「それが君の魅力だけれど」
原題も「ROPE」
1924年、シカゴ大学の裕福な学生で同性愛関係だった
ネイサン・レオポルドとリチャード・ローブ(通称レオポルドとローブ)が
14歳(ウィキでは16歳)のボビー・フランクスを誘拐し殺害した事件がモデル
レオポルドは、ニーチェの「スーパーマン」(超人思想)に魅了され
自分とローブもその並外れた能力を持つ超越的な個人であると解釈し
平均的な民衆は重要でなく、社会を縛る法律やルールの上に立つ存在で
何の責任も負う必要がないと主張しはじめます
やがて放火を含む深刻な犯罪に進んでいきますが注目されず
「スーパーマン」としての自己認識の地位を確認するため
身代金目的を装ったボビー・フランクスの殺害だったのです
しかし当時は教会などの意見が強く、検閲も厳しかったため
ふたりの偏執性や同性愛について言葉で表現できず、暗示さえできない
男友達としてふたりで旅行した、など暗に匂わせるだけが精一杯だったという
アーサー・クランツ(脚本)の苦労があったようです
ヒッチさんのリアルタイム進行サスペンスとしても名高い作品で
当時は前代未聞の「1リール(約10分)を1ショットで編集ナシ」という
この撮影方法でも話題になったそうです
カメラはジョセフ・ヴァレンタイン
ヒッチさんの登場は冒頭の通行人
テーマは、優性(優者)と劣性(劣者)
高層高級マンションの一室で、大学生のブランドン(ジョン・ドール)と
フィリップ(ファーリー・グレンジャー)が
友人で同級生のデイヴィッドを絞め殺します
理由は「劣った人間は生きている価値はない」から
死体を衣装箱に入れ、その上に燭台や食事を置いたあと
デイヴィッドの父親や婚約者のジャネット
共通の友人であるケネスらを呼んでパーティーを始めます
(ケネスはブランドンにとって優性人種なのだろう)
すこし遅れて恩師のルパート(ジェームズ・スチュワート)がやって来ると
頭のキレる彼はすぐに、何やら不審なもの感をじます
ヒロインはこの頃のヒッチさんには珍しくブルネット
その代わりブロンドは美男子だけに使ったというのは面白い(笑)
ジミーはまるで刑事コロンボ(笑)
追及の仕方がやけに遠回しでねちっこいんですよ
気の弱いフィリップはすぐに挙動不審になり
自分は完璧だと思っているブランドンも次第にイラついてくる
やがて完全犯罪のほころびがいくつも見えてくるのです
この作品の大きな特徴でもある、演劇に極めて近い演技や
ラストの大芝居になる下りが(ジミーはブロードウェイ出身だったのね)
好きか嫌いかで評価は分かれると思いますが
ジミーの前で(名前が同じ)ジェームス・メイスンや
ケーリー・グラントの「汚名」の話題を出してきたのには
ヒッチさんらしい茶目っ気がたっぷりで嬉しい(笑)
殺人を犯したふたりが優性かどうかはわからないけど
知能の高すぎる人間に限ってオカルトにハマったり
偏執的な性癖があったり
猟奇的殺人の妄想に憑りつかれる人間がいることは確か
ほとんどの天才は、それがクリエイティブな仕事に繋がったり
才能が活かされ名声を得ることもあるでしょう
だけどどんなに優れた高級車でも
ブレーキの壊れた欠陥車がた出てくるんだろうな、きっと
【解説】allcinema より
1924年、シカゴで実際に起きたローブ&レオポルト事件を題材に、ヒッチコックが映画内の時間進行と現実の時間進行を同じに進めながら描いた実験的作品。舞台はマンハッタンにある、とあるアパートの一室。完全犯罪を完結させることにより、自分たちの優位を示すために殺人を犯したフィリップとブランドン。彼らは、殺人を犯した部屋に人を呼んでパーティを開く、というスリルを楽しみさえするが……。冷静沈着で、自分の力を誇示するが如く大胆な振舞いをするブランドンと、罪の恐怖から落ち着きのないフィリップ。二人の立場を巧みに利用し、おこないは違えども、どちらにも犯罪が暴露するような危うい行動をさせ、巧みにスリルを盛り上げていく手法はさすがである。この事件を題材にした他の作品にはリチャード・O・フライシャーの「強迫/ロープ殺人事件」や、T・ケイリンの「恍惚」などがある。