原題は「The Lady Vanishes」(消えた婦人)
ヒッチコックのイギリス時代の最高傑作サスペンス
カメオ→エンディング近くのヴィクトリア駅でタバコをふかして通り過ぎる
(ヒッチさん、若い 笑)
1938年(昭和13年)当時は日独伊防共協定が結ばれていて
8月にはヒトラーユーゲント(ヒトラー青少年団)が訪日し
同時期に日本からは各地の学生、若手の公務員や団体職員で構成された
「大日本連合青年団」(現日本青年団協議会)がドイツに派遣
ナチス党大会の参観やヒトラーと会見してドイツの見聞を広めていたそうです
当然日本では未公開作品
だからって、日本初公開が1976年は遅すぎますね
サスペンスとユーモアとロマンス、皮肉の融合といった
ヒッチさんの抜群のセンスの映像を見ないまま亡くなった
戦中戦後の映画ファンがいたと思うだけで残念です
ヒッチさんの感性には、国や人種を超えた共通点を感じます
アメリカの金持ちは成金(笑)
イギリス人の精神は「触らぬ神に祟りなし」「お茶の時間は守る」日本人もそうです
本作ではイギリス紳士が戦争より「クリケット愛」で盛り上がりますが
1938年の日本でも、プロ野球では阪神タイガースが優勝
大相撲では双葉山が活躍し、スポーツ界は大いに盛り上がったそうです
ストーリーは、雪崩のためロンドン行きの大陸横断列車が不通になり
急遽乗客を受け入れることになっバンドリカ(架空の国)のホテルで
登場人物の人柄がわかるエピソードの紹介から始まります
独身最後の旅を女友達と楽しむイギリスの令嬢アイリス
民族音楽を研究しているバイリンガルのクラリネット奏者ギルバート
音楽の家庭教師をしていたという老婦人がホテルの窓辺に佇み
外から流れるギター弾きの歌を聞いている
そこに黒い両手の影が現れ、ギター弾きが殺されてしまいます
翌朝列車は開通し、アイリスが荷物を探している老婦人を手伝おうとすると
突然頭上に植木鉢が落とされ、意識がもうろうとしてしまいます
意識を取り戻すと、向かいの席には老婦人がいて食堂車でお茶しようと誘われます
老婦人は給仕に「特別なお茶」を淹れてほしいと茶葉の袋を渡し
寒さで曇った窓ガラスに「フロイ」”FROY”と名前を書きました
お茶を楽しんだ後、再び意識を失ってしまうアイリス
次に目を覚ますとフロイが消えていました
親切にしてくれたフロイがどこに行ったか探すアイリスですが
同席の乗客も、食堂車の給仕も、不倫旅行のカップルも
食堂で向かい側の席にいたイギリス人紳士ふたりも
老婦人を知らないし、見ていないという
3等車でギルバートと再会し事情を話すと
ハーツと名乗る医師が現れ、頭を打った後遺症で妄想を見たと説明されます
やがて列車が止まり、尼僧と一緒にハーツ医師が担当するという
体中を包帯で巻かれた患者が運び込まれました
アイリスの向かいの席にはフロイと同じツィードのスーツを着た
名前も顔も違う老婦人が座っていました
私は本当に狂ったのだろうか
アイリスが再びギルバートと食堂車に行くと
窓には間違いなく”FROY”の文字が残されていました
フロイはまだ列車の中にいる!
これ「フライトプラン」(2005)の元ネタだったのか
プロットがほぼ同じやん(笑)
アイリスは汽車を緊急停車させ
ギルバートは給仕が厨房から捨てたゴミなかから
アイリスが言っていたハーブティの包み紙が窓に張り付くのを見ます
(車窓からゴミ捨てちゃダメだろ)
ふたりは貨物室を探しフロイの眼鏡を発見しますが
突如同席だったマジシャンのドッポが現れギルバートと乱闘になります
アイリスはポンコツで役に立たずなのですが(笑)
何とかドッポを気絶させ、箱の中に閉じ込めます
が、得意のマジックで逃げられてしまいます
次にハーツ医師が運び込んだ患者の部屋を覗くと
付き添いの尼僧がハイヒールなのを見て怪しいと感じます
医師はふたりを食堂車に呼び薬を飲ませて眠らせようとします
個室に移ったギルバートとアイリスになぜか事件への関与を告白し(笑)
やがてふたりは薬が効いて眠ってしまいます、というのは嘘で
実はイギリス人の尼僧が祖国を裏切れないことを理由に薬を入れ替えていたのです
(だったら最初からスパイになるなよ)
医師がいなくなると、フロイが監禁されている隣の部屋に移るため
ギルバートは窓から脱出すると、そこにやって来る対向車線の列車
「ミッション・インポッシブル」(1996)だな(笑)
尼僧の協力で患者の包帯をはがすと、フロイが現れました
そこに偶然にも都合よく部屋を訪れた偽フロイを捕らえ包帯をぐるぐる巻き
個室に戻りフロイをクローゼットに隠すと
ギルバートとアイリスは再び寝たフリをするのでした
偽フロイは停車した駅で降ろされ、救急車に乗せられると
すぐに本物でないことがバレてしまいます
医師は個室のある1番車両と食堂車を切り離してから列車を走らせ
イギリスとの国境が遠ざかっていきます
食堂車に残っていたのはクリケット狂の2人と、不倫カップル、黒幕の男爵夫人
やがて列車は軍人たちが待ち伏せをしている場所に停車
クリケット狂①が降りようとするといきなり銃で撃たれそうになり
クリケットの試合の結果より事の重大さに気づきます
クリケット狂②は狙撃のプロで、交渉にやってきた敵の将校を気絶させ
不倫弁護士から奪った銃で次々と敵を撃ち殺しますが形勢は不利のまま
フロイはギルバートにスパイである事を告げ、もし自分が戻れなかったら
外務省に行き、この暗号を伝えてほしいとメロディーを口ずさみます
それはホテルでフロイがギター弾きから聞いていた曲でした
フロイは列車を飛び降り走り出しますが、狙撃されてしまいます
ギルバートは列車を逆進させるためクリケット狂①と運転席に向かい
不倫弁護士は白いハンカチを振り投降しますが射殺されてしまいました
分岐点が近くになると、気絶した将校の意識が戻ってしまいます
アイリスが将校の気を引く間、尼僧は線路のポイントを切り替えることに成功
食堂車に残された男爵夫人とハーツ医師は走り去る列車を見つめるだけでした
(将校はどうなった)
無事にイギリスに帰国すると、クリケット狂は洪水で試合が中止と知りがっかり
婚約者が駅で待つアイリスは
車の中に隠れギルバートと熱いキスを交わしていました
(婚約者の立場は?)
外務省に着いたギルバートは
アイリスとのキスで暗号をすっかり忘れてしまいます
しかし部屋に案内されると、そこには暗号のメロディをピアノで弾いている
笑顔のフロイの姿がありました(どうやってナチから逃げた)
列車という限られた場所での人が消えるミステリー、スパイサスペンス
銃撃戦に敵中突破というクライマックスの中にもユーモアも忘れないという
盛りに盛った見どころ満載
そして最後はキスで終わるハッピーエンド
007やん、これ007の原型やん(笑)
この作品で人気となったクリケット狂2人組は
その後も役名の「チャーターズとカルディコット」というコンビで
映画やテレビやラジオ番組で活躍したそうです
たぶんイギリス人には、たまらなく共感するものがあるのでしょう
ツッコミどころは満載だけど、ヒッチさんの手にかかればそれさえも愛嬌
列車も超特急というより、せめて急行(笑)
しかも最後まで、命がけで守った暗号が一体なんだったのか
わかりませんでしたとさ(笑)
【解説】KINENOTEより
列車内で貴婦人が消えた。そして謎の事件に巻きこまれるヒロインを描いたサスペンス作品。製作はエドワード・ブラック、監督は「ファミリー・プロット」のアルフレッド・ヒッチコック、原作はエセル・リナ・ホワイト、脚色はシドニー・ギリアットとフランク・ローンダー、撮影はジャック・コックス、音楽はルイス・レヴィが各々担当。出演はマーガレット・ロックウッド、マイケル・レッドグレイブ、ポール・ルーカス、メイ・ウィッティ、ノーントン・ウェイン、ベイジル・ラドフォードなど。