海外特派員(1940)

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原題も「FOREIGN CORRESPONDENT」(外国人記者)

ヒッチコックのハリウッド進出第二作目で、第二次世界大戦の直前に撮影された
(ドイツ系ユダヤ人)ウォルター・ウェンジャー製作の反ナチのプロパガンダ映画
とはいえ(ご都合主義な)シナリオは面白いし、カメラワークは秀逸
「ドイツ」や「ナチス」というワードを用いることなく
敵国として必要以上に侮蔑したり、揶揄する描写はありません
あくまで娯楽サスペンス第一主義を貫いた潔さ

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見送りに来た親戚の子に帽子を隠されてしまう
キルトについて熱く語るスコットランド男にラトビア語男を押し付ける
平和党の広報担当女性が毅然と演説する姿に惚れてしまい
手元でラヴレターを書くというトッポさ
序盤からヒッチさんの洒落たギャグが冴え渡ります

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中盤からラストにかけてはヒッチさんお得意の巻き込まれ型サスペンス
オランダでの黒い傘が連なる中での暗殺劇(めっちゃかっこいいシーン)
逆に回る風車中で目撃する敵国スパイの会合
ロンドンの寺院の展望台から突き落そうとして逆に転落
飛行機が砲撃され海に墜落し、水が操縦席のフロントガラスを突き破り
勢いよく流れ込んでくるワンカット撮影
空襲が続くロンドンで停電の中、米国向けのラジオに語り掛ける主人公
今でこそ特撮やCGで当たり前のシーンですが
当時の観客はこの迫力にさぞかし驚いたのではないでしょうか

カメオはホテルを出た主人公の前を、新聞を読みながら通るヒッチさん(笑)

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1938年、ニューヨーク・モーニング・グローブ紙の社長は
ヨーロッパ情勢を取材する特派員に不祥事でクビになりかけている記者
ジョン・ジョーンズ(ジョエル・マクリー)を指名します
社長室に呼ばれたジョーンズは平和運動の大物フィッシャーを紹介されます
ロンドンへ向かったジョーンズは、戦争防止の立役者でオランダの元老政治家
ヴァン・メアの歓迎パーティに出席します
そこでフィッシャーの娘のキャロル(ラレイン・デイ)に一目惚れ

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その後、アムステルダムの平和会議の取材に出かけたジョーンズの目の前で
ヴァン・メアがカメラマンを装った男に拳銃で撃たれ死亡します
雨の中、傘の間をぬって犯人は逃げ、待たせてあった車に乗り込み逃走
ジョーンズが通りがかりの車に無理矢理乗り込むと
車にはとキャロルと新聞記者のフォリオットが乗っていました

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カーチェイスの末、車は風車の集まる田園地帯にやって来ました
ジョーンズが風車の1つが奇妙な動きなのに気づき小屋へ忍び込むと
不審な男たちと、死んだはずのヴァン・メアがいました

ジョーンズは小屋から逃げだし、警官を呼びに行きますが
戻った時にはすでに痕跡は消され、昼寝している農夫がひとりいただけでした
(手に泥を塗る演出がニクい)

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仕方なくホテルに戻ると、警察官を装った2人組の男が訪ねてきます
ジョーンズは浴室から窓づたいにキャロルの部屋に入り
彼女に協力してもらい、船でロンドンに戻ることができました
ところがキャロルを送ってフィッシャーの家へ行くと風車小屋の農夫がいたのです
フィッシャーは男は情報を集めてくれる味方なのだと釈明し
真相を知りすぎたジョーンズを危険から守るため、護衛の私立探偵をつけます
男は教会塔からジョーンズを突き落とすため雇われた殺し屋でした
しかし男は誤って自ら展望台から墜落してしまい
ジョーンズは、フィッシャーがヴァン・メア誘拐の黒幕だと気づきます

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ジョーンズはフォリオットと協力してヴァン・メアの救出に成功しますが
拷問によりヴァン・メアが開戦の暗号を告白した後でした

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開戦の号外がとびかい、アメリカへ帰国する飛行機にジョーンズが乗ると
フィッシャーとキャロル父娘も同じ飛行機に乗りあわせていました
アメリカに着いたら逮捕されると察したフィッシャーは
キャロルに自分はイギリス人ではなく、敵国のスパイだったことを打ち明けます
その時、軍艦の攻撃を受け飛行機は洋上に不時着
浮遊物につかまっていたフィッシャーは(重量オーバーのため)
キャロルたちを助けるため、海に飛び込み自ら死を選びました

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アメリカ軍に救助されたジョーンズとキャロルたちは
事件を伏せようとするアメリカ軍をゴマかし、本社へ連絡し特ダネを報道
ロンドンに戻ると空襲を受ける中、アメリカ向けのラジオ放送で雄弁に戦況を伝え
「明かりが点っているのはアメリカだけです」
「最後の希望の灯を消してはいけません」と呼びかけるのでした

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この戦時高揚のメッセージで終わる(蛇足な)ラストシーンは
完成後に追加されたカットということですが

80年前にこれ程の作品を作ったヒッチコックはやっぱり天才
今見ても鳥肌物の傑作に間違いありません

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【解説】KINENOTEより
第二次世界大戦直前のヨーロッパを舞台に、アメリカの新聞社から派遣されてきた特派員が巻き込まれる殺人事件と不穏な社会情勢を描いたサスペンス映画で、かつてTVで放映されたが劇場では初公開である。製作はウォルター・ウェンジャー、監督はアルフレッド・ヒッチコック、脚本はチャールズ・ベネットとジョーン・ハリソン、撮影はルドルフ・マテ、音楽はアルフレッド・ニューマンがそれぞれ担当。出演はジョエル・マクリー、ラレイン・デイハーバート・マーシャル、ジョージ・サンダース、アルバート・パッサーマン、ロバート・ベンチリーなど