逃走迷路(1942)

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原題は「SABOTEUR」(破壊工作員
プロットは「北北西に進路を取れ」(1959)と同じですが
「北北西」が”ラシュモア山”ならこちらは”自由の女神
昔の映画は世界の有名観光所案内の役割も果たしていました(笑)

軍需工場が火事になり、謎の男に渡された消火器の中身がガソリンだったため
消火活動にあたった同僚が焼死してしまいます
その日から主人公バリーは破壊活動を行ったテロリストとして
警察に追われる身になるのです

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これもヒッチさんお得意の巻き込まれ型サスペンスなのですが
そこにソ連社会主義共産主義)打倒の思想が絡み
テロリストは「白鳥の湖」を口ずさむというわかりやすさ(笑)

主人公を助けるのが盲目の老人や、サーカス団のフリークスなのは
ナチス政権の「強制断種政策」や「障害者安楽死政策」の批判で
そこだけ異質でドラマチックなのは、別の脚本家のアイディアだったそうです
ドロシー・パーカー=父親はドイツ系ユダヤ人)

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展開は
カリフォルニア州グレンデールの軍需工場で働くバリー
工場で出会う見知らぬ謎の男フライ~親友の死
親友の母親、ご近所の奥さん~逃亡

人の好いトラックの運転手〜黒幕は大牧場主
ソーダシティに向かう」の電報~逃走

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盲目の紳士と姪のメイ(おやぢギャグじゃないよ)
メイは「市民の義務」と警察にバリーを引き渡そうとしますが
(車のファンで手錠が切れるか! 笑)
捜査網を潜り抜け、寒い中抱き合ううち惚れてしまう

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サーカス団~廃墟の街ソーダシティ~ダムで破壊工作を知る
バリーはメンバーになりすましニューヨークの豪邸のパーティ
(パットはいつソーダシティから抜け出した)

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オークション好きのマダム
地下に監禁されスプリンクラー作動
(バリーはどうやって地下から脱出した)
(閉じ込められているパットはルームサービス利用 笑)

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ブルックリンの進水式で戦艦爆破の工作
造船所でフライともみ合い~ロックフェラー・センター自由の女神像
パットが追いかけ、バリーとFBIが後から追う
(いつの間にバリーとFBIは仲間になった 笑)

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足を滑らせたフライを助けようとするバリー
バリーの潔白を告白~袖が破れて落下
ジ・エンド

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カメオは1時間43分頃、雑貨屋の前で通行人と話しているヒッチさん
看板や本のタイトルでメッセージを伝える手法は素敵

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共産主義ナチス批判という政治的背景がありながらも
戦争中にこれだけの娯楽作品を撮れたのはさすがアメリ
戦時下の日本の国策映画は見たことがありませが
このように楽しませてくれる作品はそうないでしょう

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その理由はこの当時のアメリカ映画が「大衆賛歌」を描いているから
無実の男が立ち向かうのは社会的地位があり、代々金持ちのような人々
助けるのは労働者や障害者(赤ちゃんも 笑)という社会的弱者
ロック・フェラーに自由の女神は「自由と民主主義の国アメリカ」の象徴

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とはいえ、実際そんな難しいことは一切考えず楽しめるのがヒッチさん
ご都合主義な「ツッコミ」どころ発見もクセになります(笑)

 


【解説】allcinemaより
ヒッチコックがセルズニックからユニヴァーサルに貸し出されて撮った戦中の作品で、主演者への不満はあるが、クライマックスの自由の女神のシーンの素晴らしさが多少の不備は忘れさせる。監督でもあるN・ロイド(本篇の製作者でもあるF・ロイドの息子)の悪役が、必死の形相でしがみつく女神の指股からジリジリと滑っていく、あのスリル! ヒッチ集大成「北北西に進路を取れ」に較ぶれば、無実の罪を被った男が真犯人を突き止める、十八番のストーリーもいささか未整理で、そのラストを効果的ならしめるために奉仕するにすぎない。航空会社に勤務するバリー(カミングス)は、軍需工場への破壊工作(光と影の生きた見事な放火シーン)の濡れ衣を着せられ、手錠のまま逃亡の身となるが……。真犯人を自ら捜し出そうとするヒーロー、それを助けるヒロイン。二人の危機的状況がほぼパラレルに描き出されるのがヒッチらしくない(それが絶妙に一本に縒り合わされてこそ彼のタッチだ)という気もする。