あんのこと(2024)

話題作の配信が話題になっていたので(笑)

 

ヨーロッパ映画には救いようのない絶望映画が多々ありますが

邦画でここまで見る側に感情を強要しない作りは珍しい

人が犯罪を犯すにはそれぞれの家庭の事情があるのかも知れませんが

個々の過去も、本当の気持ちも、ほとんど描かれません

私的には(犯罪をファンタジーにしてしまう)是枝裕和より好感持てました

児童が不登校になったり、徘徊や万引きで捕まったとき

早い段階で調査や保護をしてよさそうなものだけど

学校も、警察も、地公体も、地域の住民も

よその家庭の事情には口を出さないという

日本の文化が生み続ける悲劇

売春麻薬の売買で逮捕された21歳の香川あん”(河合優

警視庁の多々羅刑事佐藤二朗)が主催する更生プログラムで

ヨガセミナーの「サルベージ」を受けるようになり

彼の友人であるジャーナリスト桐野稲垣吾郎助けもあり

徐々に心を開くと、自分の過去を打ち明けます

 

あんはホステスの母親と足の悪いという祖母と3人暮らし

幼いころから酒に酔った母親から虐待され

小学4年生不登校になり

12歳から母親売春をさせられたこと

16歳で男麻薬を打たれ、麻薬の売をはじめたことを告白します

明らかに母親の後ろには反社会勢力がいて

母親とあんを操っているわけですが、そのことには一切ふれません

 

また母親は祖母には暴力を振るわず

あんのことを「ママ」と呼び、あんが祖母の面倒を見てるようです

(ヤングケアラーでもあったのだろう)

祖母がまだ65歳にもかかわらず一切動かないことにも触れません

(あんがケーキを買ってきたときには嬉々として食べたので

口がきけないわけでも、寝たきりでもなかった)

多々羅刑事は役所に掛け合い

あんを女性自立支援施設(DVシェルター)に入居させます

高齢者介護施設で働くようになり、夜は夜間学校に通い勉強する

職場や学校の仲間とも打ち解け、充実した日々を送るようになりますが

 

多々羅がセミナーに通っていた雅(みやび)という女性を恐喝し

「性被害にあっていた」と告発され

特別公務員暴行陵虐容疑(公務員の暴力や性暴力による犯罪)で

逮捕されてしまいます

 

桐野は多々羅が麻薬常習犯の更生という名目で

セミナーに通う女性たちに性加害をしているという匿名のタレコミから

(撮影には実際の文春編集部が使われている)

スクープを手に入れようと多々羅に近づいていただけなのです

「あんちゃんは大丈夫だった?」

 

あんが多々羅から性的被害にあったかどうかは語られません

でももし、あんが多々羅と寝ていたとして

彼の逮捕がショックだったとしたら

多々羅が他の女性にも同じことをしていた、ということ

 

信じていたのに、愛されていると思ったのに

所詮他の男と同じだった

自分はただの道具なのだと

さらにコロナによ緊急事態宣言

仕事にも学校にも行けなくなってしまいます

それでもドリルや、日記を書くことを頑張るあん

 

そして不本意ながら「男とトラブった」隣人の子ども

隼人を預り面倒を見るようになったことが介護施設での仕事が役に立つ 笑

生きがいになっていきます

 

しかし隼人と出かけていたところを偶然母親に見つかり

ババアがコロナになって大変だと(嘘をつき)

再び売春を強要されてしまいます

元締めがいるんでしょうね

あんが身体を売ったお金を持って帰ると隼人がいませんでした

母親は泣いてうるさいので

児相(児童相談所に引き取ってもらったと言います

(連れてったのが反社でなく児相なのは助かったがな)

 

母親も、母親の周りの男たちも

多々羅も、桐野も、みんな汚い

綺麗な心の持ち主は隼人だけ

悲しければ泣き、嬉しければ笑い

美味しければ食べ、いっぱいうんちをして、寝る

あんにとって唯一の聖人

その隼人がいなくなってしまった

 

途方に暮れて夜明け前の街を彷徨い、アパートに戻る

クスリを打ち、日記を燃やすが隼人のページだけとっておく

それからベランダの扉を開ける

享年25

留置所の多々羅に面会に行った桐野は

「俺が記事を書かなければあんを救えたか」尋ねます

多々羅は「麻薬常習犯は自殺はしない」

「あんが死んだのは自責の念だと涙を流したのでした

 

私は逆に「自分の行動や選択」が自分の望むように選べない

絶望によるものだったと思います、今は

 



【解説】映画.COMより

売春や麻薬の常習犯である21歳の香川杏は、ホステスの母親と足の悪い祖母と3人で暮らしている。子どもの頃から酔った母親に殴られて育った彼女は、小学4年生から不登校となり、12歳の時に母親の紹介で初めて体を売った。人情味あふれる刑事・多々羅との出会いをきっかけに更生の道を歩み出した杏は、多々羅や彼の友人であるジャーナリスト・桐野の助けを借りながら、新たな仕事や住まいを探し始める。しかし突然のコロナ禍によって3人はすれ違い、それぞれが孤独と不安に直面していく。
「少女は卒業しない」の河合優実が杏役で主演を務め、杏を救おうとする型破りな刑事・多々羅を佐藤二朗、正義感と友情に揺れるジャーナリスト・桐野を稲垣吾郎が演じた。

2024年製作/113分/PG12/日本
配給:キノフィルムズ