雄弁に戦況を伝え
「明かりが点っているのはアメリカだけです」
「最後の希望の灯を消してはいけません」と呼びかけるのでした

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この戦時高揚のメッセージで終わる(蛇足な)ラストシーンは
完成後に追加されたカットということですが

80年前にこれ程の作品を作ったヒッチコックはやっぱり天才
今見ても鳥肌物の傑作に間違いありません

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【解説】KINENOTEより
第二次世界大戦直前のヨーロッパを舞台に、アメリカの新聞社から派遣されてきた特派員が巻き込まれる殺人事件と不穏な社会情勢を描いたサスペンス映画で、かつてTVで放映されたが劇場では初公開である。製作はウォルター・ウェンジャー、監督はアルフレッド・ヒッチコック、脚本はチャールズ・ベネットとジョーン・ハリソン、撮影はルドルフ・マテ、音楽はアルフレッド・ニューマンがそれぞれ担当。出演はジョエル・マクリー、ラレイン・デイハーバート・マーシャル、ジョージ・サンダース、アルバート・パッサーマン、ロバート・ベンチリーなど

バルカン超特急(1938)

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原題は「The Lady Vanishes」(消えた婦人)
ヒッチコックのイギリス時代の最高傑作サスペンス
カメオ→エンディング近くのヴィクトリア駅でタバコをふかして通り過ぎる
(ヒッチさん、若い 笑)

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1938年(昭和13年)当時は日独伊防共協定が結ばれていて
8月にはヒトラーユーゲントヒトラー青少年団)が訪日し
同時期に日本からは各地の学生、若手の公務員や団体職員で構成された
「大日本連合青年団」(現日本青年団協議会)がドイツに派遣
ナチス党大会の参観やヒトラーと会見してドイツの見聞を広めていたそうです
当然日本では未公開作品

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だからって、日本初公開が1976年は遅すぎますね
サスペンスとユーモアとロマンス、皮肉の融合といった
ヒッチさんの抜群のセンスの映像を見ないまま亡くなった
戦中戦後の映画ファンがいたと思うだけで残念です

ヒッチさんの感性には、国や人種を超えた共通点を感じます
アメリカの金持ちは成金(笑)
イギリス人の精神は「触らぬ神に祟りなし」「お茶の時間は守る」日本人もそうです
本作ではイギリス紳士が戦争より「クリケット愛」で盛り上がりますが
1938年の日本でも、プロ野球では阪神タイガースが優勝
大相撲では双葉山が活躍し、スポーツ界は大いに盛り上がったそうです

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ストーリーは、雪崩のためロンドン行きの大陸横断列車が不通になり
急遽乗客を受け入れることになっバンドリカ(架空の国)のホテルで
登場人物の人柄がわかるエピソードの紹介から始まります

独身最後の旅を女友達と楽しむイギリスの令嬢アイリス
民族音楽を研究しているバイリンガルクラリネット奏者ギルバート
音楽の家庭教師をしていたという老婦人がホテルの窓辺に佇み
外から流れるギター弾きの歌を聞いている
そこに黒い両手の影が現れ、ギター弾きが殺されてしまいます

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翌朝列車は開通し、アイリスが荷物を探している老婦人を手伝おうとすると
突然頭上に植木鉢が落とされ、意識がもうろうとしてしまいます
意識を取り戻すと、向かいの席には老婦人がいて食堂車でお茶しようと誘われます
老婦人は給仕に「特別なお茶」を淹れてほしいと茶葉の袋を渡し
寒さで曇った窓ガラスに「フロイ」”FROY”と名前を書きました
お茶を楽しんだ後、再び意識を失ってしまうアイリス

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次に目を覚ますとフロイが消えていました
親切にしてくれたフロイがどこに行ったか探すアイリスですが
同席の乗客も、食堂車の給仕も、不倫旅行のカップルも
食堂で向かい側の席にいたイギリス人紳士ふたりも
老婦人を知らないし、見ていないという

3等車でギルバートと再会し事情を話すと
ハーツと名乗る医師が現れ、頭を打った後遺症で妄想を見たと説明されます

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やがて列車が止まり、尼僧と一緒にハーツ医師が担当するという
体中を包帯で巻かれた患者が運び込まれました
アイリスの向かいの席にはフロイと同じツィードのスーツを着た
名前も顔も違う老婦人が座っていました

私は本当に狂ったのだろうか
アイリスが再びギルバートと食堂車に行くと
窓には間違いなく”FROY”の文字が残されていました
フロイはまだ列車の中にいる!

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これ「フライトプラン」(2005)の元ネタだったのか
プロットがほぼ同じやん(笑)

アイリスは汽車を緊急停車させ
ギルバートは給仕が厨房から捨てたゴミなかから
アイリスが言っていたハーブティの包み紙が窓に張り付くのを見ます
(車窓からゴミ捨てちゃダメだろ)

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ふたりは貨物室を探しフロイの眼鏡を発見しますが
突如同席だったマジシャンのドッポが現れギルバートと乱闘になります
アイリスはポンコツで役に立たずなのですが(笑)
何とかドッポを気絶させ、箱の中に閉じ込めます
が、得意のマジックで逃げられてしまいます

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次にハーツ医師が運び込んだ患者の部屋を覗くと
付き添いの尼僧がハイヒールなのを見て怪しいと感じます

医師はふたりを食堂車に呼び薬を飲ませて眠らせようとします
個室に移ったギルバートとアイリスになぜか事件への関与を告白し(笑)
やがてふたりは薬が効いて眠ってしまいます、というのは嘘で
実はイギリス人の尼僧が祖国を裏切れないことを理由に薬を入れ替えていたのです
(だったら最初からスパイになるなよ)

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医師がいなくなると、フロイが監禁されている隣の部屋に移るため
ギルバートは窓から脱出すると、そこにやって来る対向車線の列車
「ミッション・インポッシブル」(1996)だな(笑)

尼僧の協力で患者の包帯をはがすと、フロイが現れました
そこに偶然にも都合よく部屋を訪れた偽フロイを捕らえ包帯をぐるぐる巻き
個室に戻りフロイをクローゼットに隠すと
ギルバートとアイリスは再び寝たフリをするのでした

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偽フロイは停車した駅で降ろされ、救急車に乗せられると
すぐに本物でないことがバレてしまいます
医師は個室のある1番車両と食堂車を切り離してから列車を走らせ
イギリスとの国境が遠ざかっていきます

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食堂車に残っていたのはクリケット狂の2人と、不倫カップル、黒幕の男爵夫人
やがて列車は軍人たちが待ち伏せをしている場所に停車
クリケット狂①が降りようとするといきなり銃で撃たれそうになり
クリケットの試合の結果より事の重大さに気づきます
クリケット狂②は狙撃のプロで、交渉にやってきた敵の将校を気絶させ
不倫弁護士から奪った銃で次々と敵を撃ち殺しますが形勢は不利のまま

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フロイはギルバートにスパイである事を告げ、もし自分が戻れなかったら
外務省に行き、この暗号を伝えてほしいとメロディーを口ずさみます
それはホテルでフロイがギター弾きから聞いていた曲でした
フロイは列車を飛び降り走り出しますが、狙撃されてしまいます

ギルバートは列車を逆進させるためクリケット狂①と運転席に向かい
不倫弁護士は白いハンカチを振り投降しますが射殺されてしまいました

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分岐点が近くになると、気絶した将校の意識が戻ってしまいます
アイリスが将校の気を引く間、尼僧は線路のポイントを切り替えることに成功
食堂車に残された男爵夫人とハーツ医師は走り去る列車を見つめるだけでした  

(将校はどうなった)

無事にイギリスに帰国すると、クリケット狂は洪水で試合が中止と知りがっかり
婚約者が駅で待つアイリスは
車の中に隠れギルバートと熱いキスを交わしていました
(婚約者の立場は?)

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外務省に着いたギルバートは
アイリスとのキスで暗号をすっかり忘れてしまいます
しかし部屋に案内されると、そこには暗号のメロディをピアノで弾いている
笑顔のフロイの姿がありました(どうやってナチから逃げた)

列車という限られた場所での人が消えるミステリー、スパイサスペンス
銃撃戦に敵中突破というクライマックスの中にもユーモアも忘れないという
盛りに盛った見どころ満載
そして最後はキスで終わるハッピーエンド

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007やん、これ007の原型やん(笑)

この作品で人気となったクリケット狂2人組は
その後も役名の「チャーターズとカルディコット」というコンビで
映画やテレビやラジオ番組で活躍したそうです
たぶんイギリス人には、たまらなく共感するものがあるのでしょう

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ツッコミどころは満載だけど、ヒッチさんの手にかかればそれさえも愛嬌
列車も超特急というより、せめて急行(笑)

しかも最後まで、命がけで守った暗号が一体なんだったのか
わかりませんでしたとさ(笑)

 


【解説】KINENOTEより
列車内で貴婦人が消えた。そして謎の事件に巻きこまれるヒロインを描いたサスペンス作品。製作はエドワード・ブラック、監督は「ファミリー・プロット」のアルフレッド・ヒッチコック、原作はエセル・リナ・ホワイト、脚色はシドニー・ギリアットとフランク・ローンダー、撮影はジャック・コックス、音楽はルイス・レヴィが各々担当。出演はマーガレット・ロックウッド、マイケル・レッドグレイブ、ポール・ルーカス、メイ・ウィッティ、ノーントン・ウェイン、ベイジル・ラドフォードなど。

チョコレートドーナツ(2012)

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「マルコが好きなのはハッピーエンドだった」

原題は「ANY DAY NOW」(いつの日か)で
ボブ・ディランの「I Shall Be Released」(1967)
(私は解放(釈放)されるべきだ)のサビの部分の歌詞になります

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この映画を見て、ふと思い出したのが
2016年7月に発生した「相模原障害者施設殺傷事件」
45人が刺され、うち19人が死亡したという事件で
殺人罪などで植松聖(さとし)被告(当時29歳)に死刑が確定されました
植松被告は、逮捕時に「障害者はこの世からいなくなれば良いと思った」と語り

「障害者は人間ではない」「生きる価値がない」という
植松被告の言葉を名言と呼び、「植松思想」(優勢思想)に
共感する人は多くいるということです

この映画は植松被告のように、障害者を殺傷するものではありません
しかし私たちは、無意識のうちにマイノリティを見捨てているのかも知れない
優勢思想にとっての正義とは何か、法律とは何なのか
世の中はなぜ変えられないのか、考えさせられます

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1979年、カリフォルニア
ゲイバーでダンサーをしているルディは、ポールという男性と知り合い
その日のうちにカーセックス
警察官に職務質問され彼が検察官であることを知ります

真夜中にアパートに帰ると、隣の部屋では女が薬に溺れ
ダウン症で金髪の女の子の人形を離さない)息子のマルコを置き去りにして
男と出かけたまま帰ってきませんでした
仕方がなくマルコを部屋に泊めるルディ

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翌朝ルディはポールに相談しようと電話をかけますが取り次いでもらえない
しかたがなくマルコを連れポールの事務所に直談判に行きます
ところがポールに他人のふりをされ、 家庭局に相談すればいい
お金が欲しいのかとまで言われ、呆れてしまうルディ

ここでルディの過去は一切描かれていません
なぜマルコを保護したのか、なぜ家庭局に入れたくないのか
家庭局を「あんなにヒドイところ」と嘆き
ダウン症の子どもが里親を見つけるのは難しいと訴える

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ルディのマルコに対する思いにポールは胸を打たれ
マルコの母親が入所している間、養育できる権利を取れるよう取り計らいます
環境のいい住まいの確保のため、ルディはポールのいとこと偽り
ポールの家に同居することにします
そしてルディとポールとマルコ、3人の共同生活が始まりました

マルコは偏食で食事に一切手を付けません
好きな食べ物を聞くと「ドーナツ」と答えます
ネグレストの母親からドーナツしか与えてもらえなかったのでしょう

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なんとかバランスの取れたヘルシーな食事を食べさせたいルディと
「たまにはいいじゃないか」とチョコレートドーナツを差し出すポール
その姿はまるで本当の我が子を育てる夫婦のよう
それはマルコにとって今までで一番美味しいドーナツだったのでしょう
満面の笑みがこぼれ、それを幸せそうに見つめるふたり
(高級店で売ってるような高価そうなドーナツだった 笑)

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ポールはマルコに勉強を教え、ルディは寝る前にお話を聞かせる
学校に通いはじめ、学習面でも情緒面でも成長していきます
ハロウィンにはフランケンシュタインとフランケンの花嫁の仮装
クリスマスや誕生日にはホームビデオの撮影
ルディはポールの薦めでレコード会社にデモテープを送り
ブロードウェイのバーから、歌手として雇いたいと連絡が来る
何もかも順調に行っていたのに

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検事局の上司のホームパーティーにルディと呼ばれたポールは
そこで同性愛者だとバレてしまい職場をクビになってしまいます
しかも同性愛家庭は教育に良くないとマルコが家庭局に保護されてしまう

ルディとポールは裁判を起こしマルコを取り戻そうとしますが
ルディがマルコをゲイバーの楽屋に連れていったことがあること
マルコの前で(ハロウィンの仮装なのに)女装したことを理由に
ルディとポールの元で暮らすのはふさわしくないという判決が下されます

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それでも諦めきれないふたりはロニーという黒人の凄腕弁護士を雇います
しかし(検事による裏取引により)母親が仮出所させられ
マルコを引き取ると証言したため
養育権は母親に戻ってしまい、どうにもなりません
接近禁止命令でマルコに近づくことさえ許されないのです

再び麻薬に溺れ、マルコを部屋から追い出し男を連れ込む母親
マルコはルディとポールの家を探し、夜の街を彷徨い歩きます

そしてポールによって、判決を下した裁判官や検事に
新聞の片隅に載せられた短い記事が届けられます
それはダウン症の少年が橋の下で死んでいたというものでした

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ルディは歌う、いつの日か自由になれる
そんな日がきっとやって来るという願いを込めて
♪~Any day now, any day now I shall be released


舞台は今から40年以上前の70年代
でもマイノリティへの差別は今でも減っているとは思いません
植松被告やトランプのように「排斥すべきものを排斥するのは当然の行為」
と考える人間がいる限り、このよう事件がなくなることはない

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それでもこの作品を美しいものにしているのは、なんといってもルディの強さ
差別されても、偏見の目で見られても、マルコを助けようという絶対的母性
アラン・カミングの繊細な演技が光ります

ハッピーエンドではないラストに心が痛みますが
大切なことがたくさん詰まった映画でした

 

 

【解説】allcinemaより
 1970年代のアメリカを舞台に、世間の無理解と葛藤する一組のゲイ・カップルが、親に見放されたダウン症の少年と一つの家庭を築き、家族としての愛情と絆を育んでいくさまと、やがて少年を守るため、理不尽な差別や偏見に対して決然と立ち上がる姿を描いた感動のヒューマン・ドラマ。主演は「アニバーサリーの夜に」、TV「グッド・ワイフ」のアラン・カミング、共演にギャレット・ディラハント、アイザック・レイヴァ。監督は俳優出身のトラヴィス・ファイン。監督作はこれが日本初紹介となる。
 1979年、アメリカ。ゲイのルディはシンガーを夢見ながらも、口パクで踊るショーダンサーとして働く日々。そんな彼にある日、ゲイであることを隠して生きる検事局の男性ポールが一目惚れ、2人はたちまち恋に落ちる。一方で、ルディはアパートの隣に暮らすダウン症の少年、マルコのことを気に掛ける。母親は薬物依存症で、マルコの世話もまともにしていなかった。そしてついに、母親は薬物所持で逮捕され、マルコは施設行きに。見かねたルディとポールはマルコを引き取り、面倒を見るのだったが…。